第46話:白馬王朝、建国
天下統一から数週間後。旧公孫瓚の居城があった場所には、趙雲の指揮の下、新たな都が築かれつつあった。その城壁は、現代の土木技術を応用してより頑丈に積み上げられ、城門には、白馬を象ったレリーフや紋章が誇らしげに刻まれている。工事現場では、大工たちが新たな建築技術に戸惑いながらも、その合理性に感嘆の声を上げていた。子供たちが大工の道具を真似て遊び、飯を炊く香りが風に乗って漂ってくる。石積み職人たちが、文句を言いながらも、見事に仕上がった石壁に満足げな笑みを浮かべていた。
そして、ついにその日が来た。
建国式典の日。中原の平野には、各地から集まった将兵や民衆、そして諸侯の使者たちが、ごった返していた。大広場には、祝賀のために紅白の布が飾られ、白馬王朝の旗が、空を埋め尽くすほどにはためいている。遠くでは太鼓が力強く打ち鳴らされ、角笛の音が鳴り響く。焚き火の煙と共に、香炉からは白い煙がゆらぎ、陽光を帯びて幻想的な光景を作り出していた。各地の将軍が色とりどりの衣を身につけ参列する中、彼らの視線は、壇上に立つ、白い鎧を身につけた若き将、趙雲に集中していた。
(この日が来たか。公孫瓚様を、歴史の人物にしなければならない)
彼の胸には、公孫瓚という男への感謝と、彼を歴史の表舞台から退場させるという、冷徹な政治的意図が、複雑に入り混じっていた。
「公孫瓚様!どうぞ、壇上へ!」
趙雲の声に、公孫瓚は誇らしげに壇上へと上がった。その足取りは、堂々たるものだ。彼の隣には、彼が長年身につけてきた、傷だらけの白い甲冑が飾られている。その甲冑は、彼が乱世を駆け抜け、袁紹という大敵と戦い抜いてきた、苦難の道のりを物語っていた。
趙雲は、公孫瓚の戦歴と功績を敬意を込めて称えた。彼が語る「厳冬の戦い」や「賊との攻防」の場面で、兵士たちは当時の苦労を思い出し、互いに頷き合い、その功績を称えた。
公孫瓚の脳裏に、過去の戦いの光景が蘇る。雪が降りしきる中、袁紹軍の騎兵が迫る。氷の張った川を渡るとき、馬の蹄が滑り、凍える水に落ちた兵士の悲鳴。そして、彼を救い出した、趙雲の冷静な指示と、白馬義従の突撃。
公孫瓚は、誇らしげに胸を張り、民衆と将兵からの喝采を浴びる。彼の顔に、長年の苦労が報われたという満足感が浮かんでいた。
そして、趙雲は声のトーンを一段落とし、厳かに宣言した。その瞬間、北の風が一瞬だけ止まり、場内が静まり返る。
「これより、公孫瓚様を北方の守護神として祭り上げる!」
場内が、一瞬、静まり返った。公孫瓚は、驚きに目を見開く。
(なんだ、守護神?北方って……まだ袁紹の残党が……いや、それよりもだ。なんだその玉座は。俺の目の前に玉座があるのに、お前がそこに座っているのはどういうことだ!?)
公孫瓚の心のツッコミが暴走する。しかし、彼の思考は、趙雲の次の言葉で、完全に停止した。
「その功績を称え、公孫瓚様の像を、北方の守護神として、各地に建立する!」
場内の歓声と拍手が、最高潮に達する。公孫瓚の顔が、一瞬にして青ざめた。彼は、壇上の玉座にこっそり腰掛けようと、趙雲の背後を回ろうとしたが、衛兵に止められる。
「待て!待て子龍!それはどういうことだ!?」
しかし、公孫瓚の叫びは、歓声にかき消されていく。隣に立っていた将軍に「なあ、俺、生きてるよな!?」と小声で訴えるが、将軍も興奮のあまり、それに気づかない。
「いや、生きてるぞ……!?まだ死んでないぞ、俺は……!」
公孫瓚の切ないツッコミは、誰にも届かない。彼の声は、歓声の渦に飲み込まれていく。
その光景を、趙雲は、静かに見つめていた。彼の顔には、冷徹な笑みが浮かんでいる。
(公孫瓚様。あなたは、この天下統一の、最初の足場だった。あなたの功績は決して忘れられません。しかし、この国をより良い方向へ導くためには、あなたには英雄として、歴史の人物として、退場していただく必要がある)
趙雲の心の中には、公孫瓚への感謝と、そして彼が目指す「平穏な世の実現」への、確固たる決意が満ちていた。
そして、趙雲は静かに玉座へと向かい、そこに腰を下ろした。その姿は、堂々としており、この国の王にふさわしい威厳を放っていた。
「俺は……俺の引退宣言が出るんじゃないか……?最後に棺桶でも出てくるんじゃないか……?」
公孫瓚の被害妄想が、内心で大騒ぎしている。しかし、壇上の趙雲は、そんな彼を無視するかのように、静かに、しかし力強く宣言した。
「そして、この国を、『白馬王朝』と名付け、これより、私が初代皇帝として、この国の舵を取る!」
趙雲の声が、甲冑と旗の間で反響し、低く重く響き渡る。その声に、遠くで農民の赤子が泣き、母があやす音が、祝福の音のように混じり合っていた。
その光景を、劉備、諸葛亮、鳳統、孫堅、孫策、孫権、周瑜、馬騰、馬超、そして関羽、張飛といった、乱世を彩った英傑たちが、静かに見守っていた。彼らの顔には、趙雲への尊敬と、そして彼と共に、新たな時代を築くことへの、確固たる決意が浮かんでいた。
「趙雲殿、皇帝の冠が似合いすぎる」
馬超が、隣に立つ関羽にそう囁いた。関羽は、その言葉に何も言わず、ただ静かに頷いた。
周瑜は、その孫策と孫権を横目に、意味深な視線を交わした。「孫権殿。ここから先は、彼の時代です」。孫権は、その言葉に静かに頷いた。
式典後の余韻シーン
夜、城壁の上から都を見下ろす趙雲。焚き火の残り香と笑い声がまだ漂う。
公孫瓚が背後から来て「まぁ…悪くない」とだけ言う。
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