1話 これ、CGじゃね?
綺麗っていうか、美麗?
どこかしら作り物な、リアル。
触れば厚みもあるし、なにより温かいけど。
でも確実に絶対、日本人じゃない。
早すぎる輪廻。
そういえば、閻魔様どころか秦広王、てか奪衣婆にさえ会ってない。
三途の川で日本人形のような女の子を愛でたかった。
愛でたら地獄行きだけど。
あら残念。
あ、でも、うちは浄土真宗だから裁判無いか。
もしや。
流行りに乗っかった?!
やったね!いぇーい!
とか、なんとかいっちゃってー。
あーあ。
なーんてね。
まあ、夢だよ、夢。
訳ありな女神様やら神様やらにも会ってもないし。
夢だよ、夢。
アル中が、見ている夢。
それが現実。
知ってる、判ってる。
それでも。
この世界は、矢鱈とあたしに優しくて居心地がよくて。
覚めなくてもいいかな、と思い始めている。
ティンクの軌跡のようなきらきらを纏った銀色が、顕在化して少年となり、あたしに「ミリア」と呼びかける。
成程、横文字系の世界なのか。
どうやら少年はあたしの兄で年の頃は十歳くらい?
セイレンと呼ばれている。
一体どこの国だろう?
当たり前に聞いていたけど、日本語だよねえ。
益々、あたしに便利な世界 だこと。
さらっさらの銀髪に、
北欧系?と思ったけど、あたしの中で銀髪イコール北欧、なだけで根拠はない。
そもそも銀髪って美人度が上がると思う。
銀色はもう一つあって、きらきらはしてないけど光ってる。
なんだ、それ。
クリストファって呼ばれている美青年。
っうか、
二十歳いってないくらいに見えるんだけど、若いのに偉いなぁ。
もう子育てですか。
すごいなあ。
えらいなあ。
なるべく手が掛からないように育ってあげよう。
や!
折角だから目覚めるまで暫しこの美形たちを堪能しましょう。
―――――――――目覚めない。
良いんだろうか?
少なくとも3か月は経ってる気がする。
まぁ、綺麗な方々と御近づきになれるなら、夢でも構わん。
それにしても母親の顔を見ないのは、あれだろうか?
止事無き方は育児しない、てやつ。
あたしのお世話をしてくれているのは、髪が焦げ茶のイーラ、薄茶のアルラ、赤茶のサーラ。
同じような髪型と服装ということ制服かな?
メイドさん?が居るってことは裕福な家庭っぽいけど、正直お貴族様とかは面倒くさいから勘弁していただきたいのですけど。
と、早くも後向き発言。
でも、メイドさんズには、いつもお世話になっております。
寝ずの番、上げ膳据え膳で下の世話までしていただいてありがとうございます。
けど、イー、アル、サーて……中国語?
三人の関係性は不明だけど、モブ感全開やね。
そんなこんなで、とうとう首が座ってしまった。
視界にはまだ天井しかないけど、左右に首を振れる。
あ、壁。
あ、通風孔。
アンティークな雰囲気があるけど、『中世ヨーロッパ』風な感じがしない。
どんな仕組みで点いている照明なんだろか?
や、人々はメイドさんズも含め、異国情緒溢れるお顔立ちなんだけど。
なんか、『和』なんだよね。
匂い?空気?っていうのかな。
なんだろう、明治とか大正の頑張って欧米化するぞーてやってた時っぽい。
なんとなく。
そしてあたしは時折、喃語を口走ってる。
猿になる日も近い気がする。
ある日、アルラに檻のようなベッドから抱き上げられた。
はや、誘拐?等、一人サスペンスを楽しんでいたら、違う部屋へと連れ込まれた。
どぉわあ。
広いな!なんだこの部屋!
恐らく二十畳は有りそうな広さ。
や、洋室なんだけどね。
部屋の広さはつい畳で測りたくなる。
窓は大きく、けど暑くはない心地好い暖かさで、眩しくない明るさ。
おや?お金持ちの象徴、ピアノはグランドではありませんか。
しかも、白!
障屛がある。
あれ?この絵、知ってる。
昭和初期の挿絵画家のものだ。
大好きで画集で何度も見て、スキャンしてプリントして部屋に貼ってたから間違いない。
そして、障屛になるほど大きな絵じゃないことも、原画を見に行ったから知ってる。
ほぉぅ…
…アルラの腕の中できょろきょろしていたら、「ミリア!」て聞こえた。
あ、あたしか。 慣れないなあ。
見るとセイレンがいた。
えっとぉ、兄ちゃんなんだよね。
挨拶代わりに「にぃ」て、両手を振りながら言うと。
こういうのを花が綻ぶって云うんだろうな。
素敵な笑顔を向けて来て、それからあたしに手を近付けてきた。
握手!あたしは出された手…を握ろうとしたら思いの外自分の手が小さくて、人差し指を両手で握りしめた。
すると、セイレンは握られた指を見たあと、あたしの顔へと視線を移したので、表情筋を総動員して笑い返した。
まだ上手く笑えてない気がするけど、許してね。
と、セイレンの
んー、視線から察するに、それはあたしですよね。
とーちゃんの遺伝子はもっと仕事しても良かったと思うよ!
この部屋は子供部屋なのかな。
セイレンは入口とは別の扉から、何冊かの本を抱えてきて、毛のたっぷりしたラグに置かれた、人をダメにしそうなクッションに寄り掛かった。
「お行儀悪いですよ」 と、いうアルラに、
「だって、こうすればミリアと遊べるでしょう?」
と、セイレンは背凭れにしているクッションを叩く。
「そんなところに置いたら埋もれてしまいます」
と、アルラはあたしを一旦ソファーに置いた後、お昼寝座布団をラグに敷き、お布団に寝かせた。
お布団はふかふかだ。
でもね、あたしはラグの方が気になるのさ。
見るだにケモノみたいにふわふわした毛並み。
ケモラーにはたまりませんっ!
匍匐前進していいかな?
首、座ってたら可能?だよね?
それにはまず… 起き上がろうとしてみたが、腹筋は無いから微塵も動かなかった。
そりゃそうだ。
なら、転げて俯せになる、や、なろうとする。
ふんっ、と体を捻るけど上手くいかない。
でも、諦めないある!
ふんっ、ふんっ!と体を捻っていたら、アルラが抱き上げてソファーに寝かせた。
?
「むずむずして…おしめですか?いま取り替えますよ」
!!や、違うけど。
起き上がろうとじたばたしたのがむず痒って見えたんだろうけどさ、アルラさん、殿方の前ですぅ!と、妄想を暴発させる準備を整えていたら、セイレンのほうが気を遣って慌てては別室へと向かっていた。
「あら、濡れてない、じゃあお腹空いたのかしら?」
セイレンが戻ってきたのを確認すると「少しお願いします」とアルラは部屋を出ていった。
セイレンはあたしと目を合わせて抱っこすると、ソファーに腰かけた。
美人は三日で飽きる、とか云うけどそんなこと無いと思う。
あたしゃ、いつまでだって見てられるぜ。
ただ、その美しい瞳に映している小坊主が気に食わん、毛はどうした。
あ?
折角の美しい顔が触れる距離にあるので、ここぞとばかりにセイレンの白くてすべすべ、つやつや、もちもちなお肌に、ぺたぺた触りまくる。
柔らかい求肥の大福なみに気持ちいい。
や、大福と比較するのは失礼か。
勝者、セイレン!
べたべたと好き勝手に触っているのに怒りもしないセイレンに、自分が昔の職場の[[rb:上司 > スケベ親父]]にでもなった気がする。
当時はセクハラなんて言葉はなかったから、触られてなんぼみたく云われてたよなあ…
・・・セクハラじゃないもん! 確認だもん。
なんの?
いやなに、乳児のやることだ、許してくれ給え。
と、きらんとセイレンの目が輝いた、気がした。
あたしはソファーに寝かされるとセイレンがあたしの上に覆い被さった。
ゆ、床どんてやつっすか?
きゃっ!
な、訳はなく、擽られる。
きゃっきゃっと愉しくプロレスごっこをしていたら、
「何してるんですか」と、いつの間にか戻ってきたアルラが、呆れた顔して立っていた。
アルラがおやつを用意してきてくれたので、食す、セイレンがね。
あたしはまだミルク。
弟や妹が産まれたときに粉ミルクを舐めては、母親に叱られたのを思い出していた。
食後のお昼寝をした後、アルラにしっかり辱しめに遇わされたけど、セイレンが恥かしそうな顔が見れたのでよしとする。
いちいち可愛らしい。
すっきりしたので、匍匐前進するべく寝返りに再チャレンジする。
ふんっ、ふんっ、ふんっ。
今度はセイレンとアルラが興味深くあたしを見てる。
「なにしてるのかな?」とはセイレン。
「ミルクもおしめもお昼寝も済みましたからね。何でしょう?」
ち、注目の的だわ。
ここはお客様のためにも頑張らねばっ!
ご期待にお応えして?やってしんぜましょう!
ふんっっ!
「「おおっ」」
あら、素敵なシンクロ率。
寝返り成功。
匍匐体制、よぉしっ!前進っ!
ふぬっ、ふぬっ、と目指すはもふもふラグ。
「ねえ、這ってない?」
「ええ、這いずってますね」
あ、アルラさん混沌じゃないんだから、って混沌は這い寄るのか。
五十センチほど進んで、お目当てのもふもふに到着。
思った以上の冒険に、とたん意識が持っていかれる。
くすくすと気持ちの良い声が耳に入る。
「すごいね、君は」
喜んで頂いて何よりですぅ。
セイレンは、寝落ちしたあたしを抱っこして頬擦りしてくれた。
その日から、日中はセイレンとメイドさんとこの部屋で過ごすようになった。
セイレンは一日中でも本を読んでいて、時折あたしとプロレスをしてくれる。
子供を擽って笑かすのって本人は楽しんだろうか?と、思ってたけどあたしを必死に笑かそうとする相手を見るのは思いのほか楽しいし嬉しい。
なんだ、ただの“構ってちゃん”じゃん。
セイレンは、一頻あたしをあやした後は、再び本へと意識を戻す。
あたしが本に近寄ろうとすると、さっと取り上げるからきっと大事なご本なんだと理解してる。
ガキは本を粗雑に扱うものだ、ん。
その危機管理は当然です。
けどね、あたしは教科書にも書き込みが出来ない程度のビブロフォリアだから心配しなくても宜しくてよ。
おほほほ。
一方のあたしはというと、ふわふわのラグに顔突っ伏してお昼寝しております。
運動?
まだ、立てないもん、さすがに。
気持ち良いんだよぉ、このふわふわ。
涎垂らしていたらすいませんです。
ぽかぽかして気持ちいいで思ったけど、雨、降りました???
この窓から、雨を見たことないのに気が付いた。
お昼寝、するんだよなぁ、と思う。
夜も寝ている。
当然、目覚める。
本来、五十ばばあで目覚めていい筈なのに、小坊主のままだ。
ずっと寝てるからか日にちの感覚が今一つわからん上に、どうも何月とか何曜日的な話がないんだよな。
九十日て何なんだろう?
ごん、と床に頭をぶつけてみる。
痛い。
泣きそうだ。
泣きそうだけれど泣くと赤ん坊のあれなので耐える。
これはこれで、現実なんだと受け入れないとかな。
結構スゴい音だったみたいで、セイレンとサーラが慌てているのが目に入る。
ああ、音がしたのに泣き声もないから心配されているのか。
セイレンに抱っこされている。
定位置になりつつあるこの腕。
サーラが冷やしたタオルをおでこに当ててくれて、あや、サーラのか泣きそうだ。
なんか、心配されるのって気持ちいいね。
ん。
『ここにいたい』と言う気持ちが、『夢だろ』を追い越したがっている。
それからも、淡々と日常は過ぎた。
もうすぐ冬になるらしい。
『準備期』に入るとかで、メイドさんズは慌ただしい。
あたしの匍匐前進も、大分様になってきた。
セイレンは相変わらず本の虫だ。
セイレンはあたしとプロレスごっこはしてくれるけど、本からは遠ざける。
なので、背表紙を眺めることにした。
こ、これくらいは許してくだされ。
そろそろ活字に餓えておりまする。
セイレンは物語が佳境に入っているようで、本からは目が離れなくなった。
いまだっ!と、背表紙にピントを絞る。
………アルファベットの筆記体?
英語なん?!と一瞬青くなる。
自慢にしかならないが、英語しか話さないアメリカ人と、日本語で喧…議論したことがある。
通訳さんから何で通じているのか分からないとお褒めの言葉を賜った。
そのくらい外国語に弱い。
うーん………… MOMOTAROU
……はいっ?
えーとぉ。
これ、ローマ字じゃね?
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