7 サバイバル訓練で無双する
翌日、俺は学園の実戦授業に参加していた。
生徒たちはいくつかの班に分かれ、『魔物の森』と呼ばれる広大なフィールドでのサバイバル訓練に挑む。
これは実際にゲーム内でも存在するイベントだ。
フィールドは学園の敷地内とはいえ、本物の魔物が徘徊している危険な場所だった。
「いいか、お前ら! 今日はモンスター討伐の実習だ! フィールドには凶暴な魔物がうろついているから、決して油断するんじゃないぞ!」
教官が声を張り上げた。
ごつごつした岩石を思わせる武骨な風貌と鍛え上げられた巨躯。
そのコワモテの容姿から、ゲーム本編では『鬼軍曹』という綽名で呼ばれている中年教師だった。
実は生徒思いで熱い一面もあり、一部のプレイヤーからは根強い人気を誇るキャラクターだったりする。
「それにしても、名前がゴリ……って、そのまんまだよな」
俺は思わずクスリと笑ってしまった。
と、その声が聞こえたのか、ゴリ教官がぎろりと俺をにらみつけた。
「特にガロン! お前は足手まといになるなよ! この前の演習でも、真っ先に逃げ出して足を引っ張っていただろうが!」
相変わらずの劣等生扱いだが、これまでのガロンの行いを考えれば当然の評価かもしれない。
けれど、今の俺はもう違う。
オリジナルのガロンとは、違うんだ。
「心配いりませんよ、教官。今の俺は強いですから」
自信たっぷりに言い返すと、ゴリ教官は怪訝そうに眉をひそめた。
「……何も変わったようには見えんがな。そのだらしない体も、貧弱な魔力も。あいかわらずの豚伯爵だ」
ゴリ教官はジト目で俺を見ている。
確かに、スキルのおかげで魔力やステータスは上がっているものの、まだ劇的に変わったわけじゃない。
だけど――、
「まあ、見ていてくださいよ」
俺は不敵に笑った。
この実戦授業は、俺のスキル【
「……ん?」
ふと見ると、ラフィーナやマナハも同じ班にいた。
二人とも緊張した面持ちだ。
ゲーム本編から考えると、今はまだ入学して間もない時期のはず。
ゲームが進んでくれば、二人とも熟練魔術師顔負けの実力を身に付けるほどの成長を遂げるものの、この段階ではまだまだルーキーだ。
「本物の魔物が出るんですよね……怖いですけど、皆さんの足を引っ張らないように頑張らないと……」
「大丈夫よ、ラフィーナ。あたしがついてるからね。魔物なんて全部やっつけてやるわ」
そんなラフィーナを励ますように、マナハが力強く宣言した。
俺としては原作のヒロインたちとこれ以上関わるつもりはないが、授業で一緒になるのはどうしようもない。
まあ、なるべく距離を取って、近づかないようにするか。
「よし、それでは訓練開始だ! 各自、班で協力して課題をこなせ!」
ゴリ教官の号令を合図に、俺たちのサバイバル訓練が始まった。
さて、どんな『ごちそう』が待っているのか――。
「楽しみだ」
俺はペロリと舌なめずりをした。
俺たちのサバイバル訓練が始まった。
班ごとに分かれて、森の中へと足を踏み入れる。
魔物の森――。
名前の通り、この広大な演習フィールドにはさまざまな種類のモンスターが生息している。
もちろん、いずれも学園が訓練用に調整したものだ。
生徒の命を奪うような凶悪さを発揮しないように、特殊な調教が施されているらしい。
それでも、その攻撃力は本物。
まともに食らえばただでは済まないし、脅威であることに違いはなかった。
「きゃあっ、ゴブリンの群れよ!」
「こっちはオークが来たぞ!」
さっそく、同じ班の生徒たちが悲鳴を上げた。
森の木々の間から、緑色の肌をした小鬼【ゴブリン】と、豚の顔をした亜人【オーク】が姿を現したのだ。
どちらもゲームでは序盤に出てくるザコモンスターで、あまり強くない。
だけど実戦経験に乏しい新入生からしたら、十分に恐怖の対象だった。
「なんだ、ゲームそのまんまだな」
そんな中、俺の心は妙に落ち着いていた。
何しろ、毎日のように見慣れたグラフィックそのままの姿なのだ。
おかげで、これが実戦だという緊張感が薄れていた。
ゴブリンが棍棒を振りかぶり、オークが汚れた剣を構える――その動きも、ゲームで見たモーションとそっくりだった。
と、
「うわあああっ! 【ファイアボール】!」
生徒たちが迎撃の魔法を放つが、焦りからか狙いが定まらない。
その隙を突いて、ゴブリンの一体が無防備な女子生徒に石つぶてを投げつけた。
「危ない!」
俺はとっさに彼女の前に躍り出た。
「いただきますっ!」
飛んできた石つぶてが、俺の口の中にちゅるんと吸い込まれる。
ぴろりーん!
『スキル【
『ゴブリンの投石を食したことで、物理耐性がわずかに上昇しました』
ステータスが少しだけ上がったけど、これはあくまでもオマケ。
俺の狙いは、
「そら、お返しだ!」
吸い込んだ石つぶてを、同じ威力でゴブリンに向かって吐き出す――こっちが本命の狙いだ!
「ぎゃっ!?」
放たれた石はゴブリンの額に命中し、昏倒させた。
続いて、オークの一体が俺に向かって突進してきた。
巨大な剣が振り下ろされる。
だが、俺は慌てない。
「それもごちそうだ!」
剣の軌道に合わせて、ふたたび口を開けた。
刃が俺に届く寸前、まるでゼリーでもすするように斬撃そのものが俺の口の中に吸収されていく。
『オークの斬撃を食したことで、物理耐性がわずかに上昇しました』
「……!?」
攻撃を吸われたオークが、驚きに目を見開いている。
「よし、剣の攻撃も『食え』るな。ちょっと怖かったけど……」
俺はつぶやきながら、吸収した斬撃をそのままオークに返してやった。
ざしゅううっ!
見えない刃がオークの体を真っ二つにする。
「す、すごい……」
ラフィーナが呆然とつぶやく。
「あんな戦い方、見たことないわ……攻撃を食べて、跳ね返すなんて……」
マナハも信じられないといった表情で俺を見つめている。
他の生徒たちも、さっきまでの恐怖を忘れて、俺の戦いぶりに釘付けになっているようだった。
「ガロンくん、すごい!」
「かっこいい……!」
特に女子生徒からは黄色い声援まで飛んでくる始末だ。
悪役豚伯爵のはずの俺が、まさかこんな声援を受けるなんて――。
悪くない気分だった。
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