第40話:九州の猛者たち、筋肉に絆される
毛利家を無血で屈服させた今川義元は、天下統一の最終段階として、九州平定に乗り出した。九州には、立花道雪や島津家といった、名だたる猛者たちが割拠しており、彼らを武力で従わせるのは至難の業だった。しかし、義元は、ここでも「無益な血を流さない」という信念を貫く。彼の脳裏には、いつかの未来に、この日本を戦なき世に変えなければならないという確固たる使命感が燃え盛っていた。
清洲城の評定の間。義元は、家臣たちを集め、堂々と腕組みをしていた。その圧倒的な存在感に、家臣たちは皆、息を呑む。部屋には、日の光が差し込み、磨き上げられた畳の香りが微かに漂っている。しかし、義元の肉体から放たれる熱気と、張り詰めた空気のせいで、家臣たちの額には、早くも汗が滲み始めていた。
「半兵衛、官兵衛。九州平定は、武力ではなく対話で成し遂げる。彼らにも、我らの『筋肉の福音』を届けるのだ」。
義元の言葉に、半兵衛が静かに頷いた。「ははっ。立花道雪は、義を重んじ、島津家は、その武勇を誇る一族。いずれも、殿の『筋肉理論』に強く共鳴する可能性がございます」。
「フッ……その通り。ならば、まずは立花道雪からだ。貴様ら、九州へ赴き、立花道雪を説得して参れ。その際、我らの『筋肉士官学校』の成果を存分に見せつけるのだ!」
義元の言葉に、半兵衛と官兵衛は、互いに顔を見合わせると、やがて深く頷いた。彼らの胸には、「またもや、殿の奇策か」という戸惑いが浮かぶ。彼らは、義元の「筋肉理論」が、いかにして九州の猛者たちに通用するのかを測りかねていた。
数日後。立花道雪は、今川の使者として訪れた半兵衛と官兵衛を、居城で出迎えた。城内には、遠くで雷鳴が轟き、湿った南風が城内を抜けていく。道雪は、二人の天才軍師が、今川義元の配下に入ったという噂に、強い違和感を抱いていた。そして、二人の引き締まった肉体と、時折見せる奇妙な鍛錬の動きに、さらに困惑を深めていた。
「さて、本日は今川義元公からの使者として、参った次第でございます」。
半兵衛が、恭しく頭を下げた。道雪は、二人の言葉に耳を傾けながらも、内心では、義元という男が、いかにして彼らを屈服させたのか、その「理屈」を知りたいと強く思っていた。彼の脳裏には、義元の「筋肉理論」が、いかにして彼の武士としての価値観を覆すのか、その思考が渦巻いていた。
半兵衛と官兵衛は、義元の命の通り、立花道雪を今川の『筋肉士官学校』へと案内した。そこで道雪が目にしたのは、若き武将たちが泥まみれになりながら、異様な鍛錬に励む光景だった。彼らの肉体は、まるで鋼のように引き締まり、その瞳には、未来への確信が宿っている。彼らが発する力強い掛け声と、泥が跳ねる音、そして汗の匂いが、道雪の五感を刺激する。
「な、なんだ、これは……!?」
道雪は、その異常な光景に、強い違和感と、得体の知れない恐怖を抱いた。彼の「武勇」という価値観が、目の前の「理不尽なまでの筋肉の力」によって、根底から揺さぶられる感覚だ。彼の胸では、「今川の強さは、噂の筋肉なのか?」という「困惑」と「この力を使えば、立花家は安泰かもしれない」という「期待」が激しくぶつかり合っていた。
やがて、道雪は、深く、深く息を吐き出すと、ゆっくりと、しかし確実に半兵衛と官兵衛の前でひざまずいた。彼の顔には、敗北の悔しさよりも、新たな「義」の道を見出した者の、静かな感動が浮かんでいた。
「……お見事。お供いたしまする、義元公!」。
道雪の口から出たその言葉は、九州の猛者が、武力でも知略でもなく、「筋肉」という異形の理屈に屈服した瞬間を告げていた。九州の雷神、立花道雪が、今、「筋肉覇王」今川義元の前に、その頭を垂れたのだ。
立花道雪の臣従は、九州全土に衝撃を与えた。道雪という九州一の猛者が、武力ではなく「筋肉」によって屈服したという事実は、九州の武将たちに、今川の「新たな強さ」を強く印象づけた。特に、道雪の盟友であり、武勇を誇る島津家の人々は、この事実に大きな衝撃を受けていた。
だが、島津家は、未だ沈黙を守っていた。
義元は、島津家に対し、武力ではなく、立花道雪との連携を深めることで、島津家の経済力を徐々に蝕んでいくという、緻密な調略を繰り広げた。島津家は、道雪の臣従によって、九州における経済的な孤立を深め、次第に追い詰められていく。そして、ついに。島津義久は、今川義元との直接会談に応じることを決意する。
会談の場には、上半身裸で現れた義元が、堂々と座っていた。その隆起した大胸筋と「筋肉は天下を制す」という口上を前に、義久は、言葉を失う。義元の「筋肉の圧」は、義久の「武勇」という価値観を根底から揺さぶり、無力感を与える。
「島津義久殿。貴様には、二つの道がある。一つは、このまま経済的に疲弊し、やがては滅びる道。もう一つは、我ら今川の傘下に入り、共に『筋肉泰平の世』を築く道だ」。
義元の言葉は、義久の「島津家の存続」という価値観に、「筋肉と合理」という新たな手段を突きつけた。義久は、悔しさ、屈辱、そして抗いがたい「新たな強さ」への誘惑に、拳を握り締め、全身を震わせた。
その背後で、島津家の家臣たちは、黙して見つめていた。誰もが、口を開くことも、義久を諫言することもできない。ただ、無言で、その場に立ち尽くす。彼らの視線は、虚空を彷徨い、もはやこの場が、彼らの信じてきた「武士の道」とはかけ離れた、未知の領域であることを示していた。家臣たちの表情は、諦めと、そして新たな時代への畏怖に満ちていた。
やがて、義久は、深く、深く息を吐き出すと、ゆっくりと、しかし確実に義元の前でひざまずいた。彼の顔には、もはや戦意はなく、ただ、燃え尽きた男の、静かな諦観が浮かんでいた。
「……島津の剣は……この胸筋に勝てぬか……。お供いたしまする、義元公」。
義久の口から出たその言葉は、武勇を誇る島津家が、武力でも知略でもなく、「筋肉」という異形の理屈に屈服した瞬間を告げていた。九州の猛者たち、立花道雪と島津家が、今、「筋肉覇王」今川義元の前に、その頭を垂れたのだ。これをもって、天下統一の偉業は、ついに完成した。
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