僕はバケモノ
欠陥品の磨き石 磨奇 未知
僕はバケモノ
僕はバケモノを飼っている。
存在はみえないが確かに飼っている。
鏡をみるとそのバケモノは嫌になるほど色濃く写る。
バケモノは一人でいる時には現れない。
僕が人と喋る時に現れる。
今日だってそうだ。
僕が久しぶりに超大手企業に就職した友達に会った時のことだ。
僕が彼の自慢話を聞いている時僕のバケモノは
耳元で囁くんだ 【お前今嫉妬してるやろ?腹立ってるやろ ならバカにしたらええんちゃうか?
お前の自尊心も取り戻せるやろうし、
優越感にも浸れるで。】
僕のバケモノはいつだって僕の本心を突いてくる。
理性で抑えている僕の本当にやりたい感情を代弁する。
僕は苦虫を噛み潰したような顔で
震えた拳を押さえつけた。
「僕だってできるならそうしたいに決まってるだろ…」
今回だけじゃない
仕事で仮面を被り他人と接してる時も上司に理不尽に怒られてる時も僕のバケモノは耳元で囁く。
【なんで言い返さないんねん。
お前のミスちゃうやろ。
なんで謝ってばっかりやねん。
お前は相手の都合のいいように動くロボットみたいでええんか?
社会の普通に囚われた操り人形のままは嫌なんちゃうんか?
本当はワイを解放したいんちゃうか?】
僕のバケモノはいつだって確信を突いてくる。
俺が抱えたモヤモヤを簡単に言葉にしてしまう。
僕は歯を食いしばる。
「お前を解放したら俺は社会で生きることはできないんだよ!
お前にはわからないと思うがな世の中では社会の常識にうまく合わせてやらないと簡単にクビになるんだよ。
普通の人間を演じないとダメなんだよ…」
バケモノはいう。
【お前 いてもいなくても変わらん人間やな。
周りに合わせて生きてるお前っていったい誰なんや?それって本当のお前なんか?
今のお前っていてもいないくてもいくらでも代わりいる感じやけどそれでええんか?
簡単に例えたらお前って一つの部品やで。
ネジが一つなくなっても それと同じネジをまた買えばいい。
お前はそれと同じやで。
あんまりこういうこと言いたないけどさ
お前ってさただ山田優斗という誰でも与えられる個性しか持ってないで。
お前からその名前を剥ぎ取ればお前に何が残るんや?操り人形という名の奴隷だけやで?
お前はそれでええんか?】
やはり僕のバケモノは確信を突いてくる。
こいつには敵わない。
だってこいつは本当の僕なんだから
バケモノは僕の方なんだ。
本当の自分を押し殺して バケモノと酷い名前を名付けて不要な感情と蓋をする。
そして新しく社会の普通に合わせた偽物の自分を再構築する。
僕はいったい誰なんだ?
本当の自分ってなんなんだ?
僕は…いや違うバケモノは屋上から飛び降りた。
地面に見えた水溜りには僕が…
いやバケモノが写っていた。
僕は落ちながら口元を抑えつけていた。
「本当は死にたくなんかないよ…
誰でもいい 誰か僕を救ってくれ…」
これが最初で最後の僕の本当の言葉だった。
僕はバケモノ 欠陥品の磨き石 磨奇 未知 @migakiisi
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