第一章 7 橋上での奮戦【後編】

 この世では、幸運と不幸は紙一重で行われる。鶴谷修也にとっての幸運は、軽攻撃機の餌食になる所で仲間の赤羽隼人とイリーナ・ペドロヴィッチが操縦してる。ガンシップで、軽攻撃機を撃墜してくれた事で万死に一生を得れたのだ。


 あまりにも生きた心地がした、今ので全員が思った。

 

 ――ここで、死ぬと。


 だけど、今生き残ったのだから。緊張が緩み始めてきた時に、ガンシップの腹部ハッチが開いた。背部と脚部のスラスターでバランスを取りながら、鶴谷達の近くに着陸した。


 ズシリと鈍く吹き上げる風と踏み込んだ橋のアスファルトのカスが吹き上げられた、重い金属音が響いた。 大きめな人型の影が見えた。それは、この間の今朝に見た。開発中のパワードスーツだった、けれど前見た時より少しコンパクトな形になっていて、役二メートル三〇くらいに抑えられてて。前見たマッシブより、変わってて少し驚いた


「おいおい、まじで!?」


『前線は、任せて』


 黒い装甲兵パワードスーツが静かに立っていた。

 全身を覆う艶のない装甲は、光を吸い込むように鈍く沈む。

 肩は大きく張り、腕と脚には重厚なプレートで覆われた鉄人がそこにいた。


 低く凛々しいような硬く、美しいような声が装甲兵から響くように聞こえた。それだけで、搭乗者がわかった。LASのパイロット イリーナ・ペドロヴィッチであった。


 敵側も、装甲兵パワードスーツの参戦に隊列が乱れて行った。それも、その通り。"装甲兵"の実戦運用は未だに行われていなかったのだから。


 重厚感の装甲と二メートルくらい体格の威圧感で中には銃を構えつつ、後ずさりする者もが多かった。二メートル前後くらいの鉄人が現れたら逃げたくもなる。


 しかし、少数の敵が目の前にいる。装甲兵に怯えずに銃を構え、放ち続けてた。


「くそ!それが、どうしたんだよ!!」


「何発か当てれば!!」


「こんな、デカイ的を作ってるだけだ!!撃て撃て!!」


 敵の弾丸が、黒装甲をカンっ!と乾いた音が跳ねていく。

 コクピットを守るように、腕を交差させ衝撃を受け流すように両腕を上げて身を守る。表面の装甲が、僅かに凹んだだけで、貫通には至らない。


 だが、それは小口径高速弾での話だ。

 もし仮に、スナイパーライフルで使用される。大口径や対物ライフルを撃ち込まれれば。貫通に至るだろう、なにせ。機動性を重視されて軍用に運搬されている装甲車程度の防弾でしか施されていなかった。


 しかし、身を守り続けても。ただの格好の的になってしまうのは事実。


『ちっ、隼人。どうする?このままだと格好の的よ?』


『まぁ、即席だったからな。ランチャー以外だったらどうにかなるんだが。』


 ある時、イリーナは妙案を思いつく。周りには、銃弾により、フロントガラスが割れてる車両やボンネットが凹んでヘッドライトのカバーガラスが割れて、ライトが丸出ししてるのもあれば、ランチャーでの爆発で車が横転しているのが周りに見えた。


 要するに廃車が道を埋めつくしていた。鶴谷達率いるLASやSABTの隊員達が銃弾から身を守る壁にしているので、ボコボコに凹んでて使い物にならない。


 単純な話、廃車になってるんだし。投げてしまえばいいと。


『隼人、このスーツの馬力は?』


『え?あぁ、三百馬力超えはあると思うが?』


『なら、行けるわね?』


『えぇと、何を?』


 イリーナはコクピット内でニヤッと、口角を上げて。"決まってるじゃない"って悪役みたいな笑をこぼしてた。


 なんの偶然か、イリーナの近くに。鶴谷修也の愛車 GR八六が弾丸でヘッドライトが割れて、ボンネットが凹まれてる赤と黒のツートンカラーがそこにはあった。


『おっ!ちょうどいい所に』


「おい、イリーナ何してるの!?」


 イリーナの装甲兵が両手で愛車を持ち上げてる姿を目の当たりにして、思わず動揺する。無理もない、車を頭の上に持ち上げてる。紛れもなく、銃を発砲している敵に向けて投げる気だなんだと。見ただけで察し、鶴谷は必死で止めに入る


「オイオイオイオイ!!やめろ!まじで、やめろ!!それ、高かったんだよ!!」


『ウラアアアアア!!!』


 イリーナは発砲を続けてる敵に向けて勢いよくなげつけた。勢いよく投げられてくる車に敵は驚愕し、後退をするも時すで遅く、背中を向けた時には車体のルーフ部分が目の前に押し寄せていき。


 ガシャッ!

 と敵は、約一・二tの重さする。スポーツカーの下敷きになった、無事では済まない。


 それは、敵だけでの話ではなく。味方も同様だった、特に鶴谷修也という一人の男は心がズタズタになってしまった。


 もし仮に、人生最大の幸運が軽攻撃機に攻撃される前に味方機が撃墜して生き残れた事だとして。


 人生最大の不幸は、仲間にしかも部下に自分の愛車を武器の代わりに投げつけられて廃車にされたこと。


 まだ、直せばギリギリ乗れるはずなのに。それを、容赦なく目の前で八六をルーフから凹まされた。今まさに、幸運をに不幸で塗り替えられた。まだここは戦場であるのにも関わらず、鶴谷修也は放心状態になった。


 鶴谷修也にとっての不幸があまりにも唐突すぎるからか、銃弾もまだ飛びかかってる中で、石のように固まってるからか。中野碧は、鶴谷修也の肩を叩く正気に戻すように


「ちょっ!?団長!団長!お気を確かに!?」


「ハッ!やべ、あまりにも愛車が無惨な姿になってるから……ちくしょうガアア!!」


 ハッと気づいたはいいが、途中で怒りが湧き始めてきた。なんで、人の愛車を無惨な姿にさせるのか?もちろん、緊急事態であれどここまでする必要性があるのか?とイライラが募り。無線で赤羽に聞き出す


「おい、誰だよ!あんなバカ戦闘の仕方教えたの?」


『いや、俺じゃねぇよ!!急に、イリーナが投げつけたんだろうが!?』


「だとしても、スポーツカーを投げなくていいだろ!!」


『わーったから!!後で俺名義で新しいの新調してやるよ!!』


「絶対だぞ!ちくしょう!」


 怒りで無線を切り、自分の身を隠してたフロントタイヤから、起き上がり残りの敵に目掛け銃口を向けるも。イリーナの乗ってるパワードスーツが、他の人が乗ってたであろう車両を、八六を投げたトに同様に敵になげつけて居たのだ。鶴谷は、その光景に唖然した


「あのバカを早く止めるぞ!!とりあえず、敵を見つけしだい。拘束しろ!情報が欲しいから!」


「了解!」


 パワードスーツに、武装が施されず素手ってのもあるからか。攻撃方法としての効率がいいのは、目の前にある。廃車寸前な、壊れかけの車両を投げることなのかもしれない。


 まぁ、その戦果が公を成したのか。ソナリアンの敵兵は撤退していったのが見えた。イリーナは、敵の後を追おうとするが


「やめとけ!!」


『……しかし』


「俺らの装備はもう、ギリギリだ。そして、何より。戦闘を目的にしてないからな。」


『Поньяра(了解)』


 これにて、端上での前線での大部分はこれにて。LASとSABTでの活躍により。この場は、何とか抑えれた。

 しかし、その中での犠牲者も少なくなかった。


 逃げ遅れた民間人での死傷者数約七名と重傷者とで五〇名以上と関係の無い人達が巻き込まれてしまった。死傷者の中にSABTの隊員も混ぜるなら。一三名ともなった。




 △▼△▼△▼△




 避難列はゆっくりと進んでいた。

 泣き叫ぶ子どもを抱えた母親、荷物を背負った老人、誰もが口を閉ざしている。

 足音と、時折聞こえる遠くの爆音だけが空気を支配していた。


 地面は砕けたガラスと砂埃で覆われ、踏みしめるたびに小さな音が鳴る。

 焦げた匂いが風に混ざり、胸の奥が重くなる。

 誰もが下を向き、ただ前に進むことだけを考えていた。


 カナタは列の端を歩きながら、周囲を警戒していた。

 目立たぬように、しかし確実に。

 民間人の一人が転ぶたび、彼はすぐに手を貸した。

「大丈夫、前を見て。ここを抜ければ安全圏だからね。」

 その声に、わずかに人々の表情が和らぐ。


 だが、どこか違和感があった。

 視線。動き。――群れの中に、異物が混ざっている。

 カナタは無意識に、右手を腰のホルスターへと下ろした。


 しかし、相手が早く銃口をカナタの、背中に突き立てていた。カナタは冷たい感触に銃口を察し。両手を肩の所まで上げて降参の合図をする。それに気づいた敵はカナタの耳元で囁く


「動くな。ここで、発砲されたくもなければ。そのスーツケースをコチラに渡しな?」


「あなた…ソナリアンね。なら、場所を変えましょ?その方がいいわ」


「変なまねするなよ」


「銃口を突きつけられたら…したくても出来るわけないでしょ…他に仲間は?」


「右に一人と左に一人で俺含め三人だ、三対一は分が悪いだろ?」


 カナタも流石に、無理と感じ。民間人の避難列から、ソナリアンの敵に銃口を突きつけられた状態で、民間人から遠く離れさせ。避難経路として扱われてる南ルートの歩行者用通路から、北方向の歩行者用通路の別側に誘導される。


 もちろん、大型のスーツケースと一緒に誘導されることになった。



 ーー目的の場所まで、カナタ・ハリスは誘導された。足元には、スーツケース。目の前には、MP七を構えてる。正面と左右に囲まれてた。余計な真似をしたら、三方面から、撃ち出されるような状況だった。

 カナタは、鋭く正面の男を見つめ。


「んで?私は、どうされるわけ?」


 正面の男は、スーツケースに目線を向け。


「これを、差し出せってことだ。」


 それでも、カナタは眉間に皺を寄せ、舌をべーと出し。


「"イヤ"って答えたら?」


 三人はMP七のコッキングレバーを引き、威嚇する。

「これで、蜂の巣にする」と語気を強める。


「あらら…」とカナタは、目をそらすと。耳元につけてた無線機から。声が聞こえ。『カナタさん、今スタンバイしたから。合図ちょうだい』と凛々しく澄んだ声が無線機に聞こえ。目元を遠くに視線を合わせると、遠くで狙撃準備してた。女性を見かけた。


「ーー気おつけた方がいいわね。」


「ん?何がだ?」


「次から"LAS"を相手するのは」


 カナタは、パーにしてた手を握り拳に変え、そしてまた開いた。敵から、したら。首をかしげ、ハテナの表情していた。



 ーーそれは、カナタが遥に向けた。狙撃の合図だった。


 パシュッ!

 と左の男が、側頭部を右から左へと弾丸が貫通し。撃たれ反動で左側へ勢いよく倒れ、右側と正面の敵が慌て始め、狙撃された方向へ向くそれが命取りだった。


 懐から、折りたたみナイフを取り出して。敵の脇から腕を通し、口元を抑え。


 ーー首元にナイフを近づけさせ、喉元を突き刺し。抵抗が弱くなり、バタッと力が抜けるように崩れた。それに気づいた隣の男は、銃を構えようとする前に、副団長 月宮遥つきみや はるかに左側でやられた男同様に、側頭部を撃ち抜かれ、バタッと倒れた。


「ふぅ〜、ナイスアシスト副団長〜」


「ふぅ…あまり、ヘッドショットしないから。緊張した〜」


「でも、腕は良好よ?腕は訛ってないわ」


「それは、ありがとう。カナタさん」


 カナタの目の前に現れたのが、黒帽子を被ってて鋭くもトパーズのような瞳で、両手に持ってるのは。組み立て式のボルトアクションライフルを装備してた。月宮遥 副団長。カナタは、団長である鶴谷修也の方は、大丈夫なのか?心配になり、聞き出すと。月宮遥は、渋そうな顔で、カナタに目線を逸らすと。さらに不安になった。


「えぇ!?大丈夫?まさか、やられたの!?」


「いやいやいや、やられては……ーーないけども!今は、そっとした方がいいと思う」


 カナタは、そのセリフで首を傾げるも。ただ、無事だったことが何より。だったため、生きていたことにはホッと胸を撫で下ろす。


「他のみんなも無事なのね」


「えぇ、サビットの隊員は何人か亡くなってしまったけど。LASはみんな無事よ」


「よかった〜」


 カナタは、心からホッとしたのと他の隊員が亡くなったのは居た堪れないが。今は、仲間が無事で一安心した。


 そして、遠くでピーポーピーポーとサイレンが鳴っていた。段々とサイレンの音が近づくと、人々の足音がそろって止まった。

 救急車の音が聞こえた瞬間、避難列の誰かが小さく「来た」と呟いた。皆が安堵と歓喜の声で、響いた。中には、一安心して涙をこぼして崩れた人やこの地獄から切り抜けてホッとした人達が救急隊員やレスキュー隊員達に助けられた。


 その光景を、二人は見届け。「良かった」と声に出て安堵した。月宮遥は、銃をしまえるように分解を施す。


 カナタは、スーツケースの所へ向かい。静かにしゃがみ込み、足を折り膝を落とし。スーツケースを手でなでおろし。囁く


「大丈夫だったでしょ?彼らは、強いし。もちろん、私もアナタのことを守るからね」


 遥は、スーツケースを撫で下ろしてるカナタ・ハリスの光景を見て。違和感を感じた、まるで誰かに囁きかけるように不安になってる子供に安心させるような目線でスーツケースに向けてる。


 それが、気になりだし話しかけようと思った時。


「結構派手にやったわね」

 気だるげな声で、通常より一回り大きい救急キットを持ち上げて。二人の前に現れた、白衣の女医が二人の前に現れた。遥は、苦笑しながら


「まぁ、相手が戦闘ヘリとか、潤沢じゅんたくした装備と対峙したからね。荒井さん」


 気だるげな、LASの軍医 荒井 京子あらい きょうこが。彼らの怪我を治療しに向かいに来ていた。

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