第一章 6 終わらせる為だから
コクピットに腰を下ろすと油と鉄の匂いが鼻をさす。思わず言葉に出てしまう、これだと。この匂いは最初の時は、臭くて苦手だった。だが、今久しぶりに嗅ぐと懐かしく感じる。ノスタルジックに浸る趣味はないが、今それに浸る人達の気持ちがわかってくる気がする。
「スゥ……はぁ……こんな感じだったのか。」
操縦席に寄りかかり。目を閉じる、訓練の記憶を思い出す。整列と並んだ編隊の旋回、無線越しの規律ある声。厳しい時も凹みかける時も、広い空を飛んでその悩みを吹き飛ばしてきた。
しかし、その悩みを吹き飛ばしてきた。相棒と言えるものが悩みを作り出してしまった。戦場での記憶だ、綺麗だった青空は戦火という黒煙や火花で穢れされた。
敵機を補足したら、ミサイルで早速打ち込む。撃てるだけ撃ち。自分の得意な、ドッグファイトで相手を追い込むまでだ。敵を補足次第、ミサイルを撃てるだけ撃ち込んむと決めた。
これが、イリーナにとっての不運になる。
冷たい北方の空を、一二機のSU-三五が一直線に進む。あまりにも、静かだった。HUDに映るレーダーにはなんの反応もない。ただだだっ広い空を並行して飛ぶだけの静けさは、あまりに不気味だった。
『静かすぎる……』
緊張と胸騒ぎの裏腹に、静かな戦場のギャップが、ロシア空軍に恐怖が送れた。閃光と共に、味方の四機が瞬く間に爆炎に変わったのだ。
『どこだ!?クッソ!!ステルス機か!!』
イリーナの読みは当たった。この悪寒とレーダーに映らない。奇襲でミサイルを撃たれたのだ、イリーナの部隊はすぐさま反撃に移った。
そして、気づいた。動きと練度の良さとあまりにも戦い慣れてる動きでイリーナは冷や汗をかく。何せ、相手はステルス航空機【F-二二】を搭乗してる。アメリカ精鋭部隊【トップガン】と交戦しているのだから。
また無線に悲鳴が走った。
編隊を組んでた味方機がまた一機、なんの前触れもなく炎に包まれた。
警告音がならない不気味な戦闘機もはや、ゴースト機のF二二の奇襲。レーダーで捉えられない分、目視でギリギリで捕えないといけない
「……ッ…後ろか!?」
視界を影に捉えるより早く、旋回し。F二二に背後へ回るように速度を上げた。獣が獲物を狙うように一機の撃墜を狙うも、それは無理な話。後ろにまた食いつかれた。仲間も全滅していく、次は自分と何できない恐怖を合間に敵のミサイルが近づく。
―――死ぬ。
コクピットから、叩かれる音が聞こえる。気がついた時には、コクピット内で眠っていた。懐かしさと悔しさを鮮明に夢で体験していた。赤羽がコクピットを叩いて起こしたことにより。現実に引き戻された、寝汗やトラウマを見た影響で心臓の鼓動が早くなっている。赤羽が、様子見に来たので、コクピットのハッチを開く
「なんだ、あんたか。赤羽」
「いや、懐かしいだろ?イリーナ 」
「あぁ、そうね。でも、もう満足よ」
「いいのか?」
「ええ、いいの。後で鉄くずにしてくれても構わないわ。私は、ノスタルジックに浸る趣味は無かったから……」過去のほつれが、軽くなってきたのか。いつも向ける。笑みがいつもより柔らかく、イリーナは日本語で「ありがとう」と懐かしの
「へへ、いいってことよ」
△▼△▼△▼△
犬神は、団長の鶴谷修也の言葉を受けて思った。この人が血の匂いが濃かったのと、やるせなさは。きっと、その分キツイ思いがあったからと察した。
犬神は、部屋には向かわず。赤羽隼人という人がいる。ガレージに足を運ぶ、なんせ。車とガンシップやそれに機械を潤す、グリスやオイルくさい匂いは割と嫌いじゃなかったから。
「赤羽さんとこに、行ってみよ。鶴谷団長の事を知れそうだし」
犬神は、基地の外に出歩き。鶴谷修也が止めていった、ガレージに足を運ぶ。
赤羽隼人がいるガレージに足を運んだ。
(やっぱり、オイルくさい)
ただ、悪い感じではない。むしろ、好きだった。周りにあるのは、セダン車や初めて見た飛行機だった。
犬神は思わず足を止めた。
格納庫の奥に鎮座している鋼鉄の塊――ガンシップ。
「……でっけぇ……飛行機なのに、武器だらけじゃねぇか」
まるで空を飛ぶ城塞のように見えた。顔は、サメをモチーフにしている。 ベースは、AC-一三〇の機体。デザインで、尾翼には狼の顔と下に【L.A.S】と部隊名が書かれていた。
「狼の部隊なんだ…」人狼の犬神からしたら、少し恥ずかしさがあった。ガンシップに見とれていると、
「おい、何をしてるの?」
低くもよく通る声。犬神が振り返ると、金髪を後ろで束ねた女が腕を組んで立っていた。
黒いフライトスーツに映える。鋭くも真っ直ぐな青い瞳と表情を一切買えてないような気丈な態度、肩口の髑髏のパッチ。
ハッキリ言って美女がそこにいて、思わずドギマギした。
「いや、え…と」
「ん?あぁ、すまない。自己紹介が遅れた、私は"イリーナ・ペドロヴィッチ"。あなたが新人だね」
犬神はしどろもどろになっていた、長い金髪を後ろに結んでるポニーテールの美女に、話しかけられる。なんて、始めて事だったから。緊張してる、犬神健人の姿を察したのか。自ら、緊張をほぐす為にフランクに自己紹介をした、イリーナは新人に握手をしようと手を差し出す。
「あぁ、初めまして…犬神 健人と申します。これから、よろしくお願いします。」
「ハハ、そんなに固くならなくていいんだよ。」
(びっくりした……思わず固まってしまった。初対面で、いきなり美女に話しかけられるのは、慣れてねぇんだから。)
犬神からしたら、稲荷に対しては家族のような感じの人だったため。異性としての魅力ではあんまり感じてなかった。もちろん、魅力的な人ではあるが。
「ガンシップに見惚れてたのね」
「えっ……あぁ、はい。」
「いいデザインだもんね」
「そうですね……。あぁ、そうだ!赤羽さんとこに」
「隼人なら、ほら真っ直ぐに」
赤羽隼人は、パワードスーツの調整を行っていた
ガレージの奥で、低い金属音が響いていた。
犬神が覗き込むと、黒鉄の巨体が鎮座している。
人の形をした装甲機――鈍色の甲冑を纏った怪物のようだ。
その胸部パネルを開き、配線に手を伸ばしている男がひとり。
油に汚れたツナギ姿、真剣な眼差し。
赤羽隼人はレンチを軽く叩きながら、巨体と会話するように呟いた。
「……よし、反応炉の同期はズレてねぇな。
あと一歩で実戦投入できるか?」
彼がボルトを締めるたび、重装甲の影が微かに震える。
無口な機械と、それを相手にする職人。
犬神は思わず息を呑んだ――
これは、ただの兵器ではない。平和を望んでる人たちを守るための武具なのだから。
「あのぉ……」
「ん?おぉ、新人の犬神くんか」
「知り合いだったのね」
「まぁな……んで、どしたんだ?部屋でゆっくりすりゃいいのに」
犬神には聞きたいことがあったのだ、鶴谷修也に聞いたように。赤羽隼人という男にも、気になったから。戦う理由を、知りたいから。この人からは、血の匂いより。金の匂いもあったから
「赤羽さん、あなたにとっての戦う理由は?……団長の理由も聞いて気になったので」
「団長はなんて?」
「あぁ、"忘れないため"だって聞きましたから」
赤羽は、鶴谷修也の言葉『忘れない』って言葉に納得すると同時に、悲しさもあった。鶴谷修也は多くを失った過去をある、失って欲しくない人を沢山失ったから。
色々、整理したいがため。ポケットから白色のケースを取り出し、中には先端が茶色のタバコ。彼は、指先でそれをくるりと転がし、口に咥える。
金属ライターの蓋が鳴り、オレンジ色の炎が短く灯る。火をつけた瞬間、甘く焦げた香りがガレージに広がった。
一口吸って、静かに煙を吐く。
灰色の煙が天井に昇り、蛍光灯の光をぼやかす。
「……終わらせてぇからだよ……」
赤羽は低く呟き、レンチを置いた。
整備灯の下、油に濡れた手が微かに震えている。
「勿論、俺だけじゃねぇ。ここにいる奴ら――LASの連中も皆、同じだ」
犬神が黙って頷くと、赤羽は遠くを見るような目で機体を見上げた。
その視線の奥には、過去の戦場よりももっと深い影が宿っていた。
「……昔な、俺は武器商人だったんだ」
唐突な告白に、犬神は息を呑んだ。
赤羽は苦笑し、懐からタバコを取り出す。火をつけ、煙を吐いた。
「幼い頃、俺は貧しかった。金がなくて、飯もロクに食えねぇ。 けど、毎日の楽しみが町中華のチャーハンでな。その店の店主が良心的で、普通料金で大盛り貰ったくらいだ。そんなんじゃダメだって思ってな、だから“作る側”になったんだよ。 銃を売れば食える。弾を流せば、金が入る。
……最初は、それで家族を養えりゃそれでいいと思ってた」
煙の向こうで、赤羽の目がかすかに揺れる。
声は淡々としていたが、その奥には長年押し殺した苦痛が滲んでいた。
「だけどな――気づいたんだ。
俺が作った武器で、子供たちが苦しんで行った。 自分が金に困りたくねぇって悶えて頑張った結果が、将来のある子供らが犠牲にさせてしまったんだ……」
タバコの灰が落ちる。金属音が響くガレージの中、静寂が重くのしかかった。
なりたかったものになれなかったから、自分を助けてくれた誰かのように、支えれるような人になりたかった。気がつけば、誰かの人生を奪っていた。将来有望な少年少女の命を自分が金に困りたくないって想いの犠牲にさせてしまった。やるせなさだった
彼は再びレンチを握りしめ、機体の装甲を叩いた。
乾いた音が、まるで過去を責めるように響く。
「だから、俺は戦いに欲をかく連中に嫌気が差した。
この手で生んだ地獄を、せめてこの手で終わらせたい。
俺だけじゃねぇ――ここにいる連中も、皆そうだ。 戦友や、恋人、肉親を失ったヤツらだっている。みんな、何もかも戦争で失ったから
……だから俺たちは戦うんだ。終わらせるためにな」
静かな煙が、上昇して天井の光に溶けていく。
犬神はただ、その背中を見つめていた。
重い罪を背負いながら、それでも立ち続ける男の背を。
その姿は、どんな機械よりも強く――
そして、哀しかった。けど、彼は心配するなと言わんばかりに、ニヤっと口角を上げて。
「まぁ、武器商人時代より給料は下がったけど。後悔はねぇよ……」
「フフ…本当に、なにかと軽口わないと行けないのか?」
思わず、犬神もブフッと笑い出してしまった。イリーナは腕ん組んで軽口に少し呆れつつも
笑っていた。赤羽は、笑ってくれたことを安心していた。
赤羽は静かにタバコを灰皿に押し付けた。
灰が落ち、わずかな火花が散る。
犬神はその背中を見つめながら、何か言おうとした――その瞬間だった。
──ブオオオオッ……!!
ガレージ全体に警報のブザーが鳴り響いた。
赤い警告灯が一斉に点滅し、無骨な鉄骨の影が血のように染まる。
「……来やがったな」
赤羽が低く呟き、タバコを指先で弾いた。
煙が弾けるように散り、空気が一変する。
壁の通信端末から、焦りを含んだ女性オペレーターの声が響いた。
『各隊に通達! レインボーブリッジにて団長 鶴谷修也たちが交戦中!
敵勢力は重装備、戦闘規模は拡大中! 至急支援を――!』
犬神の表情が固まる。
「団長が……」
赤羽は無言でツナギを脱ぎ捨て、下に着込んでいた私服に着替える。
さっきまでの穏やかで軽薄そうな整備士の姿は、もうどこにもなかった。
その瞳に、鉄のような覚悟が宿る。
「お喋りはここまでだ。……イリーナの機体、まだ完璧じゃねぇが動かせる。 犬神……、お前は後々場数を乗っていくだから。そこから、理由を作っていけ」
赤羽は端末を叩き、ガンシップへのエネルギーラインを開放する。
圧縮空気の音が響き、ガレージの床が震えた。
犬神は慌てて立ち上がりながら、全身の緊張が走るのを感じていた。
数分前まで聞いていた「戦いを終わらせたい」という言葉が、
今、自分の足元で現実となって動き出していた。
「……了解っす!」
赤羽は短く笑い、ヘルメットを手に取る。
「行くぞ。団長を放っとくと、また無茶しやがる」
警報が鳴り続ける中、二人は走り出した。
鉄の扉が開き、眩しい白光が差し込む。
その先には、火の手が上がる湾岸の街――レインボーブリッジが見えていた。
「アルマスまでの支援は――最短でも四十五分だと!?」
オペレーターの報告に、修也の顔が険しく歪んだ。
レインボーブリッジは崩落寸前。
敵の軽攻撃機が橋上を旋回し、銃弾の雨を降らせていた。
「クソッ……間に合わねぇ……!」
副団長・遥がバリケードの裏で息を荒げる。
遮蔽物は焼け焦げ、通信は雑音だらけ。
もう一発撃たれれば、誰かが持たない――そう思った瞬間。
――ズドォォンッ!!
爆音が夜空を切り裂いた。
上空から、火線を引いて突き刺さるミサイル。
敵機が光の中で爆散し、橋の上に爆風が吹き抜けた。
「な、何だ!?」
修也が顔を上げる。煙の向こう、夜空に巨大な影が現れた。
両翼を広げた黒い巨体――LASのガンシップだ。
機体側面の銃座が火を噴き、次々と敵を撃ち抜く。
スピーカーから、聞き慣れた男の声が響いた。
『――待たせたな、ひよっこ共!!』
赤羽隼人の豪快な声。
ガンシップの腹部ハッチが開き、白光が洩れる。
吹き上げる風と共に、重い金属音が響いた。
「隼人、私は行くわ」
「あぁ、行ってこい!」
そこに立っていたのは、漆黒のパワードスーツ。
その装甲は月光を反射し、機体の下で女の姿が現れる。
イリーナ・ペドロヴィッチ。
彼女は静かに外部ハーネスを外し、ハッチの縁に立つ。
「おいおい、まじで!?」
修也の言葉を背に、彼女は笑った。
挑発的で、どこか楽しげなあの笑み。
『援護は任せなさい、団長。――今、空から地獄をお届けするわ!』
その言葉と同時に、彼女は飛び降りた。
夜風を切り裂きながら降下する黒い影。
背部のスラスターが閃光を放ち、着地と同時にアスファルトが砕けた。
『イリーナ、パワードスーツ起動! これより地上支援に入る!』
通信が響き、戦場の空気が一気に変わった。
絶望に沈みかけていた仲間たちの胸に、再び灯がともる。
その中心に立つのは、鋼鉄の翼を持つ女――
LASの“空の死神”、イリーナ・ペドロヴィッチだった。
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