EP.11 地球へ
4月15日アルテミス・クエルは地球と対面する。
「おいエイジ見ろよ!地球だぜ!」
マルコスがはしゃいでいた。
「そういばマルコスはネストの出身で地球を見るのは初めてか。」
「ああ、今から本物の重力を味わえそうでワクワクする。」
俺はマルコスと共にメインブリッジに居た。なんでも地球が見たいっていうので艦長の許可を得て生で見ている。
「ここに見学してるクルーはネストの出身か……。」
俺たち以外にも地球を見たいが為ネスト1から派兵された人が居た。
「ああ、よほど金持ちじゃねーと宇宙居住区から地球に移動なんてできねーよ。仕事柄こういう体験ができるんだから最高だよ。」
マルコスは地球から目を離しはしなかった。
「さて、皆さん持ち場について下さい。エイジさん達はパイロットスーツに着替えてADで待機を。」
時間が来るとノア艦長から命令が出る。指示に従い着替えて格納庫へ足を走らせる。
ADのコクピット内に待機していると通信が入る。
『聞こえますかエイジさん。アルテミス・クエルは今から大気圏突入を試みます。ですが、敵が嗅ぎつけている可能性があるのでADで撃退して欲しいのです。』
「敵が?」
『敵の狙いは貴方とマヤさんが乗っている機体です。そして敵も同様に地球へ降下しようと企てている可能性もあります。』
「分かりました。アルテミス・クエルはいつ降下しますか?」
『今から30分後に降下します、着地ポイントをズラしたくない。』
着地ポイントはアメリカ大陸に設定されている。
「分かりました、敵が……」
話していると別の通信が入る。
『艦長!敵戦艦四隻確認しました!』
通信員のエナが知らせてくれた。
『四隻ですか……アルテミス・クエルは戦闘形態に移行。エイジさん達AD部隊は発進して下さい。』
「了解です。」
アルテミス・クエルが装甲を展開し武器を露出させる、格納庫も同時に開く。
「B装備か……」
内容を見たが右手に1.8ゲージスラッグ弾自動ショットガン、左腕にシールドがマウントされており両腰にヒートナタが装備されている。
「軽装……」
恐らくシールドで守りながら接近しショットガンで撃ち抜く事をコンセプトにしているのか……重量を考えるにA装備と違い機動性で圧倒できそうに見える。
「とはいえ器用貧乏だな……」
適材適所で換装をするが所詮はバランス型……秀でている特徴がない以上パイロットの技量が試されそうだ。
『管制室だ。初号機の発進どうぞ。』
目の前に宇宙服を着た整備兵が誘導灯を持って親切場所を知らせてくれる。カタパルトに着き脚を固定させる。
「エイジ・スガワラ出るぞ。」
背中のジェットパックが噴射し足のデッキが前に進むと同時に勢いよく宇宙へ放り出される。背中には充電コネクターがついており機体が宇宙へ放り出されそのままの推進力で進まないようにギリギリまで繋いだ状態で外される。
初号機が発進されると、マヤとアリエスタルが続いて発進されていく。
アリエスタルは通信するため機体が初号機に触れる。
『隊長、左と右から二隻ずつです。』
視界は良好、地球が青いように太陽の光で彼らをよく視認できる。
俺はアルテミス・クエルに近づき触れる。
『エイジさん、見ての通りです。彼らは30分もしない内にここまでやってきます、一刻も早く降下したいのですが準備が入ります。なのでアルテミス・クエルはこの場から動けません。出来るとしてもこの距離から敵を射抜くぐらいです。』
「なら、左の二隻をマヤとアリエスタルに任せて俺は右二隻に突貫します。」
『一人では危険です。何を考えて……』
「いいえ、敵の目的も同じく地球への降下なら手持ちのADを無下にしないはずです。俺が近づかない限りADも攻撃しない。」
『うむ……彼らも降下ギリギリに差し掛かかればADの回収に精一杯になるだろう……牽制で敵を寄せ付けないだけでも効果はある。』
イシダ戦術長が考えながら話している、皆この緊急の事態をなるべく回避したいのと同時に戦闘によってアルテミス・クエルの損傷は避けたい。
現状、俺の乗る初号機は機動力がありマッハで飛ばせばギリギリでも帰れるはずだ、マヤの機体も推進力はあるしアリエスタルに関しては幸いにも遠距離での攻撃を主とするだろう。
『エイジさんイレギュラーには気をつけて……特に黒騎士は……。』
ルナティック・ブラックナイツの存在も忘れてはならない、彼らと戦えば時間は間違いなく取られるし目的であるADの奪取を念頭に置いて地球への降下も二の次かもしれない。
敵戦艦は良い位置取りをする、すると複数ADを発艦させて来た、彼らも警戒している。
「では行ってきます。」
マヤ達にも情報を伝え、それぞれ敵戦艦へ突撃した。
——一方アルテミス・クエルから見て左に位置取る敵戦艦内では……。
「キッカー!油断するな、お前が奪取しようとしたADは強い。」
「確かに、彼と対峙した時俺は不意を突かれました。まさか自爆までするような人間はそういない。」
エイジが初号機に乗る前、奪取しようとした人物こそこ『キッカー・エル』と言われる人物だ、彼はルナティック・ブラックナイツのメンバーでありバルトン・シミラスの崇拝者だ。
「いいか、お前は時間を稼ぐだけで良い。無駄な戦いは避けろ、この船は地球への降下が目的だからな。」
「ああ、足止めぐらいはする。」
キッカーがADに乗りカタパルトへ移動する。
「バルトン様。我々別働隊も発進します。」
「ああ、頼む。時間までには必ず戻れよ。」
「は!」
バルトンに駆け寄って来た兵士達もADに乗り発艦の準備を進める。
彼らは私の命令であの戦艦の背後に周り後ろを小突く役割だ、戦艦は着地ポイントをしっかり押さえたいだろう。だが、降下の要となるエンジンをやらせたくはないはずだ……ならば是が非でその場から移動する、そうすれば彼らの目的を遅延させ我々が一足早く新型に辿り着ける。
「ADの準備が完了しました、待機を。」
整備兵の話を聞きき言われた通りにコクピットの中で待機をする。
——アルテミス・クエルから左、マヤの方ではアリエルタルの砲撃支援を受けながら徐々に敵を殲滅している。
「一向に近づいてこない、なぜだ……。」
マヤは不思議と呟く。
アルテミス・クエルが狙いであれば戦艦を寄せてこちらの邪魔をするはずだ、先輩の話通りであれば目的は地球への降下であって私たちではない……。
考えを巡らせていると敵のADが近づく。
「簡単にはやらせないよ。」
それにしても動きは単調か……ヒットアンドアウェイを試みているのか深くは攻めてこない、明らかに己を優先する戦い方だが、私の後ろには射撃を得意とするアリエスタルが居る、なので……。
敵ADがマヤから距離を置きアリエスタルの射程に入ると簡単に撃ち抜かれてしまう。
「残り20分……狩るだけ狩った方が良いか……。」
——再びエイジの方では敵を殲滅しながらも常に周りに目を光らせていた。
『敵ルナティックブラックナイツです。』
ガイアシステムがキッカーの黒いADを確認した。
「バルトン・シミラス……いや、装備が違う……。」
機体装備は一般的であり右手に速射砲と腰にヒートナイフを装備していた。
『必要最小限の装備と見えます。目的は私達の足止めでしょうか……。』
黒いADはこちらに気づくなり接近してくる。
「まぁ、速いよな。」
接近しながら速射砲を撃ってくるのでシールドで防ぎならショットガンの射程まで誘導するが、気づいているのか近づくだけ近づいて一気に距離を置く。
「流石に節穴じゃないか……。」
「近づけば終わりか……」
キッカーはショットガンを警戒しており間合いを図る。
『エイジさん、敵はさっきからこちらの様子を伺うなり必要に攻めて来ません。一定の距離を保っているような……』
「やはり大気圏突入まで、ADの格納を優先させたいか……」
『エイジさんのいう通り目的は降下……ですが不穏です。』
その時アルテミス・クエルから救難信号である赤い採光弾が射出される。
『拡大します。』
そこにはAD三機に背後を取られたアルテミス・クエルの姿があった。
「残念だったな……初号機のパイロット……この距離では間に合わん……。」
すると敵戦艦からもう一機黒いADが発艦される。
「最悪だ……。」
それもそのはずで正体はバルトン・シミラスだからだ。
「もしこちら側にADを寄せれば戦艦だけ破壊しADの奪取も可能……どちらにせよこの作戦は我々に分があった。」
キッカーの左腕にはワイヤーアンカーがマウントされており初号機の横めがけて射出する。
『通信でしょうか……』
「なるべく手短に終わらせろよ……」
そのワイヤーを掴む。
『聞こえるか初号機のパイロット!今すぐに投降すれば戦艦は破壊しないでやる。俺達の目的はあくまで新型の奪取にすぎない!』
『いけません……この機体は渡せない……』
ガイア・システムが拒否する。
『ん?AI……まさかな……おい!時間がないぞ、モタモタしてると先に戦艦が撃沈する!お前の投降が分かれば戦艦からの信号弾であの三機に戦闘を停止させる合図を出す。私は騎士として嘘偽りなく実行する。なので……』
俺は前方の敵に集中していて気が付かなかったがどうやら後ろが大変な事になっていたようだ。
キッカーの機体にADが接触する。
「キッカー様!敵戦艦が!!」
「何?」
キッカーがエイジの機体から目を逸らし奥の方に目をやるとアルテミス・クエルが接近していた。
「……着地ポイントをズラすまでは成功したが……」
アルテミス・クエルは敵戦艦二機に正面を向ける。
なぜ、敵側が焦っているのか……それはアルテミス・クエル先端にある対戦艦高出力ビーム砲がチャージされていたからだ。放出口は青い稲妻のようなものがバチバチと放っており敵からすれば脅威にも見える。
「バッテリー出力、エンジンの伝達を終了……エネルギーチャージを遮断。」
「エネルギータービン出力100%……。」
「セーフティ解除!」
「発射してください。」
「撃てええええ!!」
艦長の発射指示でビームが撃たれると戦艦を一隻破壊し後ろの戦艦も巻き添えを喰らうが破壊まで至らなかった、その損傷では大気圏に入ろうものなら崩壊するだろう。
アルテミス・クエルがエイジの機体まで近づき通信圏内を作る。
『エイジさん今すぐに格納庫へ入ってください!』
「逃さん!」
キッカーの機体がこちらに接近する。
「待てキッカー!深追いするな!」
アルテミス・クエルの背後にはまだ敵機体が三機迫って来ている。とはいえこちらの異変に気づいたマヤ達がその対処に向かっている。
『予定よりも早く降下します。』
「りょうか……」
その時キッカーの機体に体当たりされグラつく。
「うわ!」
「ここまで近づけば……」
キッカーに装備されたヒートナイフでジェットパックを狙われる。
アルテミス・クエルから再び帰還の採光弾がキッカーの機体目掛けて発射される。
「うお!」
その隙に格納庫へ戻る、流石に新型と言っても大気圏に突入するなど不可能だ。
「マヤさん、帰還です!急ぎますよ!」
アリエスタル達も気づき急いでアルテミス・クエルへ向かう。
マヤ達と対峙していた三機も敵の撤退に気づくと逃さないように近づく。
「深追いとは……。」
バルトンはその三機を見てそのような言葉を投げかけるがアルテミス・クエルは現在急降下している、それに沿う形で機体を降下してしまえば引力に引き込まれてしまうだろう。
エイジ達は無事に格納庫へ収容されるとアルテミス・クエルは戦闘形態を解除し開放された装甲を元に戻す。装甲は耐熱シールドの役割も兼ねている。
「急いでビーム砲の冷却をお願いします。」
「大気圏突入まで後2分!」
「左舷に一隻接近!後から降下するようです!」
「真上には一機ADが攻め込んできます!」
すると同時に左側から戦艦による攻撃と真上からADによる装甲貫通砲の弾が降る。
「ビームバリア弾を放出。」
「撃て!」
アルテミス・クエルからビームバリア弾を排出し展開されるとビームの膜によって敵の攻撃を防ぐが幾つか弾がアルテミス・クエルに当たってしまう。
「怯まないでください。そろそろ大気圏に入ります、皆さん衝撃に備えて。」
ノア艦長は至って冷静であり緊急事態をものともしなかった。
「大気圏突入します!」
エナの発言と共にアルテミス・クエルは降下する。
真上にいたADはバッテリーが膨張し爆破、散った破片は燃え尽きるが左舷の戦艦は後を追うように降下して行った。
「バルトン様……これは……。」
キッカーが問う。
「相手の度量を見誤った、ただそれだけだ。」
「私達も急ぎましょう。」
「ああ、目的である着地ポイントをズラす事に成功はした。ただ気が抜けん……。」
EP.12へ続く……。
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