第10話 努力の証、輝く成績

 学校に再び通い始め、秋原くんと隣で勉強する日々は、私にとってかけがえのないものになっていた。


 彼は私が理解できるまで根気強く教えてくれ、私も得意な教科で彼を支える。

 お互いの学力はみるみる向上し、私たち二人の絆は、日を追うごとに強くなっていった。


 そんな中、努力の成果を試す期末テストが近づいてきた。


「橘さん、期末テスト、一緒に頑張ろうな」


 秋原くんがそう言ってくれた時、私の心は温かさと同時に、少しの緊張感に包まれた。


 中学時代、私は成績を上げるために必死だったけれど、それはいつも孤独な戦いだった。

 でも、今回は違う。隣には秋原くんがいる。

 彼と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信があった。


 私たちは、毎日放課後、図書室で勉強を続けた。

 私が苦手な数学や理科の問題でつまずいていると、秋原くんは決して諦めずに、私が完全に理解するまで、様々な角度から丁寧に解説してくれた。

 彼の教え方はとても分かりやすく、彼の隣で勉強していると、私の中に新しい知識がすんなりと入ってくるのを感じた。


「秋原くん、すごいね。どうしてそんなに分かりやすく説明できるの?」


 私が尋ねると、彼は少し照れたように「橘さんが真剣に聞いてくれるからだよ」と笑った。

 その笑顔を見るたびに、私の胸は温かく、満たされていく。


 逆に、私が得意な英語や国語、社会は、私が秋原くんに教えた。

 彼の疑問に、的確な答えを返せるのが嬉しかった。

 彼が「なるほど!」と目を輝かせるたびに、私も自分の知識が誰かの役に立っていることを実感し、喜びを感じた。


 テスト期間中も、私たちはいつも通り、互いに励まし合いながら勉強を続けた。

 不安がないわけではなかったけれど、秋原くんと一緒なら乗り越えられる、そんな確かな信頼があった。


 そして、テストが終わり、数日が経った成績発表の日。

 朝のホームルームで、担任の先生が成績一覧表を手に教壇に立った時、クラス中が静まり返り、緊張感が漂った。

 私の心臓は、ドクン、ドクンと激しく脈打っていた。

 自分の成績も気になるが、何よりも秋原くんの結果が気がかりだった。

 彼も、私と同じくらい、このテストに真剣に取り組んでいたから。


 先生の声が、教室に響き渡る。


「……続いて、学年順位だ」


 先生は、まず学年第3位の生徒の名前を告げた。クラスメイトから、小さなざわめきが起こる。


 そして、先生は一呼吸置いて、秋原くんの方を見た。


「学年第2位、秋原優斗」


「……え?」


 秋原くんの名前が呼ばれた瞬間、私は驚きで息を呑んだ。

 学年2位? まさか、彼がそんな上位に食い込めるなんて。彼の努力が報われたことに、私まで胸がいっぱいになった。

 クラスメイトたちからも、驚きの声が上がる。


「秋原が!?」

「すげぇ……!」


 そして、先生が、深々と息を吸い込んだ。


「学年第1位は……橘千栞だ!」


 その言葉が教室に響き渡った瞬間、クラス中が静まり返り、次の瞬間、これまでで一番大きなざわめきが起こった。


「橘さんが1位!?」

「マジかよ……」

「信じられない……」


 私も、自分の名前が呼ばれたことに、一瞬、現実感がなかった。

 学年1位。信じられない。

 私の目から、熱いものがこみ上げてきた。

 秋原くんと二人で成し遂げた努力が、報われた瞬間だった。


 先生は、私たちの方を見て、満面の笑みを浮かべた。


「秋原、橘。二人とも、本当に素晴らしい結果だ。特に橘は、前回のテストから飛躍的な伸びを見せた。君たちの努力は、本当に称賛に値する。そして、その内容を見れば、いかに深く、真摯に学習に取り組んだかが分かる。決して付け焼き刃の知識ではない」


 先生の言葉は、私たちの実力が、決して噂のような不正によるものではないことを、明確に示唆していた。


 私は、クラスの隅に視線を向けた。

 野中千穂は、顔を真っ赤にして、悔しそうに唇を噛み締めていた。

 私たちの名前が呼ばれるたびに、彼女の表情は歪んでいく。

 特に、私が学年1位だと発表された時、彼女は明らかに怒りと嫉妬に震えているのが見て取れた。

 その視線は、私たちに向けられた称賛の光を、憎悪の眼差しで睨みつけているようだった。


 私の心には、中学時代に受けた傷が、完全に癒されていくような感覚があった。

 そして、その心の奥底には、秋原くんへの感謝と、「好き」という感情が溢れんばかりに満ちていた。


 彼が、私を信じてくれたから。

 彼が、私が絶望の淵にいた時、家まで来て、手を差し伸べてくれたから。

 彼が、私を支え、共に努力してくれたから。

 彼が、私に、もう一度、前を向く勇気をくれたから。


 この成功は、私たち二人のものだ。

 彼と分かち合う喜びは、何よりも甘く、私の心を幸福感で満たした。


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