第2話 好き嫌いが増えた説

 妹から好き嫌いが昔よりも増えたと揶揄される。

 お茶飲む?

 あ、コーヒーか紅茶ある?

 

 これは確かに面倒くさいから、なんでみんなと同じ物をとりあえず素直に受け入れられないか、と言いたいのは分かるが、飲まないのではなく飲めないのである。気の強い妹は黙ってお湯を出して来た。それを私は黙って飲むしかなかった。


 二番目の子どもを産んでからしばらく体調が悪く、特に消化器系がひどく弱ってしまった。要は寝不足が原因だったらしいと、後になって分かったけれど、おかげで食べらる物が少し減った。つまり食べると調子が悪くなる食べ物が出来のだ。


 緑茶も同じで、飲むと何故か胃がしくしく痛むので、自然と飲まなくなる。これは日本人としては大変面倒くさい。しかも外国に住んでいるから気取っているとすら思われてしまう。実際母にもお茶を断ってそういう嫌味を言われた。


 母の世代は物がない時代を経験しているので、出された物を食べるというのが美徳とされているように思われる。まずあの世代の人は物を捨てない人が多い。だから、子どもの頃は食べていたのに最近何故私がエビを嫌がるのか、何度説明しても、そういえば昔からあまり好きではなかった、と安易に好き嫌いで片付けられてしまう。


 お茶ならただ飲まなければいいが、エビ、イカ、タコは調理法によってはよけられない。もし誤って食べてしまうとどうなるかというと、その物質が体内にあるうちはのたうち回るような腹痛をおこすので、大抵一晩中苦しむ。妹も母も私のそんな姿を見たことがないので、好き嫌いだと思い込んでいる。そしてそれが怖いと思う。


 回転寿司はその点選べるという点でいい。私の日本人の彼とのデートの時は回転寿司に連れて行ってもらう。彼にはエビ、イカ、タコが食べられないのだと伝えてある。エビ、イカ、タコが食べられないとちゃんとしたお寿司屋さんに入る気があまりしなくなる。ちょっと高級なレストランのおまかせなども、魚介類が怖いので行けなくなってしまった。経済的でいい彼女ではないか?と自分でも思っている。


 帰国する度に家族からせっかく日本に帰ったのだから美味しい物を食べさせたいという気遣いをしてもらえるが、私は辛いものが大好きなので、四川料理とか韓国料理が食べたいな、などど言ってしまうとこれまたひんしゅくを買う。私の日本の家族は辛い物が全くダメだ。


 ヨーロッパは今アジア食ブームなので、日本食は普通に食べられる。どのスーパーでも醤油が買えるいい時代になった。私が越してきたばかりの頃は醤油一本買うのに日本食材店に行かねばならなかったので、本当に暮らしやすくなったと思う。


 この間こちらのスーパーでうどんを見つけた。真空パックになっていて、中国産のものだが、最近は質が日本のものと変わらない外国産の日本食品が増えた。娘が食べたいというので買おうとしてダシが切れていたことに気づいた。醤油、うどんは買えてもダシまではないかと思ったら、あったのである。別なコーナーに箱に入ったDashiと書かれた鰹だしらしき物を見つけられた。


 しかも、醤油の横にMirinと書いてあるボトルが並べられていて、そのおかげでみりんもなかったことに気が付いた。至れり尽くせり。


 こういう生活をしているので、以前ほど日本食に飢えていない。そんなことを私の家族が知る由もないので、あまり刺激しないように、帰国すると出された物を出来るだけ文句を言わずに食べる事にはしている。それでもあれもダメ、これもダメを言うせいで、我儘な人のレッテルは貼られたままだ。


 この間帰国した時に、実家の近くに新しい韓国料理の店が出来ていたのに気づいた。今度彼に一緒に入りたいと言ってみようかと思う。

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