第3話「信じられぬ訳」

「っ……!?」


 突然鳴り弾いた一発の銃声。その銃声により辺りは混乱していた。


 壊れたターゲットを直すために一時的に台の外に出ていたカレッジを狙った凶弾――しかしそれは、瞬間的に動いたアンジェラの妨害により奇跡的に逸れた。


 だが、その弾はリバティの足元の地面に食い込んでいた。幸い怪我はないものの、リバティは涙目で尻餅をついている。


「貴様! 私の仲間を殺す気か!?」


 アンジェラが素早く彼の銃を軽い力で弾き飛ばす。力の差は歴然であるのに、彼女はもろともせずマルクスを武装解除した。


「この野郎! 本性現したな!」


「動くな!」


 少し離れたところにいたアドナとウォレンも騒ぎに気付き、ふたりは機関銃をマルクスに向けた。それを見て一部の防衛隊隊員がマルクスを庇うようにふたりに銃を向ける。


「っ……この……!」


 マルクスも予備の拳銃を引き抜いてアンジェラに向けたその時。


「――何をしている! やめんかッ!」


 突然身の震えそうな剣幕の叫びが辺りに響く。皆が顔を向けると、眉間にシワを寄せたソフィアがズカズカと歩いてきた。


「マルクス! 貴様自分が何をしたかわかってるのか! いい加減にしろこのたわけっ!」


 ソフィアがマルクスの胸ぐらを乱暴に掴む。マルクスは睨み返したが、見たこともないようなソフィアの顔に手が震えている。


「お前が……お前が人間どもをすぐ追い出さなかったせいだ! 多くの隊員が震えて夜を明かしたこと、知らないとは言わせないぞ!」


「論点をずらすな! 貴様は我々に敵意のない人間を殺そうとしたんだぞ! これではお前や我々が憎む存在と何ら代わりがない! 違うか!」


「っ……」


 マルクスは言葉に詰まった。あまりに感情的に動いたことを反省しているのか、彼の胸ぐらを掴むソフィアの手を押さえるのが精一杯の反抗の意識だった。


「……頭を冷やせマルクス。それまで訓練には出させん。武器も持たせない」


 ソフィアは彼を放すと、マルクスはゆっくりと後退りながらその場を立ち去った。それと共に、彼の部下だろうか。何人かの隊員がアンジェラたちを睨み付けながら彼についていった。


「……本当に申し訳なかった。怪我はないか?」


「ええ、私は大丈夫ですから。そんなに深く下げなくても……」


 深く頭を下げるソフィアにカレッジは頭をあげるように促した。ソフィアは誠心誠意の謝罪を彼に送った。その時、ジュインが焦った様子でこちらに寄ってくる。


「ソフィアさん、マスター……! 大変です! リバティ君の様子がさっきからおかしくて……弾が掠めたせいでパニックになってます!」


「なんだって!?」


 ジュインについてゆくと、過呼吸になりながら体を震わせ、涙を流すリバティと彼を必死になだめるクルムがいた。


「ひぃっ……ぐすっ……うぅ……ぁぁぁっ……」


「リバティ君落ち着いて! 大丈夫だよ! 怖かったよね……私がいるから安心してね」


 泣きじゃくるリバティをクルムがなだめる。マグノリアとゲイルも彼の側に寄り添っていた。


「ほらチビ泣くな、そんなんじゃ大切なもん守れないぜ?」


「マグ! 余計なこと言わない!」


「……悪い、今のは言い過ぎた」


 彼の脳内に再生されたのは、忘れがたい惨状。逃げ惑い、泣き叫び、助けを乞う獣たちの嘆き。


 ――そして、それを突き放す無慈悲な銃声だった。


「ぅ……ぁぁ……」


「リバティ君……!? リバティ!」


 リバティは恐怖に耐えきれず気絶してしまった。カレッジは咄嗟に叫ぶ。


「アイリスは……! アイリスはどこに!?」


「い……今、広域行動隊の衛生兵たちに応急措置の手順を教えてるはずです」


 ジュインの言葉を聞いて彼は冷静に指示を出した。


「ジュイン! 急いで他の衛生兵と一緒に呼んできてくれ!」


「了解です!」


 ジュインは村中央の病院の方へ駆けていった。


「また起きてしまったか……」


「ソフィア、その様子だとリバティは過去にもこのような発作が起きたことがあるのか?」


「……ああ、深いトラウマがあってな。彼だけに限った話じゃないのだが……」


 ソフィアは暗い顔でそう呟いた。彼は一体、どんな体験をしていたのだろうか。


「マスターさん! どうされました?」


 やがてアイリスが他の衛生兵を引き連れてやってきた。気を失ったリバティを見て、衛生兵が目を見開く。


「リバティ……! 大丈夫か!? クルム、一体何が……?」


 クルムは力の抜けたリバティの体を支えながらゆっくり説明しだした。

 

「マルクスさんの銃の弾がトラブルでリバティ君の足元に当たって……そこからパニックになっちゃったんです」


「そうか……ありがとう。では彼を病院へ運ぶ、手伝ってくれるか?」


「もちろんです!」


 クルムはリバティを衛生兵が持ってきた担架へ乗せる。そうして丁寧に彼を運び始めた。


「……ジュイン。クルムは立派な妹だね」


「ああ、感心するぜ。あの年であんだけ冷静にいられるなんて」


「マグ……ゲイル……」 

 

 妹を称賛されたジュインは複雑な心境になった。本来であれば、クルムもトラウマのひとつやふたつ、持っているはずである。


 路地裏ではぐれたあの日から、あの子はどのようにゲブラーエクエスの面々と出会い、この地に来たのか気になるばかりである。


 ――静かな森の中で、人間とダアト人との関わりに少しずつ亀裂が入り始めていた。

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