シュバリエ

@sasakure20

第1話

 とある人気のない倉庫街から何発かの銃声が聞こえた。

 そこにいる女刑事の下には、何人もの遺体が無造作に転がっている。

 女刑事はどこかに電話をかけるとその場をあとにした。




 半年前、一人の刑事が処罰対象となった。

 名は藤丸凪ふじまるなぎ(31)

 女刑事である。

 藤丸はある事件をおこし、今は服役中となっている。

 そんな藤丸のもとへ、ある女がやって来て、自分の指示通りに動いてくれるのなら、藤丸を釈放できるように手配すると言うのだ。

 藤丸にとって、これは紛うことなきチャンスであり、断る理由がない。

 そしてその指示とは、人を殺すことー。


 「藤丸さん!」

 やっと開放された、と外に出た途端、誰かが話しかけてきた。

 かつての相棒、勅使河原てしらがわだ。

 「聞きましたよ、今日釈放だって。たちばな警視のところで仕事をするんですよね?」

 橘警視ー。藤丸を釈放した敏腕の女刑事だ。

 釈放された暁には、橘の下で働くことを条件に。

 「でも、僕ちょっと心配なんですよ。」

 「何がだ?あの敏腕女刑事、橘警視の下で働けるなんて、この上ないことだろ?条件もいいし。」

 「だって橘警視には色々と良くない噂だってありますから。」

 女刑事はなめられる事が多かった。だから、橘はなめられないように、と色々と無茶な捜査や強引な捜査をし続けて、警視にまでなった、ともっぱらの噂だ。

 「んなもん、ただの橘警視の栄光を認めたくない、お堅いじじい共が流したデマだろ?大体、知りもしない人を噂だけで判断するのは良くない。そういう奴らが冤罪を生むんだ。」

 「ですよね…、すみません!お体に気をつけてくださいね。たまには連絡ください。結構遠くに行くんですから。」



 勅使河原は何も知らない。嫌、警察のほとんどが知らないだろう。これから、藤丸が行う仕事を。

 警察の中でも、限られた人間にしか認識されていない組織があるということを。

 橘から伝えられて、藤丸も初めて知った組織であり、全貌はまだ把握できていない。無事釈放されて、送られてきた住所に着いてから、詳しい説明があると言われたからだ。

 今、分かっているのは、刑事であるにも関わらず、人を殺す仕事だということだけだ。


 目的の場所には着いた。だが、建物らしきものはない平坦な土地だ。

 「藤丸警部補。」

 声をかけてきたのは橘だ。

 どこから来たというのだ。

 「無事に着いて何よりです。何もないから驚かれたでしょう?付いてきてください。案内がてら組織について説明しますから。」

 橘が上着のポケットから、リモコンらしき器械を出し、そのボタンを押した。

 すると、地面がゆっくりと下がり、階段になっていく。

 なるほど、地下に本部があるわけだ。

 橘が降りていき、藤丸もそれにつづく。

 長い廊下をひたすら黙々と歩き、奥の部屋に案内された。

 「ここが皆で集まる部屋です。さ、中へ。」

 部屋に入ると、すでに何人かの人がいる。組織というぐらいだから、人がいるのは当たり前ではあるのだが、藤丸は少し驚いてしまった。その中に一人顔見知りがいたからだ。

 驚いている藤丸をよそ目に橘が口を開いた。

 「最初に、これから一緒に働く仲間を紹介します。年功序列で、まず、日根野谷ひねのやさん。」


 日根野谷繁しげる(55)元捜査四課の刑事。橘の先輩で1番の古株。身長185センチの大柄でガタイもかなりいい、階級は警部。

 「そして、次が鈴原さん。」


 鈴原研一郎けんいちろう(50)元捜査四課の刑事で、少しの間だけらしいが、日根野谷とバディを組んだこともあるらしい。橘の同期で、階級は警部。

 「次、安藤さん。」


 安藤萌もえ(39)元公安の刑事。藤丸が入ってくる前まで、(橘を除けば)紅一点。薬に詳しく、毒の生成はお手のもの。階級は警部。

 「この顔は、あなたも知ってるんじゃないかしら?内山君よ。」

 

 内山朔之助さくのすけ(30)元捜査一課の刑事で、藤丸の同期。格闘術が優秀で、同期で1番の成績。階級は警部補。

 「内山君の横にいるのが、前田君。」

 

 前田碧あおい(27)元捜査三課の刑事。適当でお気楽な性格だが、三課で得た鍵開けの技術は折り紙付き。ただ、あまり使う場面はないらしい。階級は巡査部長。

 「そしてあそこの隅っこで、パソコンいじってるのが、最年少の佐藤君。」

 

 佐藤真まこと(18)この中で唯一、刑事ではなく、しかも学生。コンピュータ知識が豊富であり、組織を影からサポートするスペシャリスト。

 「ここへ、さらに私と藤丸さんを加えた8人で構成される組織です。かなり小規模だけど、いずれ大きな組織になる、嫌、してみせる。」

 「それで?ここで私は、どんな仕事をすればいいんですか?殺しってのだけは把握してますよ。」

 藤丸はかねてからの疑問をぶつける。

 「ええ、その通り殺しです。でも、ただの殺しではありません。藤丸さん、及び皆さんに行っていただくのは、犯罪者の抹殺です。

 日本の法律で、死刑は認められてはいます。ですが、存在意義に疑問をもつ人がいるのも事実です。その気持ちが、悪いとは決して思いません。犯罪者の中にはつい魔が差してやってしまったという人もいますし、その罪を一生後悔させるために、生かして反省させ、人生をやり直す。このやり方が1番良いに決まってますから。

 しかし、残念ながら、このやり方が通用しない者達がいる。犯罪組織や、猟奇的殺人者、強姦魔などが該当します。彼らは犯罪を繰り返します。反省なんか全くしない。彼らを捕まえ、罰したところで、数年後には出所して、また罪を犯す。

 私は常々考えていました。彼らを生かすことは正義ではない、と。彼らを殺していれば、これから起こるであろう犯罪を止めることができるばかりか、多くの人間の命を救うことも可能なんです。

 ですが、やはり警察官が、たとえ犯罪者であろうと、人を殺すことは許される行為ではないでしょう。周りから非難されましたよ。よくそんな考えになるな、と。

 だから、私はここを作ったんです。バレないように、秘密裏に犯罪者を抹殺するこの組織を。そして、それに見合う人材を集めました。より心から犯罪者を憎むあなた達を。」



 より心から犯罪者を憎む、確かに藤丸に当てはまる。

 刑事なのだから、犯罪を憎み、犯罪者を許さないのは当然のことなのだが、藤丸及び、ここの刑事達はそんなものではないのだろう。

 「藤丸警部補、あなたに早速仕事を頼みたいのですが、いいですか?」

 「はい、構いませんけど、来て早々とは。」

 「仕事内容と、時間はまた後で説明しますから、今は他の方と交流でもなさってください。これから、一緒に仕事をする仲間ですから。」

 そう言い、橘は部屋から出ていった。

 交流しろと言われても、と思っていた矢先に向こうから話しかけてきた。確か、名前は前田といったか。

 「ようこそ、シュバリエへ!」

 「シュバリエ?」

 前田がハッとする。

 「ああ、そうだった、説明するの忘れちゃって。シュバリエはここの組織名。」

 シュバリエ…、フランス語で「騎士」を意味する言葉である。

 「へえー、意味教えなくても、分かるんだね。さっすがエリート刑事。どう?中々シャレてるでしょ?」

 「犯罪者とはいえ、人を殺す組織の名前が騎士ねぇ、確かにシャレてるね。考えたのあんた?」 

 「ああ、考えたのは、ベルさん。」

 前田は鈴原を指差す。

 「碧、人が考えたものを、あたかも自分のもののように語るのはやめろって言ったろ?内山のときもそうだったな。」

 鈴原が前田を小突く。

 「ごめん、ベルさん。でも、俺は気に入ってるよ、この名前。カッコイイし、ぴったりだと思うもん。」

 「私もそれは同意だな。」

 よくありがちな、適当なアルファベット羅列や、長々と漢字で書いてある組織名や団体名よりも収まりがいいし、「騎士」というのは国を守るための衛兵なのだから、国の平和を脅かす犯罪者を殺す、藤丸達にはぴったりの名前だ。

 「ところで、さっきから言ってるベルさん、って。」

 「俺のことを碧がそうやって呼ぶんだ。鈴原の鈴は、英語でベルだから、ベルさん。

 前田は堅苦しく名字で呼ぶんじゃなくて、あだ名をつけて呼ぶんだ。俺以外にも…、」

 そこから先を勢い良く前田が話し出した。

 「鈴原」→「鈴」→「ベル」→「ベルさん」

 「佐藤」→「砂糖」→「シュガー」

 「内山」→「内」→「うっちー」

 「日根野谷」→「野谷」→「ノヤっさん」

 「安藤萌」→「萌ねぇさん」

 「ーまぁ、ざっとこんな感じなんだけどさ、藤丸さんのことはなんて呼べばいい?」

 「鈴原さんといい、あんたもいいネーミングセンスだと思うよ。私のことは好きに呼んでいい。藤丸だから、《富士山》を掛けて《藤さん》でもいいし。」

 面白かったのか、前田は笑いだした。

 「藤丸さんも中々、面白いの考えるね!それにしたいくらいだけど、俺は某国民的アニメのキャラの名前にあやかって、《丸ちゃん》って呼ばせて貰おうかな。」

 「さっきも言ったが、名前は好きに呼んでくれればいい。私もみんなのことは、あんたがつけたあだ名で呼ぶことにするし、あんたのことはベルさんと同じように碧、と呼ぶことにする。」

 前田と鈴原とは仲良くやれそうだ。だが、他は中々厳しいだろう。

 他4人はこの会話に入ることすらしないのだから、かなり手強そうだ。

 内山は真ん中にあるソファに黙って座っているし、安藤も同様。佐藤は隅の方で、パソコンのキーボードをカタカタ鳴らすだけで、こちらに見向きもしない。唯一、日根野谷だけは、タバコを吹かしつつも、こちらを気にしてはいるようだったが、特に何をするということもなかった。

 藤丸も別に全員と馴れ馴れしく、仲良くやろうと思っていないが、あまりにも静かすぎるのが、異様に感じる。いつもこうなのか、新人が来るとこうなのか。

 「気にしないでね。他の皆は仕事以外ではあんまり会話しないんだよ。ノヤっさんは偶に話してくれるけど、後3人はてんでダメだね。俺が勝手にあだ名で呼ぶのも、かなり嫌がってるから、これもノヤっさん以外。」

 藤丸の考えを感じ取ったのか、前田が耳打ちした。

 なるほど。いつもこうなら、別に気にすることないだろう。犯罪者とはいえ、人を殺す組織が、和気あいあいとしているわけがないのだから。


 「ところで話は変わるんだけど、丸ちゃんは何やらかして、ここに来たの?」

 「やらかした?」

 「シュバリエはね、他の課で何か問題起こした人が呼ばれるんだよ、まぁ、その問題も基準があるんだけどね。その基準で、その人がどれぐらい犯罪者を憎んでいるか、大体の選定が出来るんだって。俺も、他の皆もそうやって、ここに来た。

 シュバリエは、一部の上層部を除いて、一般の警官には知られてないんだ。人を殺す組織なんだから、知られてなくて当たり前なんだけど、だからよっぽど、なんだよ。ここに来る警察官はね。」

 やらかし、か。前田の言う基準がどの程度事態を指すかは分からないが、確かに、藤丸が起こした問題行動は、ここに呼ばれるのも納得だ。

 「知りたいのか?」

 「あぁ、嫌、無理にとは言わないけど。」

 「いつか、話してるやるよ。私はこの後早速仕事らしいからさ。」

 「そうだったね。初仕事頑張ってよ。詳しい説明は橘さんからあると思うから、俺からは控えるよ。」

 「橘さんのことは、橘さん、なんだな。」

 「だって、橘さんは警視だよ?流石に俺でも無理。」

 すると、日根野谷がいきなり、藤丸に近づいてくると、「ついてこい」と言いながら、奥に消えていった。

 前田も行ってきな、と言ったので、そのまま日根野谷についていく。

 「入って。」

 言われるがまま入った部屋を見て驚いた。

 たくさんの武器が置いてある。

 「好きなのを選んで、それを仕事の時に使うんだ。選んだやつは、自分の物にして構わない。色々あるから、ゆっくり選んでいい。」

 「そうですねぇ。参考までに、皆さんは何使ってるんです?」

 渋ると思ったが、案外あっさりと教えてくれた。

 「鈴原はワルサー、内山はリボルバー、前田はアサルトライフル、私はトカレフを主に使ってると思うが。」

 「ベルさん、シャレたやつ使ってんなぁ。リボルバーは分かるし、アサルトライフルも分かるけど、ワルサーとトカレフは使ってる奴、あんまり見たことないや。まぁ、日本は銃社会じゃないから、拳銃以外馴染みないからかな。

 シュガー君は学生だから、分かるけど、萌ねえさんも武器使わないんですか?」

 「ああ、彼女は毒の専門だからね。相手に毒を盛ることが主だから、銃を使うことはほぼないね。偶に使うこともあるが、ほぼ拳銃。」

 正直、日根野谷がここまで話してくれるとは意外だった。日根野谷のおかげで、他の人達がどのように犯罪者を殺していくのかが、大体想像出来る。

 さて、と藤丸はある銃を手に取った。

 藤丸が選んだ銃を見て、日根野谷は驚いたような顔をしている。

 「本当にそれでいいのか?かなりサイズもあるし、小回りは利かないと思うが…。」

 「ええ、これにします。予備として、リボルバーも持っていきますが、基本はこれでいかせて貰いますよ。」


 「ーにしても、意外でした。」

 帰り際に藤丸は言う。

 「何が?」

 「ノヤっさんですよ。聞いたら、ちゃんと返してくれるんだなぁ、って。後、私がノヤっさんって呼んでも大した反応もなかったし。」

 「私も意外だよ。藤丸君がこんな人だとは思ってなかった。初見での雰囲気は、なんとなく、一匹狼なんだろうと、思っていたから。」

 「やっぱり?私は結構お喋りするの好きなんですけどね。雰囲気のせいなのか、最初は苦労しますよ。」

 「私もだよ。歳が歳だからね。」

 前田が、あの中なら日根野谷だけは、話してくれると言っていたから、前田、鈴原、日根野谷とは、これからも仲良くやっていけるだろう。



 深夜。

 「目的地付いたぜ。」

 藤丸はある建物の前に到着した。

 その耳には無線機器が付けられていて、指示を仰ぎながら、武器の準備に取り掛かる。

 「防犯カメラは、僕がいじるんで大丈夫です。そのまま裏口から入ってください。」

 指示しているのは、佐藤だ。

 佐藤は防犯カメラの情報などから、相手の位置を明確に割り出し、的確な指示を出してくれる。その後の証拠隠滅もお手の物だ。

 佐藤の指示どおり、裏口から建物のなかに入る。

 「前方右から、2人来ます。」

 「リョーカイ。」

 佐藤の言うとおり、右から二人の男が来た。二人とも藤丸に気づき、瞬時に銃を取り出したが、藤丸が二人を撃つ方が遥かに早かった。

 「次、左から3人。」

 これまた、相手も気づいたが、藤丸の方が早く、あっという間に片づいた。


 「麻薬の取引現場ですか?」

 「ええ、大勢集まるでしょうから、かなりの大仕事になるけど。」

 一方、シュバリエの本部では、指示役の佐藤以外にも、橘達が残っており、画面越しに藤丸の仕事ぶりを見ていた。

 「ノヤっさん、丸ちゃんの持ってる銃って、ライフルにしては小さいけど、あれ何?」

 「AK銃だよ。知らないか?」

 「うん、まったく…。」

 「まぁ、碧が知らないのも、無理ないだろうよ。旧ソビエト連邦時代に造られた、だいぶ古めの小銃だし。

 けど、まさかAK銃選んでくるとは、予想外。小銃とは言うが、両手で撃たなきゃいけないから、選びませんよね、普通なら。」

 「私も驚いたんだ。でも、この調子なら大丈夫そうだね。」

 

 藤丸は見張りの奴らを、ほぼ制圧。いよいよ、敵の総本山に入っていく。

 「気をつけてくださいね、あいつらのほとんどが、銃持ってますから。」

 「わぁーってる。一瞬でやってやるって。」

 藤丸はドアを開けて、すぐ様銃を構え、そして手前にいた何人の脳幹に、ものの数秒で弾を撃ってみせた。

 そして同時に電源ボタンを撃ち、辺りを暗くし、視界を一時的に奪う。

 何が起きたのか理解が追いついていない、残りの奴らの脳幹も正確に撃ちぬき、殺害。

 奥に逃げようとする1人も同様に一発。

 だが、相手も黙ってはおらず、数人が銃を持ち、乱射したが、暗闇のなかの藤丸を判別することは不可能だった。

 その条件は藤丸も一緒のはずだが、相手が乱射してくれたおかげで、位置を確認することができた為、そこに目掛けて撃てば良い。

 一斉に制圧。

 バンッと後ろから発砲音。

 「お前、なにもんだ?殺し屋か?」

 どうやら暗視スコープをつけているようで、こちらの位置がばれた。

 「殺し屋ねぇ。そんな物騒なもんじゃない。騎士だよ、日本を守る、ね。」

 藤丸は、予備で持ってきていたリボルバーを素早く反対側から取り出し、男の顔面に目掛けて撃つ。

 藤丸は奥の部屋に入った。

 「ワォ、こんなにあるよ。」

 部屋にあったのは大量の麻薬。

 「藤丸警部補。」

 「分かってますよ、橘さん。全員殺したあとは、麻薬の処分ですよね。」

 乗ってきた車に積んできた、ポットを運び出し、中身を現場にぶちまける。そしてライターの火をその場に落とした。

 「よしッ、任務完了。このまま帰っていいんですか?」

 「一旦、本部に戻ってきてもらうけど、その後は好きにしてもらっていいわ。死体の処分と火災の件はこちらで処理するから。」

 現場から少し離れた場所で待機していると、何台かの車が止まる。多分、死体を運ぶ為の車だろう。

 予想通り、中から出てきた作業服を着た男たちが、雑に死体を車の荷台に詰め込む。

 「お疲れ様、乗って。」

 もう一台の車には、鈴原が乗っていた。迎えの車だ。



 「あの男たちは何なんですか?」

 「死体処理の部隊だよ。秘密裏に焼いて、適当に埋める。

 防犯カメラの処理は佐藤君が、その他諸々は橘が証拠を消してくれる。

 だから、よっぽどのことがない限り、この仕事が外に漏れることはないんだ。」

 「なるほど。理解しました。」

 よっぽどのことがない限りーか。

 「ベルさんって、橘さんの同期でしたよね?」

 「そうだけど?なに?」

 「ああ…、嫌、橘さんの協力してるんだぁ、と思って。ベルさんって、勝手なイメージで、犯罪者でも殺しは駄目だ、とか言うタイプかと。」

 「はは、そんなに良い奴でもないよ、俺は。それに、協力というか、そもそもシュバリエを創ろうって提案したのは俺なんだけどね。」

 「そうだったんですか?てっきり、橘さんが立ち上げたんだと…。」

 「まぁ、そう思われても仕方ないかもね。橘の方が階級は上だし、所長だから。俺も、ただ提案しただけで、実際ここままでにしたのは、橘だし。俺は所謂、立ち上げメンバーって感じなのかな。」

 鈴原が提案し、橘がそれを形にして見せた。それがこのシュバリエという組織だった。

 その後も、鈴原はシュバリエについて(本部につくまで)話してくれた。

 橘、鈴原が創立メンバーで、初仕事の際に、鈴原の元上司の日根野谷を勧誘した。最初こそ乗り気ではなかったものの、橘の考えに賛同し、その後のメンバー集めの協力もしてくれた。

 その日根野谷が連れてきたのが、前田碧。一見ちゃらんぽらんとしていて、なぜ日根野が前田を勧誘したのかが、まるで分からなかったが、中々な仕事ぶりを発揮してくれた。前田がいるおかげで、多少空気が明るくなるため、鈴原含め、3人はかなり前田のことを気に入っているらしく、あだ名もそのため。

 そのすぐ後、公安から安藤萌がやって来た。彼女の場合は、誰が勧誘したというわけではなく、向こうの上司から半ば押し付けられた形だ。本人もそれをわかっているからか、仕事はするが全くこちらと絡まない日が続いたが、最近はだいぶマシになった。

 その安藤から紹介されたのが、佐藤だ。学生ではあるものの、ハッキング技術の腕を買われ、協力してもらうことになった。

 そして、鈴原が勧誘したのは内山。藤丸の同期である。

 「内山を、入れようと思ったきっかけとかあるんですか?確かに、あいつは射撃能力も高いし、武術は同期内トップですけど、内山は捜査一課で、ベルさんは捜査四課、接点がないですよ?」

 「碧も言っていたが、シュバリエのメンバー選定には基準がある。その基準を作ってくれたのは、日根野谷さんなんだけど、内山はそれにピタッとハマったわけ。」

 選定基準ー。

 藤丸もそれに、当てはまったわけだが、一体どんなものなんだろうか。

 「藤丸は、犯罪についてどう思っている?」

 鈴原が話題を変えた。

 「どうって、なくなるべきだと思ってますよ。だって、ろくなことになりませんよ、犯罪なんて。」

 「そうだな。…着いたぞ。」

 本部に到着。二人は車から降り、中へ入った。

 部屋に入ると、橘が待っていた。

 「お疲れ様です、藤丸警部補。初めてとは思えない、仕事ぶりでしたね」

 「それはどーも。で?もう帰っていいんですか?」

 仕事の報告とはいうが、全部カメラで見ていたのだから、わざわざ報告することも無かろう。

 「早速、次の仕事の準備をしてもらいますよ。次は、共同で当たってもらうので。」

 「共同?」

 「ええ、次の仕事は、あなたと、内山警部補にお願いするわ。詳しいことは、また後日。今日は、とにかく休みなさい。寄るところだってあるんでしょう?」

 橘には何でもお見通りらしい。

 「分かりました。お言葉に甘えて、失礼します。」

 部屋から出た後、藤丸はある場所に電話をかけた。

 「はい…、いつもの通りに……はい、ありがとうございます。」

 



 とある病院の、とある患者の元へ、いつも決まった時間、匿名で花が贈られてくる。「

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