19 決着……!?
「降参しないんだ? じゃあ、叩き潰してあげるね」
ごうっ!
ミリエラの放つ不可視の衝撃波が、激しい風圧となって襲ってくる。
上空を舞いながら自在に位置を変え、次から次へと――。
「くっ……」
俺は転がるようにして、それらを避け続けた。
だが、デブの鈍重な動きでは回避にも限界がある。
ただでさえ回避難度が高い『目に見えない攻撃』で、しかも空中という人間の死角から次々に攻撃が飛んでくるんだからな。
ごうっ! どごおっ!
結界のおかげで直接的な痛みはほとんどないものの、連続で炸裂する衝撃波にライフポイントをどんどん減らされていく。
まずいぞ――。
「このまま0になるまで削り取る。空中のあたしに、君の反撃は届かない――」
ミリエラが勝ち誇る。
ヴンッ!
魔眼が輝き、とどめとばかりに不可視の衝撃波が連発された。
「うわあっ……」
爆風で大きく吹き飛ばされる俺。
くそっ、攻撃が見えないんじゃ、食えない――。
ぴろりーん!
脳内に例の音が響いた。
『スキル【
『魔眼による衝撃波(爆風)を食したことで、魔力値が0.3上昇しました』
『物理耐性が0.2上昇しました』
「爆風……?」
そうか、魔法自体は食えなくても、爆風や衝撃波を食うことはできる。
追い込まれていて、そこに気づかなかった。
今、スキルが発動したっていうことは、俺が『食おう』と考えたことが発動トリガーになった、ってことだろうか。
「――それなら、戦うすべはある」
「……何を笑っているの」
ミリエラが眉を寄せる。
「いいから撃ってこいよ。仮にも学園の女帝なんて呼ばれる実力者なんだろ、あんた? セコセコ攻撃せずに正面から俺に魔法を浴びせてみろよ。ま、そんな度胸もないだろうけどな」
「安い挑発ね」
ミリエラは鼻を鳴らした。
「その挑発に乗って馬鹿正直に撃ってくるとでも思った? 魔法を吸収、あるいは撃ち返せる君に、わざわざ正面から攻撃するわけないじゃない」
「プライドはないのかよ」
「あたしのプライドはね、勝つことでしか満たされない。あらゆる手段を使って勝ちをもらう――それが女帝のプライドよ!」
ごうっ!
ミリエラは【魔眼】を使って不可視の衝撃波を放つ。
やはり爆風や衝撃波でじわじわ削り殺そうというんだろう。
だけど――そこが落とし穴だ。
ミリエラは俺を『魔法しか吸収できない』と勘違いしている。
けれど、実際にはこうして副次的な爆風や衝撃波を『食う』ことができる。
これを悟られないまま、もう少し吸収しておきたい。
さっきわざわざミリエラを挑発したのも、このためだった。
俺のスキルは『魔法しか吸収できない』というミリエラの仮説に疑いを持たせないため――。
――やがて、そのときが来た。
何度か爆風と衝撃波を『食い』、頃合いと見て、俺は地面に向けて口を開く。
「があっ!」
そこから溜め込んだ衝撃波の一部を吐き出した。
その反動で、空へと飛び上がる俺。
「えっ!?」
虚を突かれたミリエラの動きが一瞬止まる。
「その力は――」
「くくく……俺は魔法を『食う』だけじゃなく、その『余波』だって食えるるんだぜ?」
猛スピードでミリエラに接近した俺は、振り返りざま、残りの爆風と衝撃波をまとめて放った。
「があああっ!」
「きゃあっ!?」
ほぼゼロ距離からの不意打ちだ。
さすがのミリエラも【魔眼】を発動する暇さえない。
一瞬にして彼女のライフポイントはゼロになった――。
「勝った……!」
俺は勝利の余韻に浸りながら降下していく。
このまま地面に叩きつけられるとどうなるんだろう?
闘技場は防御結界があるから、たぶんダメージはないはずだ。
とはいえ、この高さから落ちていくのは結構怖いものがある。
「……念のため」
ごうっ!
ほんの少しだけ残しておいた爆風のストックを地面に向かって吐き出し、その反動で衝撃を相殺した。
おかげで軟着陸成功だ。
「ふうっ」
俺は大きく息を吐きだした。
それから上空を振り仰ぐ。
ミリエラはまだ呆然としているのか、翼をはばたかせて空を舞ったまま。
降りてこようとしない。
「勝負はついたぞ。もうその姿を解いたらどうだ?」
「……る……るぉ……ぁ……」
ん?
「ぁぁ……おお……ン……ぅぅぅああぁぁぁ……」
彼女の口から意味をなさない言葉が漏れ続けている。
なんだ、様子がおかしい!?
「うあああああああああああああああああああっ!」
そして、ミリエラは絶叫した。
ばさり。
その背から広がる黒い翼がより長大に、より禍々しい形に変化する。
その全身を覆う魔力が漆黒に変化し、今までとは比較にならないプレッシャーを放つ。
「お、おい、なんだよ、これ――」
ミリエラが――ミリエラではない何かに、変わろうとしている……!?
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