EP.12 不時着
エイジ達の乗るアルテミス・クエルは敵の襲撃を避け見事地球に降下した。目的地はずれたものの仲間は誰一人と死にはしなかったが……。
「何処じゃここおおおおおお!!」
エイジはノア艦長の命令によりアルテミス・クエルの外に出るが叫ぶ、なぜなら雪が降っており気温も氷点下である。
後ろから厚着を着込んだノア艦長が現れる。
「どうやらここはグリーンランドのようです。雪を見るのは初めてで……感動です。」
「それは良かったですね……なんて言ってる場合じゃないですよ!」
『エイジさん、私も雪を初めて見ました。これぐらい積もってたら雪だるま作れますよ。』
ガイアリンクも反応する。
「お前に関しては何処に目付いてんだ!てか、なんで雪だるまなんだよ。」
「エイジ何やってんだ?こちとらボイラーを修理中に大きな声が聞こえたからよ。」
マルコスが顔を出す。
現在の状況だがアルテミス・クエルは先端にある対戦艦高出力ビーム砲が冷却に間に合わず大気圏突入時で熱によって破壊されその影響がエンジンまで渡ってしまった。
エンジンは複合型であり燃焼、蒸気、電気機関と存在しこの高出力ビームは電気機関の力を借りてタービンに接続し粒子を圧縮し放出するわけだが、直接繋がってるわけなのでエンジン部分がさらに破損しアルテミス・クエルの居住区まで問題が発生した訳だ。
手始めにマヤがシャワーを浴びに行った際水しか出ないため異変を察知し調べてみるとどうにもボイラーに問題があったようだ。アルテミス・クエルの生活の殆どはエンジンからの力を借りている訳でここをやられてはクルーの士気も下がるし生活も困難を極めるだろう。
「幸い通電はしてます。エンジンの出力は50パーセントを切りました、この地球の重力下ではまともに飛ぶ事はできないのです。」
「おいマルコス!手伝ってくれ!」
機関室統括マルテラが呼び立てる。
「へいへい、という事で行ってくるよ。」
マルコスの顔は見るからに疲れていた。
「そんな事より艦長俺は一体……。」
「一緒に散歩でもしましょうか。」
「こんな時にですか?」
「ええ、艦長命令です。」
意図は分からないが艦長の言う通りあたり一面の積雪を踏み締めながら共に歩く、目的地などなくただひたすらに……ただただ寒い。
そんな二人をメインブリッジからクルーが見下ろしていた。
「艦長、エイジさんと何話してるんですかね?」
エナは不思議そうにみている。
「男女で二人っきりなんだからそれはねぇ。」
シルア・ボーディンは意味深に話す。
「エイジ・スガワラ……まさか艦長にまで手を出すつもりか……。」
静かな怒りをリーは表す。
メインブリッジにマヤが姿を表す。
「あ、マヤちゃん。」
「いやーシャワー浴びようと思ったら水しか出なくてさー、びっくりしちゃった。ところで艦長は?」
「あそこだよ。」
エナは指を指す。
「は?」
「なんか兄弟って感じ。見た目も幼いしこれは禁断の恋が始まりそうな……。」
エナは意外とそういう趣味を持っている、そんな色恋話をしているとメインブリッジは殺意に包まれていた。
「良い趣味を持ってますね先輩は……時には覚悟が必要だって事を教えないと……。」
「なんか怖いよ……。」
補足だがエナとマヤは何かと仲がいい。
そんな殺気に包まれたメインブリッジの存在を知らず二人は話を始める。
「エイジさん、あなたにお願いがあります。」
「お願い?」
「ええ、あなたの乗る新型をどうか最後まで守ってもらいたいです。」
「そんな事を言われなくても敵には渡しませんよ。」
「いいえ違うんです。敵は内部にいます。」
「内部?」
「この写真を見てください。」
艦長はガイアリンクを使いホログラムを映す、写真だ。
「これって五号機ですよね?確か今はハンソンドロイドで管理されてる。」
「リーにも言いましたが、写真が粗い。急いで撮ったものと断定します、少なからず敵はハンソンドロイド社の中にいるとしてアルテミス・クエルも例外ではない。」
「なるほど……機体を敵だけに留まらず内部にいる味方にまで警戒しろと。」
「警戒だけではヌルいです。もう触らせないという域までいかないとキツイでしょう。」
ノア艦長は俺と二人で話したかった理由が恐らくこの会話を聞かれたくないからだろう。この会話を聞かれれば内通者が焦り強行に出る可能性があるからだ。
「とはいえ、触らせないなんて無理です。整備兵には修理させなくてはいけませんしハンソンドロイドでは点検されるでしょう。」
「うーん……。」
そもそも彼らの狙いはなんだ……機体の情報であれば戦力的な情報だろうか……そうであれば機体を一機だけ回収し解析すれば良い話、AD.Eシリーズはどれも設計が似てるのだから。
「敵は何故新型を?」
思わず疑問を口にする。
「私はADの頭にあるOSだと睨んでます。」
「OSなんてどれも同じでしょ?月政府のADだってルナティック・ブラックナイツの機体以外の一般AD頭部にOSを付けてますし……プラットフォームが違うだけで……。」
「ですがあなたのOSは変わってるでしょう?」
「まぁ……」
「まるで人のような思考……特別な何かがあります。月の目的はあなたの乗る機体かも知れません。現実問題、五号機の写真が敵に流出している。知らない方がおかしい。」
『確かに私は人のような思考が可能ですが所詮は情報の塊でありサービスを提供する存在にすぎません。彼らが私にどうこうしようとなんの意味もありませんよ。』
またガイアリンクが勝手に話す。
「この時点でおかしいです。ガイアリンクにこんな機能などない。あなたは何処にいるの?」
ノア艦長の目が鋭くなり質問を開始する。
『私……何処にいるのでしょう……。いえ、発信源はAD.E-1から発してます。』
「まさかと思うけど俺のガイアリンクをハッキングしたの?」
『はい。』
「てめ!」
通りであの時勝手に喋ったのだ、自室でパイロットスーツに着替えヘルメットを覗いてる時ガイアリンクのカメラから覗いて俺の疑問に答えた。
「生憎OSの分解は整備兵でも分からない……あれはシークレットになっていてハンソンドロイドにガイアコネクト社から派遣された職員しか整備できない。私達ができるのはOSの記録を取るぐらい……。」
ADの頭部には脳の役割のようにOSが存在し大きい球体の形をしている、あそこに機器を接続し主に戦闘データを抜いたり元々持っている機体のマニュアルや整備向けの設計データが存在してるぐらいで中身まで変えることなどできない。変えてしまえば照準システムにクセが出たり動いた時の挙動が変だったりと扱いに問題が生じる。変更できても操縦感度や銃の弾が無くなったら勝手に捨てるなど簡易的な設定ぐらいでシステム自体の改変はできない。
「OSの正体が何なのか私達は知る必要がある、政府が私達をモルモットか何かだと思っている可能性もあります。でなければこんな不思議な機体を送り付けて前線で戦えなんて怪しさ満点ですよ。」
「敵は月だけじゃない……。」
よく考えてみれば俺たちは前線で戦う予定だった、新型を若い兵士に委ねてデータを取り新しい量産型を製造。物量戦に持っていく訳だ。俺たちは都合のいい存在とでも言うような扱いだ。
アルテミス・クエルに戻る道中、ある事を思い出す。
「そういえば艦長。ありがとうございます。」
「何をでしょうか?」
「艦長の機転がなかったら俺はやられてました。まさかあの状況で戦艦までもを破壊するなんて。」
「ああ、あれは前から予想してました。」
「え?」
——大気圏突入する前……。
「エイジ機右舷の二隻に接近しました!」
「では、手始めに対戦艦高出力ビーム砲のチャージをお願いします。」
「良いのですか?敵との距離もあります。おまけにエンジンは80%しか出力できてません。ここからの放出ではビームが当たったとしても弱いでしょう。」
イシダ戦術長が指摘する。
「大丈夫です。この状況では絶対に敵はこちらに近づきます。切り替え式弾砲を採光弾に切り替え。」
「彩色弾切り替えました!」
「敵が接近した場合赤の彩色弾を発射しマヤさん達に知らせます。エイジさんは一機ですのでこちらに近づくのは難しいと考えましょう。」
「ではどのように……」
リーが質問する。
「こちらからエイジさんに合流します。今の状態は非常に危険でありADの機動性では対空砲も当たるか微妙です。ここでアルテミス・クエルに傷を付けられた上に回避運動として移動して着地ポイントをズラされるぐらいなら戦艦を落として降下した方がかっこいいでしょう。」
——と言うのをノアはエイジに伝える。
「ですが、最終的に背後を取られましたしおまけにビーム砲はお釈迦になりました。温かいシャワーすら出ない……なんかダメダメですね……。」
めっちゃ落ち込んでいる。何だろう……雪が降ってる事もあって哀愁がより感じる。
「でも艦長は良くやってるじゃないですか……年齢だって重い責任を背負うにしては若すぎるし、誰でもできる事じゃないですよ。」
「そう言っていただけるだけありがたいです。」
「こんな事を女性に言うのは変かも知れませんが男気のある戦い方というか肝が座ってると言いますか、カッコイイですよ。」
これぐらい言えば立ち直るかな……。
「カッコイイ……。」
「はい。」
「じゃあ、エイジさんから見て私はカッコいいのですね?」
「え?まぁ……そうですね。」
「大胆な告白ですね。」
「別に口説いてる訳じゃないですよ。」
そんな会話をしてアルテミス・クエルの中へ入る。
「あー寒かった。」
「ボイラーは治ったでしょうか……。」
ノアの顔を見ると赤くなっており寒かったのが伺える。
「マルコスに聞いてみます。」
シャワーぐらい浴びたいよな。
聞いてこようとその場から動くと向かいから見覚えのある人間が二人出てくる。
「先輩……艦長と何を話していたんですか?」
「エイジ・スガワラ!貴様のようなタラシは許さんぞ!」
「何でだよ!」
おかしいだろ!なんでそういう発想になるんだ!
「えっと……。」
会話の内容なんて話せる訳ない、艦内に内通者がいる可能性なんてこのタイミングで話すのはナンセンスだ。
「エイジさんに口説かれてました。」
「おいいいいいい!!」
「ロリコン変態先輩……私じゃ満足できないと?」
「艦長にまで手を出すとは覚悟は出来てるのだろうな?」
「ま、待て!俺は無実だ!」
船長も何か言ってくれ!とりあえず目線を送り助けを求める。
「私にも教えて下さい、恋というものを。」
変な解釈をされ艦長に袖を掴まれた後見つめられる。意味わかんねーよ。
その後俺はボコボコにされロリコンの疑惑をかけられた。
——一方アルテミス・クエルの後に続き降下した月政府戦艦内部では……。
「艦長、敵戦艦はグリーンランドに不時着した可能性が高いと思われます。」
「そうか、シミラス殿は同志のいるアメリカ大陸へ降下するだろう。私達の仕事は戦艦を破壊し新型ADを奪取するだけだ。」
「では、例の機体を実戦投入に?」
「パイロットの精神状態はどうだ?」
「良いとは言えません……適応ランクがEなので……。」
「『ナイトE-324』か……手術失敗患者……ルナティック・ブラックナイツにはCランクから入れる。それにしても命が軽い……。」
このE-324だが、左から『Class:E-Type3-No.24』を表している。このクラスはシンクロ・リンク・システムに関する手術への適応力を示しておりランクが低い程幻覚を見たり精神に異常があったりする。脳と神経手術の一環なので不運にも上手くいかなかった者は障害が出ている。タイプは3と記されているがこれは強化人間の世代を表しており第三世代だ。バルトンは第二世代で体の負荷を軽減させるため手足が義手義足だがこの第三世代は手足を切断する事なくシンクロ・リンク・システムと同期させてる間に体の筋組織が活性化し強い負荷に耐えられるが搭乗後は全身が筋肉痛に襲われたりと不憫なものだった。
「パイロットである『ニール・カー』は現在自室にて薬剤を投与し鎮静化させてます。」
「『A.D.E.B』の新型だ。パイロットには悪いが実験台になってもらう。」
「了解です。『AD-3(M)/PT02』プロトタイプの調整が終わり次第、パイロットを搭乗させます。」
「ニール……死場所を見つけたぞ……。」
EP.13へ続く……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます