23 貴族ボルデンの嫉妬(ボルデン視点)
SIDE ボルデン
(一体どうなっている――)
貴族の子息である男子生徒ボルデンは、苦々しい思いで教室の一角をにらんでいた。
つい最近まで【豚伯爵】と揶揄されていたはずの男――ガロン・アルガローダ。
彼の周りに、学園でも指折りの美少女たちが集っている。
可憐な伯爵令嬢ラフィーナ。
武闘派の令嬢騎士マナハ。
そして、元学園最強の女帝ミリエラまで。
彼女たちの華やかな笑顔が、ガロン一人だけに向けられている――。
信じがたい光景だった。
ボルデンは、このメルトノール魔法学園におけるスクールカーストの最上層部に位置する一人だ。
そんな自分ではなく、最下層のガロンが美少女たちに囲まれている。
その事実が、彼のプライドをひどく傷つけていた。
あり得ない。
あってはならない。
(くそ、なんであんなデブ野郎に……!)
ぎりっ、と奥歯を噛みしめる。
胸の内側でドス黒い嫉妬が渦巻いていた。
「ちっ……女帝にまぐれ勝ちしたくらいで調子に乗りやがって」
ボルデンは忌々しげに吐き捨てた。
「あいつらもあんな【豚伯爵】のどこがいいんだか」
「まったくですよ。ボルデンさんの方が、よほど彼女たちにふさわしい」
隣に立つ取り巻きの一人が、すかさず同意する。
「当然だ。家柄も、容姿も、実力も、俺の方が上のはず……!」
あのデブがヒーロー扱いされ、自分が目立っていない状況はどうにも許容できない。
クラスの主役として扱われるのは自分であって、断じてガロンごときではない。
近いうちにあの豚伯爵を叩きのめし、本来あるべき序列というものを思い出させてやる。
ボルデンは心の内で誓い、憎しみを込めてガロンをにらみつけたのだった――。
放課後の廊下は、授業を終えた生徒たちの喧騒で満ちていた。
ボルデンとその取り巻きたちは、晴れない鬱憤を抱えたまま、当てもなく歩いている。
何か面白いことはないか。
誰か、この腹の虫の居所が悪い状況を解消してくれるような、手頃な標的はいないか。
彼らの目は、そんな獲物を探してぎらついていた。
そのとき、一人の少女がボルデンの視界に入った。
長く尖った耳を持つ、線の細いエルフの少女だ。
名前はプラム。
確かエルフ枠の特待生だったか。
彼女は大きな魔導書を胸に抱え、一人で図書館へ向かっているようだった。
その姿は、いかにもか弱く、従順そうに見える。
ボルデンの口元が、意地悪く歪んだ。
「……おい、いい的を見つけたぜ」
取り巻きたちも主人の視線の先にいる少女を認め、卑しい笑みを浮かべる。
ボルデンたちは歩調を速め、プラムの行く手を阻むように立ちはだかった。
「きゃっ……!」
突然現れた男たちに、プラムは小さく悲鳴を上げる。
「おい、薄汚いエルフ」
ボルデンは見下すような視線を彼女に向けた。
「俺たちの靴が汚れたんだが、どうしてくれる?」
それは、かつてガロンがラフィーナに対して行ったと誤解された、理不尽な言いがかりそのものだった。
プラムは恐怖におびえ、蒼白な顔で後ずさる。
「わ、私……なにも……」
「ああ? 何か言い返したのか、今」
取り巻きの一人が威圧的に一歩前に出る。
周囲の生徒たちはこの騒ぎに気づいているようだが、誰もがボルデンたちを恐れ、遠巻きに見ているだけだ。
助け舟を出そうとする者は、一人もいない。
プラムの瞳に絶望の色が浮かぶ。
彼女は完全に孤立していた。
震える体で、ただ俯くことしかできない。
その無力な姿に、ボルデンは満足げな笑みを深めた。
このエルフを相手に、あの豚伯爵への鬱憤を存分に晴らしてやろう。
そう考えたボルデンがさらに手を伸ばそうとした、その時だった――。
「おい、何してるんだ」
豚のように太った男子生徒が咎めるような声と共に割って入ってきた。
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