EP.10 航海中
4月14日……アルテミス・クエルは着々と地球へ進行していた、特にトラブルもなく皆生き生きと艦の中で仕事とプライベートを両立していた。
俺はだが今現在アリエスタルとADのシュミレーターを使ってスコアを競っていた。
「エイジさん!中々手強い……。」
「シュミレーターだけは自信あるんだ。」
内容は標的の射撃訓練だが少しゲーム感覚に近いかな、学生時代は妙にハマって訓練室を延長し夜まで使った経験がある。
「だー!負けた……」
アリエスタルは負けが分かると体を脱力し座席に体重を思いっきりかける。
「やったぜ!残りの取り分は俺のもんだ!」
すると後ろにマルコス達と整備兵がガヤのように集まっていた。
「何してんの?」
集中していて気づかなかったがテーブルを用意しその上にガイアリンクを置いている、ホログラムを見ると電卓だろうか?マルコスの数字が増える。
「何ってどっちが勝つか賭けてたんだよ。」
「それで、どうだ?」
「そりゃあもう、がっぽりさ。まさかお前がここまでやるなんてな。」
「確かに、実戦経験があるとは言え……エイジさんそのスコア普通じゃないですよ?」
アリエスタルが俺のスコアを見るなり不思議に思う。
「そう?」
「ええ、格闘成績に射撃、地上挙動、宇宙運用やら何やら全ての項目がSランクっていうのはあまり見ないですよ。」
「そ、そうなんだ……。」
当時の成績はあまり良いものでもなかった、赤点から逃れるため実技だけでも極めたのが要因だろう……元々こういうロボットへの熱が冷めなかったためか凝ってしまったのもある。
「何はともあれ貴方が隊長でしたら私達も安心です。」
「なら良かった。」
「おい、マルコスてめー!余った金額勝手に自分のモンにしてんじゃねー!」
「ああ?!お前らは負けたんだよ!余すぐらいなら俺が有意義に使ってやる!」
すると、整備兵同士で喧嘩が勃発した。多分マルコスが悪いと思うが……。
トレーニング室は少し騒がしくなり声が響く。
「声が大きいですよ!」
アリエスタルが彼らに注意するも聞く耳は持たない。
扉が開き見覚えのある人が登場する。
「船内で賭け事とは随分と度胸がある様ですね?」
副艦長のリーだ、彼女はテーブルに置いてあるガイアリンクを見るなり、すぐに賭け事だと分かったようだ。俺は一回彼女に目をつけられているので危うい。
「エイジさんあなたですか?」
「いいえ、マルコスです。」
「い、いやー。」
マルコスはすぐにガイアリンクを装着し、なかった事にしようと努力するが手遅れだ。
「厳重注意では済みませんよ?金銭を賭けてる以上、違法賭博と何ら変わらない。」
「いや、お前らも乗り気だっただろ?」
マルコスは他に参加した整備兵を見るが彼らは知らないふりをする。
「この賭博はマルコスによって持ちかけられました。」
「お前らあああああああ!」
多分事実だろう。
「マルコスさん?後で処罰を言い渡しますので覚悟してくださいね?」
リー副艦長の指示によりテーブルを片付け各々が仕事をしたり自分のすべき所へ戻る。
トレーニング室を出るなり、自室へ向かう。明日には地球へ降下しているはずだ、場所はアメリカ中西部であり、新型を製造したハンソンドロイド社の工場に到着予定だ。
自室へ向かう途中休憩室を見かけ中へ入る、中には自販機や座れるスペースが確保されておりモニターは外の映像つまり宇宙が広がっている。
中には誰も居なく俺ただ一人がその場に立っていた。
「地球ねぇ……」
少し過去を振り返るが俺は政府によって一回見放されている、精神的な病気の事もあり全てなかった事にしようと努力した連中だ。そんな政府に俺は二度使われる訳で少し不安がある。
『メンタルの低下を確認しました。何か不安でも?』
ガイアリンクが俺のメンタルを読み取るなりそんな言葉をかけてくる。
「まぁ不安だよ。虫のいい連中だ……俺をモルモットか何かだと思ってあの新型に乗せてるのかも。」
『確かにADE-1に乗るよう命令が出たのは政府ですが、貴方を選んだのは少なくとも私の意思でもあります。』
「本当はグルとか?」
『いいえ、直感です。』
「ますます疑うな……本当にAIか?」
『最近私も疑問を持つようになりました。今回だってマルコスさん達の話を聞いて賑わう?という感情を共有させていただきました。』
「どう感じた?」
『楽しいとか……どうでしょう?』
「どうでしょうって……」
『今まで感情という存在が分かりませんでしたが貴方と一緒に行動する上で理解が膨らみました。なので一つの疑問として私のような物質のない情報の塊が感情に左右されるか試してみたいと。』
「なるほど。」
『なので、ここは一つマルコスさんに習って博打をしてみたいです。ギャンブルはドーパミンを増幅させると聞きました。それが私にも効くかどうか……」
「アホか!」
確かにいい案だと思いはしたがせめて健全な方へ行ってほしい。
——アルテミス・クエル、メインブリッジではいつものメンバーが仕事をしていた。
「艦長、明日には地球へ降下しハンソンドロイドの工場へ着陸予定です。主にメインエンジンの修理に新型量産機の収納。後は開発完成間近の『AD.E-5』の収納もあります、追加で……」
リーは明日の予定を話ながら資料を艦長へ渡す。
「こちらハンソンドロイドに雇われている傭兵『リンダ・クールー』というAD乗りです。政府の意向であり腕利の傭兵を配属し戦力を拡大させるとのことです。」
「元の所属は?」
「元々は死体回収業社だった『フレイクス』の所属でしたが、今は地球にあるPMCとして働いているようです。ハンソンドロイドが彼女を護衛として雇い上層部が政府の意向を強く受けているため必然的に政府の管轄になったようですね。」
『フレイクス』は戦争後の後始末として地球政府が依頼している業者であり主な目的はADのパイロットの死体を回収し遺族に届けるのが主だった。この死体を届ける制度には軍事パイロットが義務的に受ける保険がありその中に含まれる制度の一つとしてある。ただこのフレイクスは少し力を付け過ぎたようで、回収した機体は普通処分するが宇宙ゴミになるのでリサイクルを検討するがフレイクスは月に近い場所にあり移送費が高く地球政府はフレイクスの拠点である巨大施設内で何とか出来ないか言い渡すが機体を再利用し建設用のADなど最初は戦闘に関係ない利用をしていたが最終的には傭兵が扱えるようにADを改造し提供するとフレイクスは規模が拡大していく、そしてフレイクス専属のAD部隊『ラッドマーカーズ』が結成され傭兵業へ参入し現在は戦争に勝っている月政府とベッタリである。払いが良いため地球政府と戦う定めにあるかもしれない、ただ今だに死体回収はフレイクスが担っているため儲かる一方だ。
「この船の乗組員になる訳ですから保険も適用させなくてはいけませんね。」
彼女はまだハンソンドロイドに使える傭兵であり軍人の部類ではない、この船のクルーになれば晴れて所属という事になる、立場上派遣社員みたいなものであり正規の手続きが必要だ。
「お気に召すでしょうか?この保険には『グレイス・レイス財団』が関わってますし……。」
「大丈夫ですよ。傭兵ですから……気にはしません。」
『グレイス・レイス財団』はADパイロットが義務的に受ける保険の提供をしている、部類的には非営利である。この財団はADによる出資を多くしている、出資先はハンソンドロイドをはじめ、CSDPとADに関係する施設への出資は厭わない、挙句フレイクレスへの出資もしている訳だが彼らのお陰で日々遺族に遺体を渡しているので出資するのは当然だろう。この財団は変な噂が絶えないが地球に居を構えてはいるものの中立であり月へのビジネスにも手を出している。
「出資者はついて回る……なんとも皮肉な気がしますが……。」
ノアは顔を顰める。
「今は地球か月かの戦いですよ?中立者がいる事で戦いが出来ているのも事実ではありますが、長引きますね……。」
「地球へは何の問題もなく進行していますが、整備長のジーンさんにパイロットの乗る機体を宇宙用へ換装しておくよう行っておいてください。」
「敵が来るとでも?」
「通信記録を漁ってみました、地球からネスト1への通信です。」
ノアはメインブリッジに大きくホログラムを映す。
「これは……。」
映されたのは写真で内容は新型機の『AD.E-5』だった。
「写真だけというのは不自然ですね……文章も何も詳細すら書かれてない……。」
「この通信はかなり前に送信されたものです。私達が宇宙へ出る前にこの写真はネスト1へ流出していた。」
「写真も一枚だけ……画角も明らかに焦って撮ったに違いありませんね……。」
写真は手ブレしており新型がぼんやりと映る程度だ、テスト中だろうかレールガンを撃っている。
「敷地内で撮ったものでしょうか?こんな近くでは関係者以外にありえない。」
「では、敵は既に地球に?」
「可能性はあるでしょう。しかもこれ、ネスト1から2へ渡っています。ネスト2は現在ネスト3と睨み合い続きで時々戦闘も起こり得るそこから先に送られる可能性も考慮すれば想像に難くありません。」
「私達の動向も……」
「警戒すべきでしょう。」
ノアは落ち着いておりその先を見据えていた。
ネスト2から離れたネスト3を監視する地球政府拠点ではADを配備し警戒していた、周りにはADの残骸が浮遊しており戦いがあった事を示してくれている。
「おい、聞こえるか。ネスト3はどうだ?」
『動きなしだ。ずっとこのままでいてほしいもんだぜ。』
『こちら二番、バッテリーケーブルが傷んでる。別のもんに交換してほしい。』
「了解、整備兵頼んだぞ。」
その拠点からバッテリーケーブルが伸びており監視しているADの背中に常に付けている状態だ、そのため遠隔からの通信が可能ではあるが、バッテリーの劣化が激しく外した状態で行動すれば通常よりバッテリーの切れが早い。
『聞こえるか?別方向から未確認機体を発見した。』
「おい観測!映像回せ!」
モニターに未確認機体を映す。
「照合しました!機体はフレイクス所属のAD部隊『ラッドマーカーズ』ラッド3『シモン』です!」
「戦闘狂が!聞こえるか敵は一機だ所詮月政府に雇われた『ネズミ』だ数で圧倒しろ!」
フレイクス所属の機体は浮遊物を慣れたように掻い潜り地球政府の機体へ近づく。
「楽しませてくれよ。」
その機体はAD-3をベースにしているが内部のジェネレータ及びエンジン、推進機がフレイクス製の非正規品であるものの能力は他の企業の追随を許さない程大したものだった。
「六……七、八……時間は潰せるか。」
機体の装備に左手『30mm速射砲』右手『バッテリー供給式マグネット』右腕『マウント式放電ワイヤーアンカー』と装備はその三つだけだった。
「まずはお前だ。」
シモンは速射砲で敵を牽制しつつ右腕のワイヤーアンカーで敵に刺すと電流を流す。中のパイロットこそ無事だがADは負荷に絶えきれずオーバーヒートを起こす。
そのまま引き寄せマグネットへくっつけ盾にする。
『く……卑怯な!』
「構わん!躊躇するな!」
『くそ!』
地球政府ADは味方を盾に取られても躊躇なく発砲する。
「良いのか?当たっちまうぞ?」
シモンはADを盾にしながら左手の速射砲で器用に敵のメインカメラだけを撃ち抜く。
「な?!」
「これがネズミの戦い方だ。」
シモンは敵が動けない事を確認すると別の標的へ移す。
同様にADを盾にして突き進むが躊躇なく撃ってきたので盾にしたADを使い防ぐ。
「や、やめろおおおおおおお!!」
「残念だったな。お前は所詮物なのさ。」
シモンは右手のマグネットを手放し盾にしたADのヒートナイフを奪う。ギリギリまで接近したAD二機をヒートナイフで無力化するように立ち回る。
「たった一機で何ができる!」
速射砲を向けられた瞬間に蹴飛ばし胴体と頭部の間にヒートナイフを奥まで差し込む、狙いはバッテリーであり爆発させるつもりだ。
『脱出しろ!』
横にいたADが音声を発生させるが。
「ダメだ!膝で固定されてて出られない……うあああああ!!」
シモンは器用に膝でコクピットを固定していたため脱出する事は不可能だった。機体は爆発しパイロットを確実に殺す方法だった。
「変わった格闘データだろ?お前にも味合わせてやるよ。」
爆発を見届けたADにも同様に技を仕掛けるが背後に殺気を感じた。
シモンは急上昇すると彼の予想通りであり180mm砲の弾が飛んできたのだ。弾は地球政府ADに当たり不運にもコクピットの横に当たった。パイロットは生きているが苦しみながら死ぬことになる。
「あーせっかくのおもちゃが……。」
ADはシモンを取り囲むように散開する。
「残り四機でどうするつもりだ?」
警戒はするものの本人はどうて事ないと考えている。
左から二機速射砲の球が飛んでくるが近くのデブリに身を隠してやり過ごす。
「リミッター解除。」
シモンの機体が大きめのデブリを持って二機に突撃する。
「速い!」
デブリは一機に当たりそれを確認したのか距離を置き始める。
「そんな遠くに行かれちゃあ……悲しくなる。」
変な冗談を口ずさみ距離を取ったADに高速で追いつく。
「どうなってやがる!」
そのままコクピットにヒートナイフを差し込むと速射砲を奪い残り二機に近づく。
「敵が接近してきます!」
「デブリを盾に迂回してるか……」
シモンは敵の背後を取るよう迂回する、速度も速くすぐに見失ってしまった。
「て、敵は……?」
「いいか?後ろを見ていろ……いつどこから……」
ADは背中合わせになり警戒する。
すると、両手に速射砲を持った機体がヌッとデブリの影から姿を現す。
「見つけた!」
対象を撃つがそれは味方の機体でありメインカメラを撃たれていたものだった。
「しまった……パイロットは……」
味方が無事か近づくが……。
「よせ離れろ!」
「え?」
その瞬間機体は爆破した、コクピットは既に空いておりシモンが自爆するよう設定したのだ。
「バーン。」
残り一機を装甲貫通砲で打ち抜き計八機を仕留めた。
「聞こえるか?俺はフレイクレス専属AD部隊三番機の『シモン・アルカンドラ』。この領域は雇い主である月政府へ譲渡する。いいな?」
『こちらは地球政府ネスト2宇宙域第六拠点……要件を飲む……。』
「安心しろ、上はしばらくの間はネスト2に手を出しはしないらしい。」
『我々の処遇はどうなる?』
「もう時期月政府輸送船がここに来る。それ乗ってネスト3まで行ってもらうんじゃないか?雇われの身だからな、よく分からん。」
拠点との通信が終わりシモンはコクピットで一息つく。
「さて、俺はしばらくここで待機か……つまんねー。もっとこう臨場感が欲しいよな?」
彼はブツブツと呟くばかりだった。
EP.11へ続く……。
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