4 完全勝利、そしてメインヒロインとの出会い


「ち、調子に乗るなよ、豚野郎! 【ファイアスピア】!」

「【ウィンドサイズ】!」


 他の男子生徒がそれぞれ炎の槍と風の鎌を放ってきた。


 どちらも高い威力を秘めた中級の攻撃魔法だ。


 だけど今の俺にとっては、ただのごちそうだった。


「くははは、おかわりどうも!」


 二種類の魔法をまとめて平らげる。


 ぴろりーん!




『スキル【暴食の覇者ベルゼール】が発動しました』

『中級攻撃魔法【ファイアスピア】を食したことで、これを獲得しました』

『中級攻撃魔法【ウィンドサイズ】を食したことで、これを獲得しました』

『魔力値が合計で0.1上昇しました』




「く、くそっ、こいつなんでも食っちまうのか!?」

「そら、返すぜ!」


 俺は【ファイアスピア】と【ウィンドサイズ】をまとめて吐き出した。


 奴らは魔法を放った直後で、すぐに次の魔法は出せない。


 どー……ん!


 爆風とともに、奴らはまとめて吹っ飛ばされた。


 いちおう命に別条がないように、奴らの前方で炸裂させておいたけど――、


「思ったより派手に吹っ飛んだな」


 俺はポリポリと頬をかきながら苦笑した。


 ともあれ、完全勝利だ。


 前世のうだつの上がらないサラリーマン人生では、こんなにスカッとしたことは一度もなかった。


「へへっ……勝った」


 俺は勝利の余韻に浸る。


 それから、これからのことに思いを馳せた。


 そう、このスキルの運用方法について、だ。


「ステータスは食事をしてもちょっとずつしか上がらない。けれど、このスキルがあれば、相手の魔法やスキルを食って、その場で自分のものにできる」


 つまり、こういうことだ。


「俺のステータスはまだまだ低い。けど、それを補って余りあるだけのスキルがある。当面は魔法やスキルを食って、身に付けて……それを上手く使ってステータスの不利を覆す。そういう戦法を取った方がよさそうだな」


 よし、とりあえず整理できたぞ。


「うん、立ち回りさえ間違えなければ、無双できるだけのポテンシャルがあるぞ、俺!」


 破滅エンド確定の悪役デブ。


 そんな運命、この【暴食の覇者ベルゼール】で食い尽くしてやる。


 俺の新たな人生は、まだ始まったばかりだ。




 チンピラ貴族たちを撃退し、俺はとりあえず自分の教室へと戻ることにした。


 スキル【暴食の覇者ベルゼール】の新たな可能性を見出したのは大収穫だった。


 魔法すら喰らい、自分の力にできる――。


 これさえあれば、破滅エンドを回避できるかもしれない。


 そんな希望を胸に抱き、俺は意気揚々と廊下を歩いていた。

 と、


「きゃっ……!」


 角を曲がったところで、誰かとぶつかってしまった。


 ぼよんっ。


 俺の分厚い腹に弾き飛ばされた相手は、派手に尻もちをついた。


 ふわふわしたピンクブロンドの長い髪に、愛らしい顔立ちをした絶世の美少女だった。


 ん? もしかして、彼女は――。


「大丈夫か、すまない」


 俺は倒れている彼女に手を差し伸べた。


「……いえ、私もちゃんと前を見ていなかったので」


 彼女は俺の手を取ろうとはせず、自力で立ち上がった。


「ぶつかってしまい、申し訳ありません」


 と、丁寧に頭を下げる。


 あらためて間近で見て、間違いないと悟る。


 彼女こそ『メルファン』のメインヒロイン――ラフィーナだ。


 伯爵家の令嬢であり、心優しい性格で誰からも好かれる癒し系の美少女だった。


 そして、原作のガロンはラフィーナに粘着した結果、主人公の怒りを買って断罪されるのだ。


 言ってみれば、彼女は俺を破滅エンドに導くトリガーのような存在だった。


「いや、俺の方こそ済まなかった。怪我はないようで何よりだ」


 俺も頭を下げ、


「じゃあ、俺はこれで」


 ラフィーナに背を向けて、すぐにその場を去ろうとする。


 とにかく、余計な関わりは持つべきじゃない。


 確か原作だとこんな感じのイベントがあった。


「俺の靴を舐めたら金貨1000枚をくれてやる、なんて脅すんだよな……」


 最悪の悪役ムーブだ。


 もちろん、俺はそんなことを言うつもりはまったくない。


 余計なトラブルを招いたら破滅エンドへ一直線だ。

 と、


「く、靴を舐めろですって……」

「……えっ?」


 俺はギョッとして振り返った。


 見れば、ラフィーナがワナワナと震えながら俺を見つめている。


 しまった、今の独り言、聞かれたのか!?





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