第43話:奥羽の雪、最終決戦の地へ
最上義光からの宣戦布告ともとれる狼煙が、雪深い奥羽の空に上がって以来、今川幕府は静かに、しかし確実に臨戦態勢に入っていた。清洲城の評定の間は、かつての天下統一を祝う喧騒とは打って変わり、張り詰めた緊張感に包まれていた。義元は、総大将に今川氏真を任命し、最上討伐の指揮を執らせることを決定した。
評定の間には、今川家の主要な家臣たちが顔を揃えていた。信長、家康、半兵衛、官兵衛といった歴戦の猛者たちも、義元のこの決断に、わずかな驚きと、しかし確かな納得の表情を浮かべていた。彼らは、この最終決戦が、単なる領地争いではないことを理解していた。これは、父が築いた「新時代」の理念を、息子が自らの手で完成させるという、壮大な歴史の結末でもあった。
義元は、上座で堂々と腕組みをしていた。その圧倒的な存在感に、誰もが息を呑む。義元の筋肉で隆起した胸板は、まるで鋼の鎧のように見え、その瞳には、平和のためには、時に非情な決断も必要であることを示す、冷徹な光が宿っていた。
「氏真よ。貴様には、この今川軍の総大将を任せる。最上義光を打ち破り、真の天下泰平を完成させるのだ」。
義元の言葉は、静かでありながら、有無を言わせぬ重みを持っていた。氏真は、以前のような臆病な様子もなく、堂々と父の前に進み出た。彼の顔には、日々の鍛錬で培われた、揺るぎない自信が満ちていた。その引き締まった肉体は、もはや武芸よりも蹴鞠や和歌を愛した貴公子の面影を完全に消し去っていた。
「ははっ! 御意にございまする! この氏真、父上の御期待に沿えるよう、身命を賭して、最上義光を打ち破りまする!」。
氏真の言葉に、義元は満足げに頷いた。彼の胸には、「氏真ならば、この最終決戦を乗り越えることができる」という確信が熱く膨らんでいた。この戦は、単なる領地争いではない。父が築いた「新時代」の理念を、息子が自らの手で完成させるという、壮大な歴史の結末でもあった。
義元は、氏真に最上討伐の策を授けた。それは、雪深い奥羽の地を主戦場とすることで、今川の近代装備と兵站の優位性を最大限に引き出す、合理的かつ非情な戦略だった。
「良いか、氏真。奥羽の雪は、我らの味方だ。雪に慣れぬ最上兵を翻弄し、我らの筋肉と近代装備の力で、奴らを圧倒するのだ!」。
義元の言葉に、氏真の瞳が大きく輝いた。彼の脳裏には、鍛え上げた肉体で、雪原を駆け巡り、敵を圧倒する部隊の姿が鮮明に浮かび上がる。それは、氏真の「文化への愛」と「武士としての誇り」という、異なる価値観が、今、父の言葉によって完璧に融合する瞬間だった。
評定を終えた後、義元と氏真は、清洲城の奥まった一室で、二人きりで向かい合っていた。静かな空間に、燃える囲炉裏の炎が、二人の顔を赤く照らす。
「氏真よ。筋肉とは、他者を傷つけるためのものではない。己を律し、他者を守る、理想の象徴なのだ」。
義元の言葉は、静かに、しかし深い重みを持って氏真の心に響いた。氏真は、父の言葉を、ただ静かに聞いていた。彼の胸には、父が築き上げてきた、この「筋肉泰平の世」という理念が、熱い血潮のように駆け巡っていた。
「……父上。あなたの筋肉は、私の魂にまで届いておりまする」。
氏真の声は、震えていた。それは恐怖ではない。父の偉大なる理想を、自らの手で完成させることへの、熱い感動と、そして、それに伴う重圧の震えだった。義元は、そんな氏真の肩に、優しく手を置いた。その手から伝わる温かさと、筋肉の確かな「圧」が、氏真の心を、さらに強く、確固たるものにしていった。
翌朝。今川軍の陣地では、雪上行軍の訓練が繰り返されていた。兵士たちは、泥まみれになりながらも、その顔には疲労の色はなく、未来への希望に満ちた笑顔を浮かべている。鉄製の足袋、筋力強化型の草鞋、そして、雪原対応型の補給制度。それはもはや、軍ではなく“冬季競技団体”のようであった。彼らの肉体と装備は、この雪深い奥羽の地を、まるで平地のように駆け巡るための、完璧な準備を整えていた。
そして、ついに。
今川軍の総力を挙げた遠征軍が、雪深い奥羽の地へと進軍を開始した。その先頭には、総大将・今川氏真が、愛用の蹴鞠を片手に、堂々と馬を進める。その後ろには、「筋肉と文化の精鋭部隊」、『鞠武衆』が、雪上を滑るような異常な機動力で続いていく。彼らの足元からは、雪煙が舞い上がり、まるで白い竜が大地を駆けているかのようだった。
氏真の胸には、「父上の理想を、この手で完成させる」という、熱い使命感が満ちていた。それは、単なる戦ではない。義元が築き上げた「筋肉泰平の世」を、氏真が自らの手で守り抜くための、最後の戦だった。
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