第9話 確かな絆
秋原くんが私の家まで来てくれて、私を信じてくれたあの日から、私の心は少しずつ、本当に少しずつ、温かさを取り戻していった。
彼の「信じてる」という言葉は、中学時代からずっと私を縛り付けていた鎖を、音を立てて砕いてくれたようだった。
彼に嫌われるかもしれないという恐怖は、彼の温かい抱擁と、揺るぎない眼差しによって、すっかり消え去っていた。
翌朝、私は久しぶりに制服に袖を通した。まだ少し体が重く、胸の奥には小さな不安が残っていたけれど、隣に秋原くんがいてくれる。そう思うと、不思議と勇気が湧いてきた。
学校に着くと、クラスメイトたちの視線が、私に集中しているのが分かった。
ひそひそと囁き合う声も聞こえる。中には、まだ疑いの目を向けている者もいるだろう。
でも、もう以前のように、その視線に怯えることはなかった。
私の隣には、秋原くんがいる。
彼が、私の背中をそっと押してくれているような気がした。
教室に入り、自分の席に座る。
秋原くんは、私の隣で、いつもと変わらない様子で教科書を開いていた。その存在が、私には何よりも心強かった。
休み時間になると、何人かのクラスメイトが、心配そうに声をかけてくれた。
「橘さん、大丈夫?」
「体、もう平気なの?」
彼らの言葉は、以前のような好奇や軽蔑ではなく、純粋な心配と、安堵の色が混じっていた。
その優しさに、私は少しだけ驚き、そして温かい気持ちになった。
放課後、私たちは自然と図書室に向かった。
「秋原くん、本当に、一緒に勉強してくれるの?」
私がそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「うん、いっしょにがんばろう」
その笑顔を見るたびに、私の胸は温かく、満たされていく。
私たちは、期末テストに向けて、本格的に勉強を再開した。
秋原くんは、私が苦手な数学や理科を、根気強く教えてくれた。私が理解できるまで、何度も、色々な方法で説明してくれる。彼の真剣な眼差しと、分かりやすい解説のおかげで、これまで苦手だった教科が、少しずつ楽しくなっていくのを感じた。
逆に、私が得意な英語や国語、社会は、私が秋原くんに教えた。彼の疑問に、的確な答えを返せるのが嬉しかった。
互いの得意分野を補い合うことで、私たちの学力はみるみる向上していった。
秋原くんと二人で勉強する時間は、私にとってかけがえのないものになっていた。
彼は、私がどんなに小さな意見を言っても、決して否定せずに聞いてくれた。
私の過去の噂に触れることも、私を好奇の目で見ることも、一度もなかった。
彼の隣にいると、中学時代からずっと感じていた、同級生との対話に対する怯えが、完全に消え去っていくのを感じた。
私たちの絆は、日を追うごとに強くなっていった。
それは、中学時代には決して得られなかった、確かな信頼と、そして、甘く切ない恋心。
秋原くんが隣にいてくれるだけで、私の世界は鮮やかな色に染まっていく。
この温かい日々が、ずっと続けばいいのに。
私の心の中で、秋原くんへの想いは、もう抑えきれないほど膨らんでいた。
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