24 嫌味な貴族からいじめられエルフを守る

 放課後の廊下は騒がしい。


 授業が終わった解放感で、生徒たちの声が弾んでいる。


 俺もその中の一人だ、気分は少し違う。


「さて、今日は何を『食う』かな」


 図書館の魔導書か、それとも訓練場で体を動かすか。


 スキル【暴食の覇者ベルゼール】のおかげで、俺の毎日は充実していた。


 勉強も運動も、すべてが俺の力になる。


 最高だ。


 最近、学園での俺の立場は劇的に変わった。


 ミリエラに勝ったあの日から、誰も俺を【豚伯爵】と馬鹿にしなくなった。


 向けられる視線は好奇と賞賛、それに少しの畏怖だ。


「ガロン様……!」

「今日も素敵……!」


 女子生徒たちの熱い視線も感じる。


 といっても、良いことばかりじゃなく、嫉妬の視線も感じるようになった。


 特に、一部の貴族の男子生徒たちからだ。


「まあ、当然か」


 今まで最底辺だと馬鹿にされてきた俺が、学園のヒロインたちに囲まれているんだ。


 彼らからすれば、面白いわけがない。


 そんなことを考えていると、廊下の先が騒がしいことに気づいた。


 何かのトラブルか……?


「おい、聞いてるのか、ああ?」

「どうすんだよ、これ」


 人垣の中心から、威圧的な声が聞こえる。


 聞き覚えのある声――確かボルデンとかいう貴族の取り巻きだ。


「ひっ……! ご、ごめんなさい……」


 震える少女の声も聞こえた。


 人垣をかき分けて前に出ると、そこにはボルデンと取り巻きの男たち数人に囲まれ、怯えている一人の少女がいた。


 長く尖った耳に細身の体つき――エルフの女子生徒だ。


 大きな魔導書を胸に抱きしめ、今にも泣き出しそうに震えている。


 確か、名前はプラムだったか……エルフ枠の特待生という設定があったはずだけど、詳しい設定はないはずだ。


 メインキャラではなくモブキャラだからな。


「おい、何してるんだ」


 俺が声をかけると、ボルデンたちが一斉に振り返った。


「なんだ、貴様。ヒーロー気取りか?」

「見て見ぬふりができる状況じゃなさそうだからな」


 俺はプラムの前に立ち、ボルデンたちと対峙した。


「……!」


 プラムが俺の背中を見上げ、小さく息をのんだのが分かった。


 デブの体もこういうときは役に立つ。


 普通よりもずっと分厚い壁になれるからな。


「引っ込んでろ、デブ」


 ボルデンが吐き捨てた。


「女帝にまぐれ勝ちしたくらいで、調子に乗るなよ」

「まぐれかどうか、試してみるか?」


 俺はニヤリと笑って挑発した。


「っ……!」


 ボルデンの顔が怒りで赤く染まる。


「この野郎……身の程を教えてやる!」


 ボルデンが手を突き出すと、そこに魔力が集まった。


「【ロックバレット】!」


 岩の礫が数発、俺に向かって飛んできた。


 土属性の中級攻撃魔法か。


 俺は迫りくる岩礫に向かって、大きく口を開けた。


「いただきまーす!」


 ちゅるんっ。


 岩礫は、まるでゼリーか何かのように、俺の口に吸い込まれた。


 当然、ダメージはゼロだ。


 ぴろりーん!


 いつもの音が脳内に響く。




『スキル【暴食の覇者ベルゼール】が発動しました』

『中級攻撃魔法【ロックバレット】を食したことで、これを獲得しました』

『魔力値が0.05上昇しました』




「魔法が消えた……そういえば、女帝との戦いでも、こいつは――」


 ボルデンと取り巻きたちが呆然とした顔で固まっている。


 まったく、俺と女帝との戦いを見ていたなら、これくらいは想定しておくべきだろう。


 いざ自分が戦うとなると、頭が真っ白になって、それすら忘れていたか?


「ごちそうさま。なかなか歯ごたえのある味だったぞ」


 俺は口の端を舐めた。


「さて、お返しだ」








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