第11話 誕生日プレゼント
白石澪とプールに行く約束をしてしまった。
これって浮気になるのだろうか?
いや、浮気ってのはエッチなことをしたら浮気だ。プールに行くのはただのレジャーだ。
仕事終わり、白石澪は嬉しそうに鼻歌を歌っていた。僕なんかとプールに行けるのがそんなに嬉しいのかね。
自宅に戻り、理央に仕事が終わったとラインのメッセージを送る。最近これがお互いの日課になっている。既読が付かないので仕事中だろう。
理央は基本的に返信が早い。文字通り秒で返って来る。返ってこないのは仕事だからだろう。
時刻は午後四時過ぎか。普通の企業ならまだ業務中だ。
僕は何気にラインのホーム画面を見る。
そこにはもうすぐ誕生日の友達が表示されている。
そのうちの一人が理央だった。
理央の誕生日は七月九日だ。
泣く日と覚えよう。理央って酔っぱらうと泣き上戸になるからね。
スマートフォンの手帳機能を見ると僕は休日であった。七月九日は平日なので一般企業は休みではない。会うにしても夜になるな。
僕はスマートフォンで女子、二十代後半、プレゼントと検索する。
ざらっと多種多様な商品が画面を埋め尽くす。
アクセサリーに服、鞄、チョコレート、香水などなどだ。検索してみたけど多過ぎて何がいいか分からない。
そこで僕は少し前に炎上したXのポストを思いだした。
それはとある婚カツ女子が相手からメロアのネックレスをもらったというものだ。メロアというのは若者に人気のカジュアルアクセサリーブランドだ。
結婚相手にそんな安いブランドの物を送るなんてという内容のポストだ。
それに対してもらっといて文句をいうなとか大人の女性にロメアなんてという賛否両論のリプライが続いた。否の意見が圧倒的だったけどね。
そうだ、理央にロメアのアクセサリーを贈ろう。
理央がロメアのアクセサリーなんてとかいったらざまあしてやろう。
保険というと言葉が悪いけど白石澪がいるしね。理央にざまあして別れても今ならダメージは少ない。
そういうことで七月初めの休日に僕はなんばパークスのロメアに行った。
安めのブランドと聞いていたけどロメアのショーケースはキラキラしていて本当にと思ってしまう。
可愛らしいイヤリングやネックレス、指輪なんかが整然と並んでいる。
店内は明るくて綺麗で、二人いる店員さんはどちらもちょっと緊張するぐらいの美人だった。
誰だよロメアが安物だなんて言ったのは。立派なアクセサリーブランドじゃないか。
ショーケースのアクセサリーはどれもセンスがよくて、僕にはどれを選んでいいか分からない。
「何かお探しですが?」
やわらかな笑みを浮かべて女性店員が話しかけてくる。美人だけどどこか親しみやすい店員であった。
ネームプレートにはルナと書かれている。
最近は防犯の為ネームプレートには本名を書かないという。きっとルナというのもニックネームのようなものだろう。
僕はペンネームをユーマとしているが何か独創的な名前にしたほうが良いだろうか。
「は、はい。あの……知り合いのプレゼントを探してまして」
しどろもどろに答える。
それでも以前の僕だったらこんなおしゃれな店には来ないし、美人に話しかけられたらその場を去っていただろう。
これも理央とつきあって女子に慣れてきた成果だろう。
「さようですか。そのお相手は彼女さんですか?」
優しい声音でルナさんは僕に尋ねる。
「ええ、まあ、そうです」
彼女がいるという事実に胸が熱くなる。
理央は僕の彼女なんだ。
僕は彼女にプレゼントを買うためにロメアなんていうおしゃれなお店に来た。なんだか人間力が上がったような気がする。
それに理央という美人に接して女性慣れしたのか、今も店員さんと緊張しながらも話せている。
「そうですね。こちらとこちらが人気ですね」
ルナさんがおすすめしたのはハイビスカスがデザインされたイヤリングと三日月のネックレスであった。どちらも値段は二万円と手ごろて言えば手ごろだ。
二十代後半の女性に送るプレゼントの相場がよく分からないけど。
でもまあ僕の収入ではどのみちハイブランドなんて手が出ないのでロメアが最適解だ。
五分ほど悩んで僕は三日月のネックレスにした。イヤリングは可愛らしいけど派手でもあった。
凛とした清楚系の容姿をしている理央には三日月のネックレスがよく似合う気がする。
理央の白い首に掛けられるネックレスを想像する。うん、やっぱりこっちの方が似合っている気がするな。
「こっちにします」
僕は店員のルナさんに告げる。
「かしこまりました」
笑顔でルナさんはそう言うと結婚指輪をいれるような赤くて綺麗な小箱に入れてくれた。
架空の女神ロメアがデザインされた紙袋に入れてくれる。また来るかも知れないのでポイントカードも作ってもらった。
ロメアが安っぽくて粗悪だなんて言ったの誰だよ。サービスも商品も最高じゃないか。しかも店員さんは美人で優しいし。
僕はすっかりロメアのファンになった。
この先理央とどうなるかは分からないが、僕は彼女になる人にはロメアのアクセサリーを送ろう決意した。
それにしても人へのプレゼントの買い物がこんなにも楽しいとは思わなかった。
帰宅した僕はコンビニ弁当で昼食を済ませた。
ラインのアプリを開き、理央にメッセージを送る。
「七月九日ってあいてる?」
メタルギアード・レクイエムのイオが頭のうえに?を乗せているスタンプを送る。
「うん、夜なら空いてる」
直ぐに既読が付き、返信が来る。
この日は平日なので理央はやはり仕事のようだ。それでも夜なら大丈夫なようだ。
「誕生日だよね」
単刀直入に聞いてみる。回りくどくしても仕方がない。
「うん、そうよ」
聖奏少女ジャンヌ・ダルクがジャンプしているスタンプが送られてくる。
「悠真君の部屋に行っていい」
さらにメッセージが送られる。
ということはお家デートか。
なんだかドキドキするな。
ということは夜はあんなことやこんなことをしても良いということだ。
だって僕と理央はつきあっているのだから。
理央もそのつもりで僕の部屋に来るのだろう。
前にホテルに誘われたし、理央はそういうことには積極的な傾向にある。
僕はメタルギアギアード・レクイエムのセラが親指を立てているスタンプを送る。
「やったー!!楽しみ!!」
理央が即メッセージを返してくる。
まさか僕の部屋にくることを楽しみにする女子があらわれるなんて。
そういうことで理央は七月九日の夜七時に僕の部屋に来ることになった。
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