第16話-翠葉国

...泉達が、牢屋の中で目覚める前。

神緑の柱樹シェフォル・ネザターク、王宮。

「父上!何故彼らを牢へ幽閉したのですか!」

「何故?余の子である其方を誑かした不心得者共を牢に入れるのに、別の理由を用意してやる必要もなかろう」

王である父の言葉に、隣に座る王妃、つまり母が頷く。

この二人は少々、いや、国を治める者として、かなり、不安にさせるレベルの過保護である。

何がそうさせたかは知らないが、兎に角、独占欲と言えるほどに過保護。

(今の二人に何を言っても、受け入れてくれないんだろう)

「其方に近付かんとする邪な者達は余等が叩き落としてみせよう」

「タマ、貴方は安心してお部屋で待っていてね」

「っ......」

タマは、礼もせず、その場を去った。

そう、タマはここ、翠葉樹海グロッシュラーフォレストにある国、翠葉国・ケーラリズの王子。

名をタマ・レイヴィス=ケーラリズという。

国王アメカンを父、王妃フォレスティアを母に持つ。

二人は幼馴染であり、強き者が国を治めるという風習に、二人して生き残り今に至る。

つまり、二人は国内最強。

そんな二人をどうにかして説得し、泉達を解放したいのだが。

(あれじゃ、話も通じない...)

二人のかけた加護のせいで泉達には触れない。

また、襲撃時の最後のようになってしまう。

もしそうなれば...

(...彼らの立場を悪くしてしまう)

一番彼らにリスクがない方法、いや、何をしようと、彼らの所為にしようとするだろう。

子供のためなら厭わない、そんな人だ。

「...真っ向勝負」

現実的では無い、そも、まともに取り合ってくれるのかどうかすらも。

だが、勝つアテはある。

(迷ってはいられない、最悪の結末になるとも限らないけれど、ならない訳でもない)

ならば...

「リスクは限りなく小さくするべき」

(あの人達は僕の為に合わせてくれた)

旅慣れしていないタマに歩幅を合わせて歩いてくれていた。

たった二日しか共に歩んではいないが、それでも、泉達がタマを仲間として見ていたのは事実だ。

(...僕は、皆を助けに行くんだ...!)

皆の為に、そして、自分の自由の為に。

目指すは最古最大の翠葉樹、神緑の柱樹シェフォル・ネザタークの根。

つまり、この王宮の地下最下層。

.........。

(地下に一番手っ取り早く行ける場所、屋外だと地下牢からだけだし、牢の様子を見ていけるかも...!)

ただ、それには見張りを何とかする必要があるが。

(...大丈夫...!僕だって、見張りの兵士より強いだろ!)

騙すための手段が今無い以上、戦うしかない。

「そこ、通してくれない?」

正面切って兵士に声を掛ける。

「これは、殿下!申し訳ありません、国王様より、決して通すなとの仰せで...」

「だろうね、だから僕はね、力ずくで通りに来たんだよ」

「え...」

顔面に掌を急接近させ視界を奪う。

「でん、か...」

兵士の意識を一瞬にして落としたタマは、地下牢への扉をくぐった。

//////

「どう?リフリ」

「ああ、いつでも行ける」

「よし、じゃあ...」

「待て...足音がする」

仙道を溜め、檻を焼き切ろうとしていたリフリを、神天が止めた。

そして、足音はこちらへ駆けてくる。

「皆!」

足音とともに顔を出したのはタマだった。

「タマ!どうしてここに!?」

「皆が心配だったからに決まってる!...けど、僕じゃここから出せないし、皆に触れたら、また呪いが...」

「案ずるな」

今度は、リフリが言葉を遮る声を上げた。

「蓮、熱が足りん、向こうに回って同時に格子を焼け」

「はいっす!任されたっすよ!」

そう言って、蓮は檻をすり抜け、リフリに合わせる態勢でいる。

蓮の本質は炎であり、本来は不定形である、が、そんなことを気にする人は今ここにいないだろう。

檻をすり抜ける時には炎に戻っているのだから、考えずとも分かることでもあろう。

「...行くぞ」

リフリが炎を纏わせた指を薙いだ。

同時に蓮も同じ動作をした。

すると、赤熱した断面を見せて、鉄格子が焼き切れ、倒れた。

「うん、脱獄成功だね!...あれ、タマは...?」

タマを探し、泉が辺りを見回すと、少し離れたところにいるタマを見つけた。

「えっと、そこで何してるの?」

「えっ、いや...あの炎の人は、いつも出てるのかい?」

「うーん、いつもって感じじゃないけど...?」

どこか胸を撫で下ろしたかのような表情を浮かべている。

「二人してそこで何してるんだ」

中々動こうとしない泉とタマに痺れを切らしたのか、神天が声を掛けた。

「見張りが来る前にさっさと離れるぞ」

下へ続く階段を神天が歩いていく、リフリは既にその先にいた。

「待って!上に行けば外に出られるよ!」

タマが少し困惑した様子で叫ぶ。

「そうだろうな、だがその先のことを俺達は知らない、どこに見張りがいて、どこを行けば安全なのか、そんな中、広大な外に出ればまたすぐここに後戻りだ」「それなら僕が...」

案内する、そう言うつもりだったのだろうが...

「...それに、さっきから道の奥をチラチラ見ているからな、奥に進むつもりだろう?それなら、俺達もついて行く」

「...なんで...すぐそこから逃げられるのに...」

「一時的でも、今私たちは仲間なの、仲間置いたまま逃げられないでしょ!」

本当は翠葉樹海グロッシュラーフォレストに着くまでの関係だったが、今はそうも言っていられない。

理由はそれだけではない...

「それに、この先に何があるのか、私も気になるからね!」

...ただ、冒険したくなった、それだけだ。

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神話を詠む者 緋星 螢 @Hotaru_akeboshi

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