04.魔法使わなくても浮いてる系少女
「こうなってしまったからには仕方ないポム」
「こら、ダメじゃないですか、ポメりんさん、校内で喋ったりしちゃ。バレちゃったらどうするんですか? 自覚を持ってください」
夢実ちゃんにだけは言われたくないポム。
そして、どうやら小声なら大丈夫っぽいポム。なぜなら夢実ちゃんの周りに人がいないからポム。夢実ちゃん、めちゃくちゃ浮いてたポム。案の定ポムぅ……。
休み時間。二年B組の教室を出て、廊下の窓から外を眺める夢実ちゃん。腕に抱かれる僕。どうやら警察は帰ったらしい。ぬいぐるみを抱いてブツブツ言っていても「そういうもの」だと見なされる存在、それが高梨夢実だった。案の定ポムぅ……。
今年度から美柑ちゃんとも別クラスになり、教室では完全に独りぼっちだ。だからこそ、どうしても美柑ちゃんで欲求を発散しておきたかったポムね……。
とにかく正体がバレてしまった以上、既にメルティ・ポワールの魔力は落ちてしまったはず。本来ならもうそれを取り戻すことはできない。が、転んでもタダでは起きない妖精、それが僕だ。僕ポム!
正体バレを犯した場合でも、失った魔力を回復させ、かつ、正体の拡散を防ぐ方法がある。ただし、非常に限られた条件下でのみ使える裏技なのだが……今回の場合は、たぶん満たしている。
秘密を知ってしまった人物が少女であるなら、その子とも契約し、魔法少女にしてしまえばいいのだ。
同じメルティガールズに正体を知られていようとも、夢を壊すことにはならない。夢誘因子は減少し得ない。魔法少女が自らの魔力減少リスクを冒してまで、魔法少女の存在を広めるメリットがない。(ただ一人の例外を除いてだが。)
そもそもとして、メルティガールズを増やすことこそ僕の仕事であり、僕の目的を果たす唯一の手段なのだ。元からポワール一人で終わらせるつもりなどなかった。妖精一人で、二~五人ほどのメルティチームを作るのが理想である。と、妖精養成研修で習った。
つまり、これは一石二鳥だ。そして二日続けての幸運だ。僕の目に狂いがなければ、美柑ちゃんは高い夢誘因子を持っているはず。
あれほど気高く、心優しい女の子だ。夢を壊すなんて許さないという気持ちも十分。何より夢実ちゃんと親友やれてる時点で間違いないポム。魔法少女に相応しいポム!
そもそも、もうバレてしまっている以上、特にリスクもないのだ。万が一変身できなかったらそれまで。使わなかったジェ夢は夢エネルギーを維持したまま回収できる。口止めは頑張らなくてはいけないが、あの子ならきっと大丈夫だろう。約束通り、夢実っぺのたった一人の理解者として影ながら応援してくれるんじゃないだろうか。
「あっ、美柑ちゃ……」
ふと、夢実ちゃんが手を挙げかけ――そして下ろす。口をつぐむ。
そうだった。元々ここで、隣のクラスから美柑ちゃんが出てくるのを待ち伏せていたんだった。僕がそう頼んだわけではなく、夢実ちゃんが休み時間のたび、勝手にそうしているのである。ポムぅ……。
しかし今回、声をかけることは叶わなかった。
教室から出てきたポニーテール少女の周りには、派手目な女子三人がいた。四人でキャッキャうふふと盛り上がっている。
「……ふーん、そ」
「夢実ちゃん……?」
美柑ちゃんグループに背を向け、夢実ちゃんは何やら低い声で呟き、
「うふふっ、お花を摘みに行きましょう? ポメりんさんっ」
黒マスクの下で、朗らかな微笑を作り直すのであった。震え止まらないポムぅ……。
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