第15話:筋肉の使者、美濃へ向かう
武田信玄を「経済と筋肉」で屈服させ、今川義元の「筋肉統一」への歩みは、もはや止められる者がいないかのように見えた。今川の領地では、日々の「筋肉教育」が浸透し、農民から武士まで、皆が活力に満ち溢れていた。清洲城の義元の元には、連日、諸国から「義元公の御教えを乞いたい」と、面会を求める者たちが引きも切らない。
そんな中、義元は、自らの隆起した胸板を誇示するように、堂々と腕組みをしながら、地図を広げていた。彼の視線は、濃尾平野の真ん中、かつて信長と争った美濃の国に注がれている。
「半兵衛よ」
義元の声が響くと、隣に控える朝比奈泰朝がビクリと肩を震わせた。最近、殿が「半兵衛」と口にするたび、どこか遠い目をするのが泰朝には不思議だった。
「この美濃の国に、竹中半兵衛という者がいると聞く。才ある者と聞くが、貴様はその名を知っているか?」
義元の問いに、泰朝は戸惑いを隠せない。半兵衛。確かに才ある者と聞くが、天下の今川義元が、なぜ一介の国衆の家臣に、これほど関心を示すのか。
「ははっ。斎藤家に仕える若き才人と聞いておりますが……」
泰朝の言葉を遮るように、義元はフッと笑った。
「才ある者は、その才に見合った場所で輝くべきだ。そして、その輝きは、筋肉によってさらに強固になる」
義元の瞳には、「適材適所」という現代的な価値観と、それに「筋肉」という独自の思想を融合させた、確固たる信念が輝いていた。彼の脳裏には、史実で半兵衛が稲葉山城を乗っ取り、わずかな期間で返還するという奇行に出たエピソードが鮮明に蘇っていた。あれは、主君への不満と、己の才を活かせない鬱屈した感情の現れだと、義元は思考していた。
「泰朝。貴様、今すぐ美濃へ赴け。竹中半兵衛とやらに、我ら今川への仕官を勧めるのだ」
義元の言葉に、泰朝は目を見開いた。
「殿自ら、その者を……?」
「そうだ。俺は、『筋肉による天下泰平』という壮大なビジョンを共に実現する『筋肉と知恵の友』を求めている。半兵衛の才は、この今川にこそ必要だ」
義元はそう言い放つと、自らの隆起した上腕をピクリと動かし、泰朝に有無を言わせぬ肉体的な圧をかけた。その筋肉の躍動は、泰朝の心臓を直接掴まれたかのような「身体性」を伴う、力強い「命令」だった。
泰朝は、もはや反論する気力もなかった。殿の「常識外れの行動」と「筋肉の説得力」を前に、ただ従うしかなかった。彼の胸には、「殿の言うことは意味不明だ……だが、殿は結果を出す」という「困惑」と「期待」が入り混じった「感情の膨張」が起こっていた。
「は……ははっ! 御意にございまする! この泰朝、身命を賭して、竹中半兵衛なる者を、殿の元へ連れて参りまする!」
泰朝は、深々と頭を下げ、すぐに美濃へと出発する手はずを整え始めた。
その日の午後、美濃の稲葉山城下へと向かう今川の使者が発たれた。その中に、泰朝の他に、数名の屈強な今川兵が含まれていた。彼らの体は、日々の「筋肉教育」で鍛え上げられ、その上腕や脚の筋肉は、鎧越しでも見て取れるほどだ。彼らの腰には、義元が特別に用意させた「豆を煮詰めた栄養の汁」の入った水筒がぶら下がっていた。
泰朝は、馬上で遠ざかる清洲城を振り返った。殿の背中には、まるで筋肉の光が宿っているかのようだ。竹中半兵衛は、果たしてこの「筋肉の理」を理解できるだろうか。泰朝の心には、「期待」と、わずかな「不安」が入り混じった、複雑な感情が揺れ動いていた。
美濃の空の下、静かに、しかし確実に、「筋肉覇王」今川義元の新たな「筋肉外交」の幕が上がろうとしていた。
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