05.幼なじみにバレちゃった!

「はぁ……もう気づきましたよね、ポメりんさん」

「む、夢実ちゃん……えっと、何がポム……?」


 女子トイレの個室。夢実ちゃんは立ったままで、胸の中の僕に問い掛けてくる。返答を間違えたらヤバいので下手なことは言えない。「夢実ちゃんがぼっちなことポムね?」なんて口が裂けても言えないんだポム。


「学校のみんながどうしようもなくおバカさんってこと」

「確かにそうポム! もちろん気付いたポム!」

「やっぱりそうですよね。みんなレベルが低すぎて、夢実とちゃんとお話ができるのって、美柑ちゃんくらいしかいないんですっ」

「その通りポム! そこで提案なんだけどポム――」


 ポムの使い方、難しい――





「美柑ちゃんを、二人目の魔法少女に……?」


 僕の説明を聞いて、目を丸くする夢実ちゃん。感情が読めなくて怖いポム。でも今回に関しては、この子にとっても悪い話ではない。臆する必要もないだろう。


「そうポム! そうなれば美柑ちゃんとは、遠慮なく秘密の話をしていいポム! 欲求発散できるポムだし――」


 咄嗟に口をつぐむ。誰かがトイレに入ってきた。夢実ちゃんも顔と体を強ばらせる。

 足音は数人分。甲高く、品のない、女子の笑い声。おそらく洗面台の辺りで立ち止まり、


「てかさ、美柑。さっき、例のあの子いなかった?」

「さっきってか、いつもやで。一年のときも小学校のときも、常にウチにくっついてくんねん、アレ」


 聞き覚えのある関西弁。ピクッと動く、地雷系少女の体。僕はその顔を、見上げることもできない。

 う、嘘だろポム……いや、嘘ポムだろ……? だめポムだ。ポム文法がさらにわからなくなるほど混乱ポムしてるポヨ。もはやポムですらなくなってしまったピヨ。


「きゃははっ! 気付いてて無視したわけ? 美柑、ひっどー」

「酷ないねん! ウチだってアレのせいで先輩に目ぇつけられたりして迷惑してんねんから。あとあの香水の匂いキツいねん。ああいうの移ると、おっさんウケも悪なるし」

「それなー。おっさんって、変な清楚像求めてくんよね。香水と清楚さ関係ないっての」

「清楚像てか、処女膜な」

「あっはっ! でもあーし、初めから血ぃ出なかったんだけどー?」

「嘘こけや、ヤリマンすぎて覚えてなかっただけやろ」

「美柑にだけは言われたくねーわ!」


 またもや響く、下品な四重奏。耳を塞ぎたいが、腕ごと抱きしめられているので叶わない。つまり、この腕の主にも、耳を塞ぐ術はない。


「てか、ちゃうねん。実際に主張強すぎんねんて、あの匂いは。無味無臭ならぬ、無味激臭やな」

「出た、残りカスの無味ちゃん」

「大好きな幼なじみちゃんにそんなこと言われてかわいそー」

「や、実際中身ないねん、残りカスやから。味も身もない無味カスちゃん。妹の夢芽っぴは正反対なんやけどなー」

「それもずっと言ってるよね、美柑。マジでそんな可愛いの? 双子なのに?」

「マジやマジ。夢芽っぴは可愛くて頭良くて人気者で、だからこそ余計に腹立つんよなー、同じ顔で残りカスやから」


「…………ポっ……!」


 く、苦しいポム……! 急に締め付けが強くなったポムぅ……!


「せや、無味カスちゃんと言えば、おもろい話あんねん」

「ちょ、美柑、無味カスちゃんのこと好きすぎっしょ」

「きゃははっ、それな」

「いや、これはマジおもろいねんて! あの桜の件あるやろ? あれ、ねずみの怪人さん達がやったんやと。無味カスちゃんが言うとったわ」

「は?」「どゆこと?」「さすがに意味わからん」

「で、無味カスちゃんが魔法少女に変身して、怪人さん達を倒したんやって! 自慢げに話しとって、笑い堪えるの大変やったわー」

「ちょっ……」「ふっ……」「ぷぷっ……」


 誰かが噴き出すのを合図に、今までで一番の下品な笑いが響く。


 ポ――、ポムムぅーん……! 全っ然、信じられてなかったポムぅ! 正体バレせずに済んだポムぅ!


「あはっ、あはっ、ちょっ、マジで腹痛いっての! アレってそこまで痛い子ちゃんだったわけー!?」

「せやから虚言癖持ちなんやって、昔っから! 周りの気ぃ引くために嘘つきまくってなぁ、あの包帯もそうやし、都合悪いことも突飛な虚言で逃げようとするし……せやけど、今日のはさすがに過去一やな! 夢芽っぴが引っ越して、イキってんのやろか」

「きゃははっ! てか妹ちゃんも、イタ姉から逃げたかったんじゃん?」

「あり得るかもしれへんなぁ。実際、昔は双子同じ部屋やったんやけど、無味カスちゃんがぬいぐるみ溜め込んで邪魔やからって、逃げるように別部屋になったくらいやし。せや、ぬいぐるみと言えば、今日もまた新しいキモぐるみ持っとったで、アレ!」

「あ、それさっきも持ってたかも!」

「キモかったやろ? 犬のくせに赤て! 頭になんか枝と草みたいなん付いとったし! 何やあれ? ディズニー? サンリオ? ポケモンかぁ?」

「パチモンっしょ。妹のパチモンちゃんにお似合いなんじゃん?」

「きゃっはははーっ!」


 ポ、ポポポ、ポムムムぅーん……!!


「ちょっ、てか無味カスちゃんの話で盛り上がりすぎっしょ。もう次、始まっちゃうじゃん」

「それなー。ディズニーで思い出したけど、美柑のパパ活の話するはずだったじゃん」

「戻ろ戻ろ、ヤリマンダリン・オレンジの悪いパパ魔人退治の話はまた今度で」

「誰がヤリマンダリン・オレンジやねん、魔法少女風に言うなや! まぁ、もう夢の国なんてウチらの小遣いじゃ行かれへんしなぁ。悪いパパ魔人に連れてってもらうしかないねん。夢の国ホテルでささっとマジカル・マンダリン・マウスや! って、どっちのマウスやねん!」


 ヤリマン関西柑橘娘のノリツッコミを残し、トイレを出ていく四人衆。香水の残り香が鼻をついた。どないやねんポム……。


「…………」

「…………ポム」

「………………………………」

「………………………………ポムぅ……夢実ちゃん、苦しいポム……ぎゅーって締め付けないでほしいポム……死んじゃうポムぅ……」

「ん? え? どうしました、ポメりんさん?」


 急に明るい声が降ってきたので、つい上を仰ぎ見てしまう。


「む、夢実ちゃん……」


 夢実ちゃんは、目をニッコリと細めていた。黒いのにギラギラとした不気味すぎるオーラが見えた。どないやねんポムぅ……。


「夢実ちゃん、今のは、ほら、気にすることないポムだから、」

「え? 『今の』って何ですか? ごめんなさい、夢実、音楽聴いてたので何も聞こえませんでしたっ」

「は……え? え、え、え? 音楽?」

「はいっ! 魔法の透明イヤホンですっ。よいしょっと」


 片手で耳をゴソゴソやって、何も持たないその手をポケットに突っ込む夢実ちゃん。突飛な虚言出たポムぅ……! ヤリマンの言う通りだったポムぅ……!


 これはもう、身近な人間への正体バレはほぼないと見ていいのかもしれない。誰も夢実ちゃんの言うことなんて信じないんじゃなかろうか。

 ……まぁ、それにしたってさっきのは酷いポムけど。虚言癖があるからといって、陰口を叩かれる謂われなんて全くないポム。あのヤリマン、絶対性病持ちポム。


「で、何でしたっけ? なんか、美柑ちゃんを魔法少女にだとか何とか言っていた記憶がうっすらとありますっ。曲と曲の合間にそんなことが聞こえた気がしますっ」

「じょ、冗談ポムぅ。あんな女、メルティガールズに相応しくないポムぅ」


 そもそも絶対変身できないし。まず僕の夢を壊した時点で夢誘因子なんてあるわけがない。非処女が魔法少女になれてたまるかポム! 研修で習ったわけじゃないけど、そうに決まってるポム!


「ふーん。でも、魔法少女さんって他にもたくさんいるってことですよね? ポメりんさんも魔法少女を増やしたいってことなんですよね。じゃあ、夢実なんかいらないですね。夢実なんてどうせ友だちもいなくて学校でも家でも浮いてる痛い子ちゃんですし。誰からも求められてないですし。どうせ他の魔法少女さんが出来たらポメりんさんも夢実のこと捨てるんでしょう?」

「そんなことないポムぅ! 夢実ちゃんほどの強かわメルティは唯一無二ポムぅ! 僕の魔法少女は夢実ちゃんだけポムぅ! だから目のハイライトを戻してポムぅ!」

「……でも、夢実って臭いですし……」

「夢実ちゃんはとっても良い匂いポムーっ」


 僕は夢実ちゃんの胸に顔を埋めて必死にスリスリスースーくんかくんかした。実際、ベリー系の香りがして、僕は大好きだった。夢実ちゃんの部屋にあったモンパリというやつだろうか。メルティ・ポワールの洋なしの残り香も混ざって、唯一無二の甘さを生み出していた。


「…………っ、ポメりんさん……夢実もポメりんさんのこと大好きですぅー! ポメりんさんは夢実のことを唯一理解してくれる、大事な大事なお友だちですぅー!」

「ポムぅーん! 夢実ちゃぁーん!」


 僕をギューッと抱きしめてくる夢実ちゃん。黒マスクを外し、ほっぺをスリスリしてくる。僕の顔や首筋をスースーくんかくんかして「焼きリンゴの匂いがしますぅー!」と喜んでくれている。目の光りも戻ってくれたポムぅ! キラキラじゃなくてギラギラな辺りが、さすが僕の夢実ちゃんポムぅ!


 とにかく、悲しいこともあったポムけど、また二人で新しい旅の始まりポム!!


「ほんっとーに可愛いんですから、夢実のポメりんさんったら!」

「ポムぅ!」

「でもポメりんさん、元は人間の男子高校生だったんですよね」

「ポっ、ポっ……ポムムぅーん……」


 終わったポムぅ……。


「ご、ごめんポム。全然そういうつもりじゃなかったんだポム。ほんとポム。ほんとのほんとポム。二度としないから許してほしいポム」

「…………うふふっ」

「ポム……?」


 恐る恐る見上げると――夢実ちゃんは、顔を赤くして微笑んでいた。


「夢実ちゃん……?」


 その鮮烈な赤は、照れや羞恥による上気というより、興奮や高揚の紅潮のように見えてしまって。

 ツインテールの地雷少女は、血走った目で告げる。


「いいですよ、そういうつもりでもっ! 夢実とポメりんさんは唯一無二同士なんですからっ! それーっ、スリスリーっ、くんかくんかーっ」

「ポ、ポムぅーん!」


 彼女の感情が読み取れず、何と返していいか分からなかったので、とりあえずポムっておいた。やっぱ便利だわ、ポム話法。ポムぅーん!


      ♪ ♪ ♪


☆次回予告☆


 夢実ですっ! ポメりんさんとまた仲良くなっちゃいましたっ! 夢実ってなぜか嫉妬されてばかりだから、素直なお友だちが出来て嬉しいですっ! 今度ポメりんさんと夢の国デートしたいなぁー……って、ええー!? 夢の国に、また悪いネズミさんたちがー!? はわわわぁ……夢実、怖いです……でも、やっぱり許せないっ! みんなの夢の国は、夢実が守りますっ!

 次回、魔法少女☆メルティガールズ 第三話『大炎上!? 夢の国のネズミさん!?』

 夢に向かって、みんなでメルティ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る