第2話「摩擦」

 休憩後、畑仕事が一段落し畑から戻った931小隊はゲブラーエクエス本部にいた。


「ふぅ……なかなか疲れるな」


「土いじりなんて、普段しないからね」


 マグノリアとゲイルがいつものようにそんな会話をしていた。場所が変わろうが、931小隊の繋がりは変わらない。


「お二人とも、畑仕事お疲れ様です」


 本部にやってきたのはソフィアの側近、ゲブラーエクエス広域行動隊A班隊長。ティナ・ベルナールだ。


「アンタ確か、ティナだったか? あんたもご苦労だな」


「いえ、これも広域行動隊隊長の勤めですから」


 広域行動隊という言葉に、ゲイルは一瞬眉を上げた。ゲブラーエクエスの組織構成や活動についてまだわからないことがあったからだ。


「ティナ。ゲブラーエクエスの部隊構成ってどうなっているんだい?」


「そういえば、詳しく話してませんでしたね。ご説明しましょう」


 ティナは作戦資料を見せながらふたりにゲブラーエクエスの部隊を説明しだした。


「ゲブラーエクエスには、大きく分けて2つの部隊があります」


「ひとつは外部のダアト人の保護・権利回復を行うための派遣部隊『広域行動隊』です。私はこの部隊のA班の隊長です」


「もうひとつは『ネバーフォレスト防衛隊』文字通りネバーフォレスト周辺を敵から防衛するための治安維持部隊です。リバティ君やマルクスさんなどが防衛隊の任務についています」


 ティナの説明にふたりは頷きながら話を聞いていた。ゲブラーエクエス内でも明確な役割分担があることが垣間見える。


「ジュインの妹も、ゲブラーエクエスに入っているのか?」


 マグノリアがふと気になって口を開いた。


「クルムちゃんですか? ええ、彼女も一応防衛隊の所属にはなっています。歳が歳なので予備役ですが」


「ここの住民のほぼ全てが隊員ってわけか」


 ゲブラーエクエスの役目のひとつ、ネバーフォレストのダアト人を人間から守ること。その役割は歳を問わずここのダアト人に課せられた義務のようなものであると察することができた。


 それがたとえ別の地から保護された幼い子どもであっても変わらないようだ。


「ティナ。マグノリアとゲイル君ここにいたのか」


 雑談している中、リーダーのソフィアが現れ3人に声をかけた。


「総隊長。お疲れ様です」


「ソフィアさん。マスター……いや、カレッジ指揮官を見ませんでしたか? さっきから姿が見えなくて……」


 ゲイルが尋ねると、ソフィアは何かを思い出して顔をハッとさせた。


「そうそう。今931小隊の皆が防衛隊の隊員に射撃訓練をしてくれていてな、ぜひ君たちにも来てほしいんだ。マグノリア君の近接戦闘での射撃と、ゲイル君の狙撃がうまいと彼から聞いてね。我々にそれを教えてくれるかい?」


「ああもちろん。恩はきっちり返すぜ」


「任せてください。丁寧にお教えします」


「ありがとう。ではティナも一緒に来てくれ」


「了解です、総隊長」


 3人はソフィアについていった。着いたのは村のはずれにある屋外訓練場。木々を切り開いて作った簡易的なもので、実戦に近い環境での訓練が行われていた。


 パンッ、パンッと乾いた銃声が鳴り響く。奥の方を見ると、カレッジやアンジェラたちが広域行動隊並びにネバーフォレスト防衛隊の隊員に射撃を教えているのが見えた。


「銃声に体を縮こまらないで。その一瞬が君の運命を左右することになるから」


「照準を定める時は片目を閉じてはいけない。ちゃんと両目を開けて辺りを確認するんだ」


 的確な指示に隊員はみるみる腕を上げてゆく。最初は不審がっていた隊員も誠実に物事を教えてくれる彼らに徐々に信頼を積んでいった。


「お姉ちゃん、こう……?」


「そう、そうしたらちゃんとサイトを合わせて引き金を引いて。銃声が怖ければ耳を伏せていいから」


「うん……!」


(パァンッ! パァンッ!)


 クルムは姉ジュインに教えてもらいながらターゲットに発砲した。弾丸はターゲットの中心を捉えている。


「上手。それだけ当たれば十分だからね」


「ありがとうお姉ちゃん……! すごくわかりやすかったよ!」


「へへ……そう?」


 仲睦まじい姉妹の姿に、張り詰めていた周りの空気が少し和んだ。


「さて、私たちも教えてあげようかな? ウォレン君とアドナさんたちは機関銃操作をレクチャーしてるみたいだし、私は狙撃兵の子を当たろうかな」


「それじゃあ私は突撃兵と白兵のやつだな」


 マグノリアとゲイルが訓練に参加しようとしたその時だった。


(……!)


「隊長」


「なんだ?」


「あの方……防衛隊のマルクスさんじゃないですか?」


 ウォレンが少し離れた所を指差す。そこには茶に近い金髪に少し丸めの獣耳がついた険しい表情の男性。


 その風格からも、ものすごい圧が感じ取れる。姿を見るにマール族のダアト人、その中でもライオンに近い変異をしている。


「え? ホントだ、あいつも訓練を見に来たのか? 人を毛嫌いしてるくせに不思議だな」


「シーッ……! 聞こえちゃいますよ!」


 彼は一瞬耳をピンと立て、ウォレンとアドナを睨みつけたが。しばらくすると別の訓練を見に移動していった。


「……聞こえてたかなぁ」


「……おそらく。悪く捉えてなきゃいいんですが」


 やがてマルクスは台に置かれた銃をひとつ取ってターゲットに向かう。彼も訓練をするのだろうか?


「憎たらしい小蝿め……だから私は――」


 その時、ふと辺りを見ていたアンジェラの視線がマルクスに向かう。その瞬間。彼女の体が勝手に動いていた。


「カレッジ! 危ないっ!」


「えっ?」


(パァンッ!)


 その瞬間、風が止まった。


 ――辺りに、揺れた銃口から上がる硝煙が立ち込めていた。

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Glory Road(グローリーロード)~再生の楽園~ CuriouSky(キュリアスカイ) @CuriousSky0804

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