第三部:筋肉幕府、改革の嵐と新常識の胎動

第25話:武士道の変革、筋肉と知恵の道

清洲城に設立された「筋肉士官学校」は、日ごとにその活気を増していた。朝焼けの光が差し込む校庭では、若き武将たちが義元直伝の鍛錬に励み、その掛け声が清洲の空に響き渡る。泥が跳ねる音、筋肉が軋む音、そして男たちの雄叫び。清々しい汗の匂いが、あたりに満ちていた。彼らの額に光る汗は、未来への希望の雫のようだった。


だが、義元の視線は、まだ「武士の道」という旧弊に囚われている者たちに向けられていた。


評定の間。義元は上座で堂々と腕組みをしていた。その圧倒的な存在感に、家臣たちは息を呑む。


「さて、本日は今後の武士の役割についてだが」


義元の声が響くと、評定の間は静まり返った。


「貴様らは、武士の役割は戦うことだけだと考えておるな?」


義元の問いに、家臣たちは顔を見合わせる。誰もが「その通りだ」と心の中で答えていた。それが、この戦国の常識だったからだ。


「愚か者め!」


義元の声が、雷鳴のように響き渡った。家臣たちの体が、ビクリと震える。


「戦うことだけが武士の役割ではない! 今後、武士は、民を治め、国を豊かにし、新たな知恵を創造する者とならねばならぬ!」


義元は、そう言い放つと、自らの隆起した上腕を指さした。その肉体は、まるで硬質な岩石のようだった。


「良いか。戦の時代は、もうすぐ終わる。これからの時代は、刀を振るうだけでなく、筆を握り、民の声に耳を傾け、国の経済という筋肉を動かす者が、真の武士だ。そして、その知恵と行動力を支えるのが、健全な肉体だ!」


義元の言葉に、半兵衛と官兵衛の顔に、強い衝撃が走った。彼らは、義元の言葉が、戦国の世の「武士の価値観」を根底から変革しようとする、壮大な試みであることを理解した。


「ゆえに、この『筋肉士官学校』では、武芸はもちろんのこと、読み書き算盤、兵站、内政、外交といった『文の道』も徹底して学ばせる。未来の武士は、頭脳も筋肉も、どちらも超一流でなければならぬのだ!」


義元の言葉に、半兵衛と官兵衛は深く頷いた。彼らの胸には、「殿の理想は、単なる天下統一に留まらない。その先にある『新時代の創造』を本気で目指しておられるのだ」という、新たな「感情の膨張」が、熱い血潮のように駆け巡った。それは、彼らの知的好奇心と主君への忠誠心を同時に満たす「喜び」へと「感情が分裂」していく感覚だった。


こうして、今川義元の指揮のもと、『筋肉士官学校』は、文武両道の武士を育てるための揺るぎない礎となった。若き武将たちは、机上で兵法を学ぶ傍らで、豆を煮詰めた栄養の汁を飲み干し、己の肉体を極限まで追い込んだ。


やがて、この学舎から巣立っていく者たちは、来るべき今川幕府を支える「文武両道マッスル武士」として、天下にその名を轟かせることになる。それは、戦国の世の終わりと、「筋肉と知恵」によって拓かれる、新たな武士道の始まりを告げる、静かな、しかし確かな一歩だった。

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