第6話 正式デビュー

「ごめんくださーい」

 ダンジョンのプレハブに入るときの挨拶って、何が正しいのだろう?


「あ、はーい! 用意してありますよ」

「あ、ありがとうござ……」


「いやぁ、ウチは過疎ダンジョンですから、何とか大井さんに活躍して貰って、ダンジョンの維持していただきたいので! 全力で応援しますよ!」


「あ、はい、あの、えっと、これは何ですか?」

「ベビーカーです」


「ベビー……カー……!?」

「正確にはスタイリッシュベビーカーAB兼用型です」


「スタイリッシュ……ベビー……カー!?」

「兼用型なので、大きなお子さんでも入れる様にサイズ大きめになってまして、A型で人気の背もたれが倒せて座面がフラットになって、スッポリ中に入る密閉型なので、とても使いやすいかと思います」

 映画でテロリストが銃器隠すタイプだね。


「何に使うんですか?」

「やだなぁ、スケルトン入れて運ぶのに決まってるじゃないですか!」

「あ! あぁ!」

「中に段ボール箱入れて底上げしてるので、魔石とか素材入れるのに使ってください」


「あれ? ゴブリンはドロップ品がないんじゃ?」

「金額が安すぎてみんな無視するだけでドロップしますし、アルケミストの素材化でクラフトの素材にする事は出来ますから」

「なるほど、じゃあ行ってきますね」


「あぁ! 待って、プロテクターも用意したんで付けてください!」

「あぁ! そうですね、防具着けないとですね!」

 なんか、オフロードのバイク乗りの人がつける様な黒のプロテクターを渡されたので、いそいそと身体に装着する。


「代金は前回と同じダンジョン払いですからご安心ください!」

 安心して良いのかな?

 一抹に不安が残る。


「では、今度こそ行ってきます!」

「いってらっしゃい! すぐに収益化は無理なので、まずはレベル上げ頑張ってください!」

「はい! ありがとうございます!」


 ー 清田区第四ダンジョン 一層 ー

「えっと、このスイッチを押して……あ! 動いた」

 配信用のドローンを起動した。


「流石にすぐに人来ることもないかぁ」

 公式で配信してる分、個人でやってる人よりは閲覧数稼ぎやすいらしいけど、まぁ、よく分からないし気にしないでいこう。


 カラカラとベビーカーを押しながらゴブリンを探す。


〈何それ?〉


「あ、どうもー、ベビーカーです」


〈それは分かるけど、何でそんなの押してるの?〉


「あ、中にスケルトン入ってるんです」


〈あーなるほど、しっかしシュールね〉


「ですよねぇ、子連れ探索者って感じですよね」


〈戦うのは子供の方になるけどね〉


「確かにー、はっはっは」

 何話して良いのか分からない!

 イマイチ盛り上がってる気がしない!

 良いのかな? こんなんで?


「あ! ゴブリンいました!」

 ちょっとホッとした。

 間が持った。


「じゃあ、お前たち行ってきて!」

 わらわらとベビーカーからスケルトン達が降りてゴブリンへと向かっていく。


「……あ、クロスボウ当たりました! 麻痺しましたね」

 喋ることないなぁ。


「……」


〈ねぇ?〉


「何でしょうか?」


〈あれ、毒で倒す前に麻痺切れるわよ〉


「え! まじか! どうしたら良いですかね?」


〈ナイフくらいはあるでしょ?〉


「あ、はい」


〈麻痺してる間に攻撃したら?〉


「そ、そうですね! 攻撃くらいしないとですね!」

 あたふたとリュックからナイフを取り出す。


「あ!」

 慌てすぎてナイフを落としてしまった。


 なんだろう、この手に上手く力が入らない感覚。

 思ってる以上に緊張してるんだな。


 そんな事より麻痺してる間に攻撃しなきゃ!


「とりゃぁ!」

「ガァァ!」

「うわぁ!」

 麻痺が切れたぁ!


 いきなり襲いかかってきたゴブリンに驚いて尻もちついた。

 でも、そのおかげで初激を避けることが出来た。


「ひぃぃ! ひぃぃ!」

 必死にハイハイの様な格好で逃げる。


 パシュという音が聞こえた。

 どうやら、スケルトンの二射目の音っぽい。


〈だっさ〉


「あ、いや、でも、初めてですし……」

 グヌヌ、めっちゃ恥ずかしい。


 幸い今の視聴者数は一人だから、無様な姿を見たのは最低限に抑えられた。


「とりあえず、ドロップ品出るまで待ちますね」


〈マジで?〉


「え! ダメでした?」


〈いや、まぁ、一回経験しといた方が良いか〉


「はぁ」

 イマイチ要領を得ない感じだけど、とりあえずドロップが出るまで待ってみた。


 ゴブリンが消えて、魔石とドロップ……。

「あれ? ドロップ品が出ない?」


〈ゴブリンはドロップ品が安いだけじゃなくて、ドロップ率そのものが低いんだよね〉


「うわぁ……」


〈そろそろ、そのダンジョンがなんで人気ないか理解してきた?〉


「はい……」


〈そんな事より、スケルトンのステータス確認して! それが興味あるから見てたんだから!〉


「あ、そうなんですか!」


レベル0+

 クラス スケルトン(ゴブリン) R1


 強さ 2

 器用 2

 素早さ 2

 知性 2

 耐久力2

 賢さ 2

 HP 20

 MP 20

 パーソナルスキル 

 クラススキル 再生


「あれ!? 全部2になってる?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る