8 モンスターを『食う』
「そういえば……」
そのとき俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
「そもそも攻撃じゃなくて、モンスター自体を食えばいいのか?」
スキル【
ならば、生命体であるモンスターだって食えるんじゃないだろうか。
「うーん……ゲテモノ食いだが」
さすがにモンスターを丸ごと食べるのは、少し抵抗がある。
そう思った次の瞬間、
ぐうううううっ……!
俺の腹の虫が盛大な音を立てた。
目の前にいるゴブリンやオークの群れを見ていると、強烈な空腹感がこみ上げてくる。
「なんか……奴らが美味そうに見えてきた……」
じゅるり、と口の中に唾液が湧く。
と、
グルアアアアアア!
残ったゴブリンとオークの群れが一斉に襲いかかってくる。
「ええい、食っちまうぞ! いただきまーーーーーーす!」
覚悟を決めて大きく口を開いた。
俺のスキルが、その効果範囲にモンスターたちを捉える。
すると、
しゅうううううう……んっ!
襲いかかってきたモンスターたちが、次々とまばゆい光の粒子へと変わっていく。
光の粒子はそのまま俺の口の中へと吸い込まれた。
「んむっ!? こ、これはっ!!!!」
俺はカッと目を見開いた。
口の中に広がる、経験したことのない味わい。
光の粒子を吸い込んだからか、生臭さを感じない。
ただ濃厚で、豊潤で、コクがあって、旨味があって――。
『美味しさ』のエッセンスだけが口の中一杯に広がっていく感じといおうか。
それはまさに極上のグルメ体験だった。
「う、うまーーーーーーーーい!」
絶叫する俺。
『ゴブリンを食したことで、俊敏性が0.05上昇しました』
『オークを食したことで、筋力値が0.05上昇しました』
俺のステータスが上がったことを、脳内に響くメッセージが告げる。
ん? いつもよりステータスの上昇幅が大きいかもしれない。
モンスターを直接食すと効果が大きいんだろうか?
俺たちは、森の奥へと進んでいった。
道中、出現するモンスターはすべて俺が美味しくいただいた。
そのおかげで、班のメンバーは誰一人怪我をすることなく、順調に探索を続けることができた。
そして――森の最深部にたどり着いた。
そこに待ち受けていたのは――。
「キングオークか」
俺は表情を引き締めた。
通常のオークの数倍はあろうかという巨大なモンスターが、玉座のような岩に腰かけている。
みすぼらしい格好の他のオークと違い、豪華な刺繍の入ったローブをまとい、頭には金の王冠をかぶっている。
両手にはそれぞれ巨大な剣が握られている。
二刀流による連続攻撃と高いHPを誇り、ゲーム本編では中盤のボスとして登場する強力なモンスターだ。
グオオオオオオオオオッ!
キングオークは俺たちの存在に気づくと咆哮を上げた。
「う、うわ……強そう」
すさまじい威圧感に、他の生徒たちは恐怖で顔を青くしている。
まあ、訓練用の相手だから本来のキングオークより弱い可能性はあるけど――それでも手ごわそうだった。
ただ、俺は恐れない。
「ボスキャラはどんな味がするのか……ザコとは違う最高にデリシャスな味を提供してくれよ。じゅるり」
不敵に笑い、口の端からこぼれたよだれをぬぐった。
さあ、メインディッシュの時間だ――。
俺は平然とキングオークに向かって歩き出した。
「嘘でしょ……キングオークはAランクモンスターよ。あいつ一人で何をする気なの……」
振り返ると、マナハが信じられないといった様子でうめいている。
「ガロン様……」
ラフィーナは祈るように両手を胸の前で組んでいた。
「心配するな。すぐに終わる」
俺は二人に向かってニヤリと笑ってみせた。
それから、ふたたびキングオークに向かっていく。
どたどたどた。
……まあ、デブだからスピードはのろいな。
ステータスが上がったっていっても、微々たるものだし。
と、
グオオオッ!
キングオークは両手に握った巨大な剣を振りかぶった。
二本の剣がに同時に襲いかかってくる。
【ツインブレードアタック】。
二刀流による、回避困難な連続攻撃スキルだ。
だが、俺に回避という選択肢はない。
「いただきまーす!」
と、大きく口を開けた。
ちゅるんっ。
二つの斬撃が――その威力が、丸ごと俺の口の中に吸い込まれる。
当然ダメージもゼロだ。
ぴろりーん!
『スキル【
『キングオークの斬撃を食したことで、筋力値と物理耐性が上昇しました』
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