第3話

7


「宮廷騎士団のライナスと申します、

私が、姫様の子供の父親です。」


“おお”と言う驚きとも安堵とも取れる声が漏れた。


「我が娘と関係を持ったという証拠はあるのか?

近頃、金だけ欲しさに、見も知らぬ奴もやってきてのう」

「姫様の太腿の内側には、ハート型のホクロが2つあります。」


おお、これは本物だ、

皆んなほっとした顔をしてライナスを見た。



「姫は部屋に閉じ込めてある

会って行くか?」


「姫様、ライナスです、

貴女の子供の父親です。

どうか私と結婚していただけませんか?」


王女は焦点の合わない目をしていた。

それはルルナの言っていた復讐に燃える瞳ではなかった。

何の光も持たない、ただ空虚だけが映し出された瞳だった。


「ええそうよ、この子の父親はあなたなのよ。」




「ライナス君すまない。」

国王は何もかも理解しているようだった。


「君には婚約者がいるのだろう?」

「話し合って別れてきました、

今回のことは、彼女が勧めてくれたのです。


彼女の気持ちに報いるためにも

一生かけて姫様を幸せにすることを誓います。」


「そうか、迷惑をかけるのうー

ところで、王家と男爵家ではいくら降嫁と言っても釣り合いが取れん。


ちょうど、後継者がいなくなって宙ぶらりんになっている伯爵家がある、

それを君にあげよう、


領地も豊かだから、一生あの馬鹿娘を食べさせていくにも困らないだろう。」


「お言葉ですが、失礼を承知で言わせていただきます。

姫様は、決して馬鹿ではございません。


ただ、寂しくて

陛下に振り向いて欲しかっただけなのです。」


暫く沈黙があった。

「そうか、そうだったな」



8


結婚式の準備は大急ぎで整えられた。

ロイヤルウエディングに恥じぬよう、国一番の神殿と馬車によるパレードが用意された。


グリーンリーヴ伯爵となったライナスは、

ドレスの上からでも大きなお腹がはっきり分かる姫様と一緒に、神父(仮)の前にいた。


「では、誓いのキスを」


その時、扉が勢いよく開いて大声が響いた。

「やっほー、姫ちゃん迎えに来たよー!」


皆んな一斉に振り返った。

「子供ができたんだって?

知らなくてごめんな、

ギリ間に合ったぜー」


男は4.5人の従者を引き連れて、祭壇の上にズカズカ上がってきた。

「あ、国王様、これ俺の子だから」


参列の貴族たちはザワザワした。

「どなたですかな?」

「たしか、隣の隣の国の、チャーリーとか言うバカ王子です。」


「こないだ遊びに来た時

姫ちゃんとできちゃってね、


いやー

うちの親父も、この国と姻戚関係を結べるなんて、でかしたって喜んでるしさ、」


国王が口を挟んだ、

「ちゃんと説明してくれぬか、」


「あー、街で姫ちゃんと意気投合してね、

俺たち5人でひっぱり込んで、

皆んなで姫ちゃんグルグル回して遊んだわけ、


楽しかったよなー」

「うん、すっごく面白かった!」

4人の従者たちは、聞いていられずに下を向いた。


貴族たちはまたザワザワした。

(5P、いや6P?)

(なんてうらやましい、いいや、いやらしい!)


「そん時の子だよな、結婚しよう」

「そうだねー」


「そういう事だから、新郎は俺だから、

おまえどけ、


すっげ、パレードの支度もできてんじゃん」


王子は自分のシャツを引っ張った、

「これじゃマズいな、

おい、おまえそのタキシードの上だけちょっと貸せや」


王子はライナスの上着を取り上げて

自分は上半身裸になると、ボタンも留めずに肩から羽織った。


「どう、イケてる?」

「うん、カッコいい!」


国王が思い出したように口を挟んだ、

「あの、ちょっとすまん、

いらん世話かも知れないが、

皆んな一緒にやっちゃったってことは

余計に誰の子か分からぬのではないか?」


「ああ、誰でも別にかまわねーよ

どうせ皆んな俺の従者だから、なーっ!」


従者たちは、一斉に目を背けた。


「よしじゃあ行こう、パレードだー!」


「あはは、子供を産んだら、また皆んなで遊ぼうなー」

従者たちは、国王にペコペコ頭を下げて、王子たちの後を追った。



ライナスたちは、式場に取り残された。


「ハチャメチャな奴だな、」

「ある意味、大物ですね。」


「そうだな、

しかしわしはもう...疲れた...」



9


姫様とチャーリー王子は台風のように去って行った。

俺はルルナに、またプロポーズした。


返上すると言った伯爵位は、

“ルルナさんとの結婚祝いとして受け取っておきなさい、”

と言われたので、そのまま拝命して

俺は正式にグリーンリーヴ伯爵になった。



10年後


隣の隣の国からは、何のクレームも来ないので、姫様はあの王子と結構仲良くやっているらしい。


俺は異例の速さで、宮廷騎士団の団長になり、

ルルナは親子でコーディネートできるドレスショップを経営している。

3人の子供にも恵まれて彼女は大忙しだ。


「あれ、また国王陛下からの注文かい?」

「姫様のところで4人目が産まれるんですって、

だからベビードレスを一式、」


「へえ、お得意様だね」


ライナスは後ろからルルナの肩を抱いた。

「じゃあ、姫様に負けずに、

うちも4人目はどうだい?」

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ルッコラ王国興亡記 @komugiinu

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