当世流行りの異世界顛末生~とうせいはやりのいせかいてんまつき~
砂生
當世流行異世顛末生
序 顛末趨勢
新刊案内を眺めていて思ったんだけど、やたらと長いタイトルが跋扈していて、正確に覚えられる自信が無いのも然ることながら、タイトルだけで読んだ気になれるのは如何なもの何だろう。
当世、『今とは違う所で生きる物語』が流行ってるらしい。
そろそろ飽和状態な感も無いではないけど、現実の逃避を目論んでいるのは、あたし以外にもいるってことか。
あたしは『佐東仁美』
"ひとみ"と読む。
しかし、"美"って字はあれだよね、名前に使われると価値が薄まると云うか…記号だよね。
どうでもいいけど。
長いこと現実から逃避している様は、恐らく俗にいうオタクに近い。
けど、あたし自身はオタクって云うには半端モンで(オタクって或る意味プロフェッショナルと思うの)、二次元コンプレックスの方がしっくりすると思っている。
そーいや、オタクの語源になったアニメは、あたしを二次元沼に捕まえた作品でもあるのだけれど、未だに何で今の意味を持つようになったかわからん。
そんなアニメを中学生の時に視聴した年齢。
オーバー五十ってやつ。
変わんないと思うんだけど。
何か最近色々とめんどくさい。
最近でもないか。
まあ、厨二病って云うのかね?
凡そ三十五年前に発症して、患って、拗らして、悪化させて現在に至る。
積極的に死にたくはないけれども、もう生きてなくてもいいんじゃないかな、と思う程度には現実を逃避したい。
働けど働けど、我が暮らしが楽にならないのは、推し事に重きを置いているから。
仕事はしなくても推し事やめない、これ大事。
はあぁ。
あーニートしてぇ。
二十九歳の時、確かになんとも言えない妙な焦燥感に襲われたのを、今でもはっきり覚えている。
何かしなきゃ、でも何を?
何か成さなきゃ、でも何を?
答えなんかありゃしないのに。
で。
あたしは、好きだったV系バンドの追っかけをした。
三十からは落ち着くつもりで。
三十までははっちゃけようと。
あ、あたし的には芸能人は
とはいえ、ライブに行きまくったぐらいなんだけどさ。
遠征もした。
けど、入待ち出待ちまでしてない。
一度だけライブのついでに田舎に帰ったときは、飛行機一緒になんないかなーと、時刻表とスケジュールを吟味した。
結果、飛行機にスタッフらしき人はいたが、メンバーは居なかった。
くっ。
ま、居たからって、お姿を拝むだけで、サインやら写真やらなんてもっての他なんだけど。
ライブ形式の公開録画にも行って、未だにそのときのVTRが流れたりするから、あーあたしだぁ、と眺めている。
それから四十まではあっという間だった。
四十代に関しては記憶もないわ。
20年は2行かよ。
それにしても、すげーよ、老化。
多分、加速そーち付いてるよ。
ジョンソンでルイスでボルトだよ。
そして。
五十を前にして、生理の間隔が空いた。
女でなくなる瀬戸際で、今更ながら世の中の女性が結婚に焦るのが解った気がした、遅いけど。
毎月、鬱陶しくて、痛くて、辛くて、怠くて、早くあがらんかなと思ったこともあったけど、いっぺんくらい妊娠、出産という正しい使い方をしてみても良かったのかなと思う。
思うだけだけど。
結婚を意識した人が居なかったわけではない、けど。
人と暮らすことの嫌悪感や、親になる事に得体の知れない恐ろしさがあった。
案ずるより産むが易しなんて、所詮他人事。
お陰さまで戸籍はキレイだ、職歴がスゴいけど。
それでも、思い出したようにやって来る月のモノが、女にしがみついているみたいで滑稽に思わなくもなくはない。
当たるのは罰、貯まるのはごみだけ。
って言ったのは誰だっけ?
忘れた。
でも、後悔はない。
ネタだと思ってるし。
地球が滅びるときに一人じゃ寂しいかもなぁとは思うけど。
オタクで、コミュ障で、人間不信で、厨二病で…続く。
思考がぐるぐるぐるしてきた。
いかん。
ま、いっか。
あたしは、カップ酒を煽る。
所詮は酔っ払いの戯言。
あれ?鎮痛剤飲んだの何時だっけ?ま、いっか。
がくんと頭の重さを感じる。
瞼を開けているのが辛くなる。
あたしは、どんなに呑んでも顔色が変わらない、らしい。
んで、酔うために深酒になる。
酔うまで吞まなきゃお酒に失礼じゃん。
けど、頭は何かはっきりしている。
嘘、時々記憶ぷっつり消えてる。
肝臓の許容量を把握出来ずに、気が付くとゲロまみれの朝を迎えた経験を二回もすりゃ女子として十分だろ。
宿酔で千の天使はバスケしない。
あれを天使のバスケに例えることができる中也は永遠の憧れだ。
思考が活動限界。
あー、回ってんなぁー、脳ミソぐちゃぐちゃ。
ふわふわとしたまま枕へ倒れ込む。
願わくば、朝まで目が覚めませんように………
………ちっ。 暗い。
今何時かなあ…目、開けたくないなあ。
苦しい。 飲み過ぎたか?
苦しい。
……吐けば楽になるのかな?
仕方無い。
布団では吐きたくないから起き上がってトイレ行くか。
…?体が起き上がらない。
苦しい、動かせない体。
苦しい、動かない体。
苦しい。
苦しい、トイレへ行きたい。
苦しい、頭、痛いよ。
苦しい、吐きたいよう。
苦しい、もう、こんなに飲みませんから。
苦しい、死にそう。
あっ。
ああ、そっか。
死ぬのかあ。
そっかあ。
と、脱力した瞬間。
体が引き摺られ圧迫感から解放される。
瞼は貼り付けられたように閉じたまま、瞼越しに光を感じる。
と、背中に強烈な痛み。
二回、三回と続き……げぼっと喉が音をたてなにか出た。
反射的に泣……喚いている?
……意味を成さない言葉を、気が触れたように喚き散らす。
痛み?
怒り?
声を出しているのはあたし…よ、ね?
ねえ?
これって救命処置だよねぇ?
ねえ?
嘔吐物でもつまらせた?
アル中まっしぐら?
あ、隊員さんお仕事とはいえご苦労様です。
ご迷惑をおかけします。
と、温かい水に全身を
まさか
でも清拭だと全身をお湯に
拭くだけだよね。
ん…何かがおかしい。
と、微かに甘い香り。
何故だか、妙にはっきりと懐かしい。
香りを鼻で辿ると、口の中に温かい液体が入ってくる。
ああ、なんて胃に優しい。
……あれ? 死んでなくない?
あれ?
点滴じゃなくて経口摂取?
じゃあ、生きてる?
違和感しかない。
てか、この味って……
!それよりも、現実的な問題に気が付いた。
病院沙汰!うわっ、お金足りるか?
保険、下りるかな?
下りないだろうなあ。
これって急性アルコール中毒だよなあ。
どうしようかなぁ。
お金の工面を考えていたら、いつの間にか寝てた。
―――意識は覚醒してるのに、瞼が開かない。
どうしたことだろう?
これが植物人間ってやつなのかしらん?
なぁんてね。
やー、無いっしょ。
無いよね?
そんな、ドラマみたいなこと。
精々、意識不明ってやつだろう、アル中で。
意識あるけど。
―――植物人間か何かと思っていたのだけれど、どうも何か違う。
ゆるゆると瞼を開け、じっと目を凝らすと視界情報が入ってきた。
うんと画像の荒い、モザイクな世界。
色彩の洪水。
耳に入る音は、人の声と言うのが分かる程度で、言葉として入ってこない。
それもなんだけど。
薄々感じてはいたけど、さ。
今更だけど、さ。
なんか、さ。
ちっさくね?
四肢の感じる範囲が狭い。
―――赤ん坊???
えっ!これってまさかリインカネーションってやつですか!
わくわく。
産まれた時には前世の記憶が有って、歳を重ねる毎に記憶は無くなっていく説、って本当だっだんだなぁ。
じゃあ、いつかは『佐東仁美』じゃなくなるのか。
死因、アル中って最後まで
ま、終わったことなら知ったこっちゃないけど。
けど、ちょっとひらめいた。
もしや、人のこうじゃなきゃって性質?思い込み?て、これかな、と。
脳には刻まれた前世の記憶。
育つに従って存在すら忘れるモノ。
これが、性格形成というものなら。
よし!
ならば、運動しよう。
出来ないで諦めない。
別にチートな運動能力とか求めないけど。
人並みには、ん。
必ず、為せば成る。
そして、勉強するんだ。
出来ないで諦めない。
もっと勉強したい。
大学行きたい。
きっと、為さねば成らぬ。
それよりもなにより。
―――素直になろう。
見栄も虚勢も張らない。
若いうちに気が付きゃいいんだけど。
五十間際で気付いた処で後の祭りだ。
でも、あたしに後悔はない。
まあ今の処、自分が男なのか女なのか分かんないけど。
素直で可愛いは正義。
間違いない。
絶対、成さぬは人の為さぬなりけり。
なんか、夏休みの目標みたい。
けど、脳に刻み付けてやる。
つまりは、
―――愛されたい。
それだけを。
しっかりと。
多分、情けは人の為ならず。
……良いかな? 良いよね?
そんな夏休みの目標のような人生の指標をたて、我ながらピントのずれた自己満足な哲学の日々過ごしていたら、少しずつ視界の焦点が合ってきた。
画素数が増えた感じ。
色だけだった世界が、形を持つ。
で、思ったんだけど。
この世界、CGじゃね?
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