14 学園の女帝ミリエラ登場

「最近、君の噂を随分と聞くわ。一年生の有望株はラフィーナやマナハ、後は天才と名高いリドル辺りだと思っていたけど……どうやら、とんでもない隠し玉がいたようね」


 ミリエラは優雅な笑みを浮かべながら、俺に歩み寄ってくる。


「俺は今、読書で忙しいんだ、先輩」


 俺はあえて素っ気なく答え、ふたたび魔導書に意識を戻した。


 食べるのに夢中なフリをして、この場をやり過ごそうと思ったのだ。


 彼女にどうかかわるべきか?


 それを整理するまでは、あまり深く関係を持たない方がいい。


 俺の破滅フラグがどう進むか分からないからな。


「ふうん。あたしより魔法書の方に興味があるのね?」


 ミリエラはじっと俺を見つめる。


「っ……!?」


 異様なプレッシャーを感じる眼光に、俺は思わず顔を上げた。


 彼女の真紅の瞳の中心に、複雑な紋様が輝いていた。


【魔眼】。


 ゲーム本編において最強の魔法スキルの一つだ。


 魔力がこもった瞳は、魔法発動の補助をしたり、魔力自体を増幅したり、あるいは瞳から直接魔法を放ったりと応用の用途が非常に広い。


 その力が、ミリエラを学園の【女帝】たらしめている要素の一つだった。


「ところで――」


 ミリエラは【魔眼】の光を消し、普通の目に戻ってから微笑んだ。


「来週、三年生と一年生の代表で親善試合があるのを知っている?」


「ああ、確かゲーム内のイベントであったな」


 俺は思わずつぶやいた。


「ゲーム?」


 ミリエラが不思議そうに首をかしげる。


「あ、いや、なんでも……」


 しまった、と内心で舌打ちしつつ、俺は首を振ってごまかした。


「あたしも代表の一人として試合に出るのよ。君と試合ができればいいわね」

「俺は代表に入るか分かりませんよ?」

「入るわよ」


 ミリエラはくすりと微笑んだ。


「新入生の代表選手の中には『推薦枠』があるのよ。教師や上級生から見て有望な生徒を推薦するの」


 言って、俺をまっすぐ見つめるミリエラ。


「あたしは君を推薦するつもり。後は対戦できることを祈るのみ、ね」

「……なんで俺なんですか」


 俺は眉をひそめた。


「【予知】よ」


 ミリエラの瞳が、また妖しく輝く。


「あたしの【魔眼】が秘めた七種の魔法の一つ――【予知】に君が出てきたの」


 予知……だと?


 ミリエラが【魔眼】を持っているのはゲーム通りだけど、そんな能力を持っている設定はなかったはずだ。


 この世界は、俺が知っているゲームの世界とは異なる部分もあるのか?


 それとも――。

 と、


「随分そいつを高く買ってるんですね、ミリエラ先輩」


 凛とした声が、俺たちの間に割り込んできた。


 つか、つか、と足音高くマナハが歩いてくる。


「あら、噂の令嬢騎士さんね」


 ミリエラはマナハを一瞥し、にっこりと笑った。


「確か、そっちの彼にあっさり負けたとか? 噂ほどじゃないのね、君って」

「……ケンカ売ってます?」


 マナハが勝ち気な表情をむき出しにした。


「そうね。軽く売っておこうかしら」


 ミリエラは少しも動じず、にこやかに笑みを浮かべたままだ。


「出る杭は早めに打っておきたいからね。頂点は変わらず、このあたし――ミリエラ・シュタークであると証明するために」

「じゃあ、あなたはガロンが『出る杭』だと思っているわけですか」

「少なくとも君よりも、ね」


 ミリエラの魔眼が挑戦的な光を放った。


「いずれ、あたしの脅威になるかもしれない――そう考えているわ」

「そいつより、あたしを警戒したほうがいいんじゃないですか?」


 マナハが負けじと挑発する。


「警戒?」


 ミリエラはつまらなさそうに肩をすくめた。


「君を? どうして?」

「……やっぱりケンカ売ってますよね」

「じゃあ――買ってくれる?」

「いいですよ」


 完全に売り言葉に買い言葉だった。




 会話の流れのまま、二人は決闘することになった。


 やれやれ、面倒なことになったぞ……。


「じゃあ、俺は読書があるから、これで」


 俺がそそくさとその場を離れようとすると、


「「ちょっと待ちなさい」」


 二人が同時に俺を引き留めた。


「何言ってるのよ。君が発端なんだから、ちゃんと見届けなさい」

「ガロンにも見せてあげる、あたしの実力を。っていうか、ミリエラ先輩を片付けたら、次はあんただからね」

「いや、俺は読書が」

「「じー」」


 二人同時にガン見された。


 ……こんな目で見られると、落ち着いて読書もできやしない。


 どうやら、この厄介事から逃れる術はないらしい。


「わかったわかった。手短に頼むぞ」


 俺はため息交じりに本を閉じた。


 そして渋々、二人と一緒に模擬戦用の決闘場へと向かうことになったのだった――。


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