11 嫌味な教官に身の程を分からせる
翌日、俺たちは校庭に整列していた。
「はい、みなさん静粛に。これより本日の実習を始めますよぉ」
俺たちの前にいるのは、昨日のゴリ教官とは別の教官だ。
やせぎすで、陰険そうな印象を与える細面の男――名前はローンバル。
豪快で熱血漢のゴリ教官とは、まったく正反対のタイプであり、ゲーム内での人気も低い。
まあ、いわゆる憎まれ役だ。
「ガロンく~ん。君は昨日、一人でキングオークを倒したそうですねぇ」
そのローンバルがさっそく俺に対して厭味ったらしい口調で話しかけてきた。
「はい。昨日の演習で」
「いやいやいや、そんなはずはないでしょう。君は入学試験の成績、実技も筆記もすべて含めた総合査定で最低のEランク評価ですよぉ。そんな生徒が、Aランクモンスターのキングオークを倒せるわけがないじゃないですか」
周囲の生徒たちが、ざわざわし始める。
「確かに、言われてみれば……」
「昨日のあれは、何かの間違いだったんじゃ……」
せっかく昨日、少しは見直されたと思ったのに、空気がまた元に戻っていくのを感じる。
「ゴリ教官も、まったくいい加減な報告を上げてくるから困ったものですよ」
ローンバルがわざとらしくため息をついた。
「きっとキングオークは何かのはずみで弱っていたんでしょう。それを、たまたま君が発見して、とどめだけ刺した。そういうことですよねぇ?」
どうやらこいつは、頭から俺の戦果をインチキの類だと信じて疑っていないらしい。
ただ、ここで舐められるわけにはいかない。
このまま『卑劣な手を使って手柄を横取りしたインチキ野郎』なんて評判が立ってしまったら、クラスでの俺の立場は最悪なことになる。
それはつまり、ゲーム本編で描かれた『誰からも嫌われる豚伯爵』としての破滅ルートに、また一歩近づいてしまうことを意味していた。
それに、そんな計算高い理由を抜きにしても――。
「理不尽に疑われたままで黙ってられるか」
俺はふんと鼻を鳴らした。
「んん? なんですかぁ、ガロンくん。私の言っていることに、何か反論でも?」
「反論なら大いにありますね」
俺はローンバルに対して顎をしゃくった。
教官だろうがなんだろうが、引くつもりはまったくない。
「ほう……面白いことを言いますねぇ。では、聞かせてもらいましょうか。君の反論とやらを」
ローンバルはまだ、俺を完全に見下している。
「俺の反論は簡単です。実力でもって証明する――というやつですよ」
「実力?」
「そう、俺の力がインチキでもなんでもない本物だってことを――先生が、直接その体で確かめてみますか?」
「……なんですって?」
「だから、あんたが俺の相手をすればいいって言ってるんだよ。そうすれば、俺がキングオークを倒したのがまぐれじゃないって、すぐに分かるだろ」
俺の言葉に、今度こそローンバルの表情から笑みが消えた。
「ガロン様……!」
ラフィーナが、心配そうに俺を見た。
「あ、あの、いくらなんでも教官相手にそれはまずいのでは……!」
「ん? 俺を心配してくれてるのか、ラフィーナお嬢様」
俺が悪戯っぽく問いかけると、なぜか彼女は顔を赤くした。
「い、いえ、その……えっと……」
恥ずかしそうにもじもじし始めた。
「――ガロンくんと、お話しちゃった」
ん? めちゃくちゃにやけてないか、ラフィーナ?
しかも今、ちょっと話し方とか雰囲気が変わってなかったか?
「……ふっ、ふふふ。いやはや、驚きました。さすがは悪名高い豚伯爵。言うことだけは一丁前ですねぇ」
ローンバルは鼻で笑った。
「さすがにそれは調子にのりすぎですよ、ガロンくん。生徒が、教官である私に勝てるわけがないでしょう。身の程を知りなさい」
「そうですか? 確かに、ゴリ教官が相手なら手ごわいと思いますが……」
俺はここぞとばかりに挑発の笑みを送る。
「あなた程度なら、大した手間もかからないかと……おっと、失礼」
「き、貴様ぁ……!」
ローンバルの顔が真っ赤になった。
「いいでしょう……! そこまで言うのなら、望み通りにしてあげますよ!」
ローンバルは金切り声を上げた。
「これから模擬戦でその思い上がりを叩き潰してあげましょう! 生徒と教官の間にある、決して超えられない壁というやつを思知らせることで!」
訓練場には、大勢の生徒たちが集まっていた。
観客席がぎっしり埋まっている。
「おいおい、すごい人数だな」
俺は苦笑した。
自身の権威を見せつけようと、ローンバルが生徒たちを集めたのだろう。
名目上は「上級者の試合を見ることも大切な訓練です」なんて言っていたが、当然そんなものは建前だ。
本音は『生意気な豚伯爵ガロンを、大勢の前で完膚なきまでに叩きのめし、さらし者にしてやる』といったところか。
「くくく、さらし者になるのはどっちかな?」
俺は不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、始めましょうか。いつでもいいですよ?」
対するローンバルは自信満々だ。
俺がいつ攻撃してきても返り討ちにしてやると、そう言いたいのだろう。
「いえいえ、教官から来てくださいよ」
俺はひらひらと手を振り、手招きをして挑発する。
「ハンデです」
嫌味な教官に身の程を分からせてやる――という気持ちもあるが、何よりも俺のスキルは、相手に先に攻撃を出させることが肝要だからな。
挑発は、俺にとっての基本戦術だ。
うまく乗ってくれればいいんだが。
「……なんだと」
ローンバルの余裕の笑みが消えた。
お、いいぞ。
思った以上に精神的に打たれ弱いのか、簡単に挑発に乗ってくれそうだ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます