03.カミングアウト
「おっはみー、
翌朝、快晴の春。夢実ちゃんが家を出ると、コテコテの関西弁が響いてきた。ちなみに僕は地雷系リュックに入れてもらってるポム! 顔だけヒョコっと出してぬいぐるみのフリしてるポム! この自己顕示欲モンスターを野放しにできないポム! 監視ポム!
「
両手を握り合ってキャッキャしている中二女子コンビ。聞いていた通り、お隣に住む幼なじみの美柑ちゃんと登校するようだ。
学校ジャージ姿と相まって、スポーティーな印象のポニーテール少女。地雷系アレンジセーラー+黒マスクの夢実ちゃんとは対照的だ。体格は標準的だが、夢実ちゃんが小柄なので十センチ以上の差があるようだ。背中に背負われてるから正確に測れないポムー。
「はぁ……せやけど、やっぱ寂しいなぁ。ウチ、毎朝窓から
「ねぇ、美柑ちゃん! そんなことよりツイッター見ました? あれ、うちの中学ですよねっ!」
ため息交じりの関西弁。それを遮る夢実ちゃん。やめろ、美柑ちゃん。幼なじみのくせにいきなり地雷を踏み抜こうとするな。
「あー、あれやろ! もちろんや! 情報通のウチを舐めてもらっちゃ困るでー!」
歩きながら例の投稿について盛り上がり始める二人。自分からその件に触れてどうするとツッコみたいところだったが――これは悪くないかもしれない。
そう、あの中学校は夢実ちゃんが通う学校だったのだ。まぁ、近所だし当たり前っちゃ当たり前なのだが。とにかく、そうである以上、校内でもこの話題は間違いなく出るだろう。ミーハーお喋り関西娘が親友であるというならなおさらだ。無理に避けようとする方が却って怪しいというものだろう。
「ま、言うてもあの光とスーパーマンを関連づけんのはアホや思うけどなー。光の投稿見てから思いついて作った画像とか、そんなとこやろ」
肩をすくめる美柑ちゃん。その指摘はツイッター上でもなされていた。実際、校庭画像の方が先に投稿されていたわけだから、時系列的にもそれは成り立つ。
「そ、そそそ、そうですかねーっ。なはははー……」
な、何ポム、その白々しい笑い方は……!
「ど、どうしたんや、夢実っぺ。そんなしらこい笑い方して……」
案の定、怪しまれてるやんポム!
「な、ななな、何でもないですっ! でもそうですよねーっ、あの校庭の炎だって、どうせ合成に決まってますもんねーっ、なはははーっ!」
「いや、あれは本物やで」
トーンが一つ落ちる。真剣な声音だった。
「ど、どどど、どういうことですか? あれはCGの炎じゃ……」
「朝練してるサッカー部の子からさっき電話来てな。校庭の桜の大木、あるやろ? あの木が部分的に焼けてたんやと。花もかなり焼け落ちてしもうてるみたいや」
「え……」
「何や警察も来て校長らと話し込んでるみたいやし……大方ヤンキーの花火遊びやったんやろうけど、意図的な放火の可能性だってゼロではないやん? まぁどっちにしろ、これは実際に起きた事件ってことやな。許されへんで。今日、入学式もあるやろ? 新入生の夢の第一歩を汚すような真似、あってええわけないやろ」
鋭い声音には、確かな怒気も含まれていた。悪の帝国の作戦方針、やっぱ間違えてなかった。桜台無し作戦、夢壊しには効果的なようだ。犯人は夢実ちゃんなんだけどな!
ま、まぁ、言っても桜は他にもあるわけだし……特に新入生の第一歩を彩るという意味では、校庭なんかよりも校門周りの桜の方が重要だろう! そっちの桜は無事ポム! メルティ・ポワールが守ったんだポム!
「夢実っぺも知っとるやろ? あの校庭の桜って、伝説の桜って言われてるやん? 満開の桜の下で付き合い始めたカップルは永遠に結ばれるって。その伝説に憧れて、私立蹴ってうち来る子もおるっていうくらいやし。実は例のサッカー部の子も、今日あそこで告るはずやったんや。泣いとったで? ほんま許せへん……!」
ポ、ポムムぅーん……! メルティ・ポワールが少女の夢壊しちゃったポムぅ……! 絶望させちゃったポムぅ……!
ちなみに人間の夢が潰えたときには絶望エネルギーっていう負のエネルギーも発生しちゃうポムぅ。説明したけど夢実ちゃんは興味示してくれなかったポムぅ……。
「……本当、ですね……っ、許せません、そんなの……っ!」
なんかプルプル震えてるポム。その震えは怒りポムか? 不安ポムか? それとも……。
「せやけど、夢実っぺ」
そこで美柑ちゃんはなぜか声をひそめる。
「何で『炎』ってわかったん? 桜が焼けてたってこと知らんかったんやろ? ツイッターでは『光』っちゅー情報しか出てなかったはずやけど」
ポムぅ!? この関西娘、めざといポムぅ!
「そ、そそそ、それは……っ」
夢実ちゃんも相変わらず白々しく動揺してるポムぅ! もしかして、わざとだったポムかぁ!?
でも、まだまだ取り返せる! ツイッターの情報からだけでも花火を連想くらいできるし、探し回ればそんな推測投稿も見つかるはずだ。それを目に入れてただとか、適当な嘘で切り抜けるだけだ!
「んん? ほんま、どうしたんや、今日の夢実っぺ。何やおかしいで? やっぱ夢芽っぴがいなくなってもうたんが寂しいんと、」
「夢実なんですっ! その写真!」
「……は?」
ポムムぅーん!! ついにやりやがったポムぅ! リュック越しにも熱が伝わってくるポムぅ! この女、高揚してるポム! やっぱ武者震いだったポム! ギンッギンのギッラギラだポムぅ!
「実は、ですね……っ、秘密にしていてほしいのですが……あの夜空を飛んでいたのは、夢実なんです」
「ど、どういうことや」
「校庭で桜を燃やしているねずみの怪人さんたちがいて……夢実は選ばれた少女として妖精さんに頼まれて、魔法少女に変身したんです……すごく怖くて……でも必死に頑張って、何とかねずみさんたちに帰ってもらえました……あの桜だけは守り切れず、本当に悔しいですけれど……」
「――――」
絶句して固まってしまう大親友。そして僕。
「――って、こんな話、信じてもらえるわけないですよねっ! なはははーっ、忘れてくださいっ」
「…………っ」
そ、そうだよな、うん、そうポム! 本人の言う通りポム! 実際の変身シーンさえ見られなければ、まだセーフだポム! 言葉で告げられただけで、こんなこと信じられるわけ――
「うん、わかったで、夢実っぺ。そういうことやったんやな。ウチ、信じるで」
「美柑ちゃん……!」
美柑ちゃんポムぅー! 信じちゃったポムぅー! さすが大親友ポムぅー!
「だって夢実っぺ、その手の包帯……それも昨日の闘いで負った怪我ってことなんやろ?」
「こ、これは……はい、そうなんです……。心配かけたくないから包帯だけで我慢してるんですけれど、ホントは少し動かすだけで、すごく痛くて……」
めちゃくちゃ滑らかな手つきでゆるふわツインテール作ってたポムぅ。
「そんな、ダメやろ、病院行かんと! 今日は帰ってゆっくり休みや!」
「ううん、みんなの様子が心配ですから……夢実の手なんかより、夢を穢されてしまったみんなの心の方が痛いはずです……」
「夢実っぺ……」
「それに夢実は、美柑ちゃんがいてくれるだけで大丈夫ですっ!」
「え……」
「ありがとう、美柑ちゃん! 実は一人で抱えてるのが辛くて……でも大親友の美柑ちゃんが信じてくれるなら、夢実、頑張れます! それに、美柑ちゃんだけには、隠しごとなんてしたくないですもん……っ」
今度はなんか背中がヒックヒックし出した。嘘泣きポム。怖いポム。ぬいぐるみのはずなのに震えてきちゃったポム。ファービーってやつポム。
「ふっ――あははっ、ほんっま泣き虫やな、夢実っぺはー!」
「ちょっ……こんなときにからかわないでくださいっ! 夢実は真剣に……」
「わかっとる。わかっとるで、夢実っぺ。ウチは絶対、夢実っぺの味方や。小一で転校してきたとき、ひとりぼっちやったウチを助けてくれたこと、一生忘れへん」
「……そんなことも、ありましたね……っ。あの日から、夢実と美柑ちゃんは……」
「そうや、永遠の大親友や! 魔法少女夢実っぺの闘い、ウチが応援したるでぇ!」
ポムムぅーん……往来で魔法少女とか言わないでくれポムぅーん!
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