第39話:西国平定、毛利家との知略と筋肉の攻防

 真田昌幸を配下に加えた今川義元は、天下統一の次なる段階として、西国最大の大名、毛利家との交渉に乗り出した。毛利家は、中国地方をほぼ統一した大勢力であり、その水軍力は日本一を誇っていた。


 清洲城の評定の間。義元は、半兵衛と官兵衛を前に、西国の地図を広げていた。部屋には、日の光が差し込み、磨き上げられた畳の香りが微かに漂っている。しかし、義元の肉体から放たれる熱気と、張り詰めた空気のせいで、家臣たちの額には、早くも汗が滲み始めていた。


「半兵衛、官兵衛。西国平定は、無益な血を流さずに成し遂げる。毛利家を、武力ではなく、知略と『筋肉の圧』で屈服させるのだ」


 義元の言葉に、半兵衛が静かに頷いた。「ははっ。毛利家は、その経済力のほとんどを水軍に頼っております。陸路と海路を同時に封鎖し、経済的な圧力をかければ……」。


「そうだ。そして、その交渉の席には、貴様らと、そして……」


 義元は、そう言い放つと、自らの隆起した上腕を指さし、ニヤリと笑った。


 数日後。毛利輝元は、今川の使者として訪れた半兵衛と官兵衛を、広島城で出迎えた。輝元は、義元の「筋肉理論」と、それがもたらす圧倒的な「結果」の噂を耳にしており、その顔には強い警戒心が浮かんでいた。城内は、潮の香りが微かに漂い、遠くで波の音が聞こえてくる。輝元は、義元の奇策と、その背後にある圧倒的な力を前に、強い違和感と、得体の知れない恐怖を抱いていた。


「さて、本日は今川義元公からの使者として、参った次第でございます」


 半兵衛が、恭しく頭を下げた。輝元は、二人の言葉に耳を傾けながらも、内心では、義元という男が、いかにして彼らを屈服させたのか、その「理屈」を知りたいと強く思っていた。


 半兵衛と官兵衛は、義元の緻密な調略に基づき、毛利家に対して、経済的な圧力をかけ始めた。今川の強大な経済力と、南蛮貿易で得た富は、毛利家の財政を徐々に蝕んでいく。さらに、義元の「筋肉理論」を応用した「筋肉外交」は、毛利家中の家臣たちに、義元への「畏怖」と「期待」を同時に抱かせた。


 そして、ついに。毛利輝元は、今川義元との直接会談に応じることを決意する。


 会談の場には、上半身裸で現れた義元が、堂々と座っていた。その隆起した大胸筋と「筋肉は天下を制す」という口上を前に、輝元は、言葉を失う。義元の「筋肉の圧」は、輝元の「武力」という価値観を根底から揺さぶり、無力感を与える。


「毛利輝元殿。貴様には、二つの道がある。一つは、このまま経済的に疲弊し、やがては滅びる道。もう一つは、我ら今川の傘下に入り、共に『筋肉泰平の世』を築く道だ」


 義元の言葉は、輝元の「毛利家の存続」という価値観に、「筋肉と合理」という新たな手段を突きつけた。輝元は、悔しさ、屈辱、そして抗いがたい「新たな強さ」への誘惑に、拳を握り締め、全身を震わせた。


 やがて、輝元は、深く、深く息を吐き出すと、ゆっくりと、しかし確実に義元の前でひざまずいた。


「……お見事。お供いたしまする、義元公!」


 輝元の口から出たその言葉は、西国の雄が、武力ではなく、「知略と筋肉」によって屈服した瞬間を告げていた。中国地方の覇者、毛利輝元が、今、「筋肉覇王」今川義元の前に、その頭を垂れたのだ。

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