戦国マッスル無双～今川義元編～

第26話：外交の舞台裏、筋肉と策略

「外交とは、言葉の応酬ではない。相手の心に、揺るぎない確信を植え付けることだ」

今川義元は、清洲城の一室で、半兵衛と官兵衛を前に静かに語りかけていた。彼の言葉は、彼らが日々の鍛錬で培った筋肉の力を、別の形でどう使うかという問いでもあった。

「では、殿。次に会談が予定されております美濃の斎藤殿の当主、斎藤義龍の性格について、我らが調べた情報でございます」

半兵衛が地図を広げ、義龍の「猜疑心が強く、情に訴えるよりも実利を重んじる」性格を説明する。官兵衛は、「武力で対抗するには分が悪く、経済的にも今川に依存しつつある現状を把握しております」と続けた。

「ふむ……実利か」

義元は、二人の軍師の報告に頷いた。彼の脳裏には、義龍の性格という「点」が、「どうすれば最も効果的に屈服させられるか」という「思考」に繋がり、熱い血潮のように感情を膨らませていくのを感じていた。義元の「無益な戦を避け、合理的に天下を統一する」という価値観が、この外交戦略を必然的なものとしていた。

「では、官兵衛」

義元の声に、官兵衛が居住まいを正した。

「会談の場所は、斎藤殿の領地に近い、我らの『筋肉士官学校』にする。そして、会談の前に、若き武将たちの鍛錬風景を見せるのだ」

義元の言葉に、半兵衛と官兵衛は互いに顔を見合わせた。彼らの顔に、「またもや、殿の奇策か」という戸惑いが浮かぶ。彼らは、義元の「筋肉理論」が、外交という最も繊細な舞台で、どう機能するのかを測りかねていた。

「そして、会談の席には……」

義元は、そう言い放つと、自らの隆起した上腕を指さし、ニヤリと笑った。その筋肉の躍動は、半兵衛と官兵衛の心臓を直接掴まれたかのような「身体性」を伴う、力強い「期待」を与えた。

「おれも、上半身裸で出る！」

義元の言葉に、半兵衛と官兵衛は、一瞬にして顔面蒼白となった。彼らは、義元の「常識外れの行動」に慣れていたはずだったが、外交の場でまさか殿が上半身裸になるとは、彼らの思考の範疇を超えていた。

「は、ははっ！ 殿！ それは、あまりにも……」

半兵衛が、言葉を詰まらせながら諫言しようとしたが、義元はそれを手で制した。

「愚か者め。貴様らは知らぬのか。筋肉は、言葉よりも雄弁だ！ 言葉巧みな口上など、たかが知れておる。だが、俺の筋肉は、理屈を超えた説得力を持つ！ これぞ、『筋肉外交』の真髄と知れ！」

義元の高らかな声が、部屋に響き渡る。半兵衛と官兵衛の胸では、「殿は狂っているが、この策略、もしかしたら……」という「戸惑い」と「期待」が激しくぶつかり合うのを感じていた。

やがて、会談の日。

斎藤義龍は、今川の「筋肉士官学校」で、若き武将たちが泥まみれになりながら、異様な鍛錬に励む光景を目の当たりにする。その光景は、彼がこれまで見てきた戦国の武士たちとは、あまりにもかけ離れていた。彼らの肉体は、まるで鋼のように引き締まり、その瞳には、未来への確信が宿っている。

「な、なんだ、これは……！？」

義龍は、その異常な光景に、強い違和感と、得体の知れない恐怖を抱いた。

そして、会談の席。上半身裸で現れた義元の、隆起した大胸筋と「筋肉は天下を制す」という口上を前に、義龍は、ついに膝を屈する。義元の「筋肉外交」は、斎藤義龍の「プライド」を打ち砕き、今川への従属を「必然的な結果」として生み出したのだ。

「は……ははっ！ 御意にございまする！ この義龍、殿の御理想に殉じまする！」

義龍は、深々と頭を下げた。彼の心には、「武力で対抗するよりも、この異形の強者に従う方が賢明だ」という、新しい価値観が芽生えていた。

それは、まさしく戦国の常識が、筋肉と合理によって打ち砕かれた瞬間だった。