18 【魔眼】の女帝
「じゃあ――始めましょうか」
ミリエラがニヤリと笑う。
ヴンッ!
その瞳がまばゆい光を放った。
「!」
俺はとっさに横に跳んでいた。
本能が告げたのだ。
何かが――やばい、と。
ごうんっ!
俺がさっきまで立って場所が粉々に吹き飛んだ。
さらに二発、三発。
続けざまに周囲が吹き飛んでいく。
「今のは――」
不可視の衝撃波……だろうか?
同時に俺のスキルの弱点に気づき、ゾッとなった。
俺の【
威力そのままに撃ち出すこともできる。
攻守両面を備えた強力なスキルだ。
対象が剣のような物理攻撃だろうと、炎や稲妻などの魔法攻撃だろうと、なんでも食える。
だけど……『見えない』ものは食べられない。
「今のあたしは上級魔法と同等以上の魔法を連発できるからね。ボーッとしてると怪我するわよ」
瞳を赤く輝かせながらミリエラが言った。
「発動速度が最速かつ強力な魔法を連発できる【魔眼】……か。俺のスキルとは相性が悪いな」
ゆっくりと後ずさり距離を取る俺。
とにかく、少しでも間合いを取るんだ。
距離が近ければ近くなるほど、今のを避けるのは難しくなる。
「距離を取る――か。まあ、妥当な選択よね」
ミリエラが微笑んだ。
「かといって、うかつに近づけば、君には瞬時に魔法を撃ち出す能力がある。あれって、自分の中に『ストック』でもしてるのかしら?」
図星だが、もちろん答える必要はない。
わざわざ手の内をさらしても仕方がないからな。
「不意打ちで撃たれると、さすがに避けられないかもしれないね。だから――」
ばさり。
ミリエラの背中から黒い何かが広がった。
「なっ……?」
あれは――。
「翼……!?」
そう、ミリエラの背から黒い翼が生えていた。
なんだ、これは……!?
ゲームのミリエラにこんな能力はないはずだぞ。
どうなっている――!?
「【
ミリエラが厳かに告げた。
「一時的に魔族に変身し、魔族と同等の力を得る――これがシュターク家に伝わる固有魔法。実際に発現できるのは、数代に一人程度のレア魔法だけどね」
ばさり、ばさり。
翼をはばたかせ、ミリエラが宙に浮かび上がる。
「空から近づいて一方的に殲滅する――たぶん、それが最適解でしょ。あたし、こう見えても君を最大限に警戒してるのよ?」
上空という死角から自在に攻撃できるミリエラ。
地上にいるしかない俺。
絶対的に不利な状況だ――。
「魔族になったあたしは、魔力量も数倍にアップする。この距離からでも――」
ヴンッ!
ミリエラの魔眼が輝く。
「ちいっ……」
俺は床を転がるようにして、不可視の衝撃波を避けた。
ごううううんっ!
大爆発が起こる。
「うわ……」
フィールドの半分が消し飛んでいた。
とんでもない破壊力だ。
「魔族の魔力量に飛行能力、そして魔眼の速射能力――これが本気になったあたしよ」
ミリエラが勝ち誇るように笑った。
これが、学園の女帝の真の力か――。
俺は戦慄した。
強い。
信じられないほどに。
「どう? 降参する?」
ミリエラが促した。
「……俺は」
正直言って、少しうぬぼれていたのかもしれない。
強力なスキル【暴食の覇者】を得たことで。
ただそれだけで、世界中の誰にでも勝てるような気持ちが湧いていたのかもしれない。
実際、このスキルで俺は連戦連勝だった。
けれど、世の中、上には上がいる――。
「参った――」
ミリエラを見上げ、そう言ってから、
「――するわけねぇだろ!」
叫んだ。
心からの叫びだった。
ちょっと困難なことがあったら諦める。
どうせ自分には無理だと投げ出してしまう。
前世の俺がそうだった。
思い返せば情けない話だ。
転生しても結局おなじことをしていたら――前世と何も変わらない。
「だから――お前との戦いはきっと試練なんだ」
上空のミリエラを見据えた。
「俺は今こそ、俺を乗り越える――」
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