第47話:近代戦の完成形、戦国の終焉へ

 最上義光は、山形城の天守から、眼下で繰り広げられる絶望的な光景を、凍てついた表情で見つめていた。彼の「武士の道」が、氷を割るように砕け散っていく絶望の淵に、彼は今、立たされていた。


 義光は、自らの槍を握りしめ、最後の抵抗を試みようとするが、その手は、無力感と絶望で、かすかに震えていた。もはや天守から見ているだけでは、この敗北を認めてしまいそうだ。義光は、最後の意地として、自ら戦場へと赴くことを決意する。


「黙って見るなど、武士の道ではない! 義光、この身命を賭して、旧時代の武士の誇りを守り抜いてみせる!」


 義光の咆哮が、城内に響き渡る。家臣たちは、その決意に震え、涙を流しながらも、義光の背中を見送った。義光は、わずかな兵を連れて、雪原へと駆け出した。彼の胸には、武士としての最後の矜持が燃え盛る炎のように見えていた。


 しかし、義光の前に立ちはだかったのは、氏真率いる「鞠武衆」だけではなかった。彼らの背後には、鍛え上げられた筋肉を持つ今川軍の主力部隊が、雪崩のように進軍してきた。彼らの足元からは、雪煙が舞い上がり、まるで白い竜が大地を駆けているかのようだった。その兵士たちは、氏真の鞠武衆と同じように、引き締まった肉体を誇っていた。彼らは、泥に足を取られることなく、雪上を滑るような異常な機動力を生み出していた。


「化け物は若君だけじゃなかった……!」「今川の兵、全員筋肉だぞ!?」


 最上兵の間に、絶叫が響き渡る。彼らの顔には、恐怖と、得体の知れない畏怖の表情が浮かんでいた。彼らが信じてきた「武士の道」は、今、目の前で繰り広げられる「筋肉の暴力」によって、音を立てて崩壊していく。


 義光は、自らの槍を握りしめ、今川軍へと突撃した。しかし、彼の槍は、今川軍の兵士たちが持つ、筋肉で動く巨大な車輪に粉砕された。その車輪は、筋肉の力で回転し、義光の槍を、まるで木の枝のようにへし折った。義光は、その光景に絶望の淵へと突き落とされる。


「なぜだ……? なぜ、人の肉がこれほどまでに……!」


 義光の問いに、氏真は、雪煙を蹴散らし、槍を振るいながら答えた。「筋肉は、決して裏切りません! そして、この筋肉が、父上が築いた平和を守るための力なのです!」


 氏真の言葉は、義光の胸に、武士としての矜持と、新たな時代の到来という矛盾した感情を、激しくぶつけ合わせた。義光は、自らの武士としての常識が、目の前の「筋肉の暴力」によって、音を立てて崩壊していくのを感じていた。


 彼は、自らの武士としての生涯を振り返った。幼い頃から、武士の道を極めるため、槍を振るい、馬を駆り、戦場で血を流してきた。それが、彼にとっての「武士の矜持」だった。しかし、今、目の前にいる今川の兵士たちは、武士としての誇りも、血を流すこともなく、ただひたすらに「筋肉」を鍛え上げ、この戦場を支配していた。


 義光は、自らの武士としての常識が、目の前の「筋肉の暴力」によって、音を立てて崩壊していくのを感じていた。彼は、自らの槍を握りしめ、最後の抵抗を試みようとするが、その手は、無力感と絶望で、かすかに震えていた。

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