第12話 ハッピーバースデー バニーガール

 七月九日当日の午前中は部屋の掃除に費やした。結果的に理央をざまあしてふることにしても彼女を汚い部屋に入れたくはない。

 清掃業なのに汚部屋に住んでるなんて思われたくはない。

 なのでかなり念入りに掃除した。部屋もキッチンもトイレもバズも余すことなく磨きあげた。

 新築動同様とまではいかなくても人を招き入れてもはずかしくない仕上がりになった。

 昼食をつくるのが面倒だったので近所のラーメン屋さんに立ち寄った。野菜ラーメンをたいらげて、帰宅する。

 もしかして使うかもしれないのでコンビニで例のゴム製品を買い込んだ。

 ついに僕もこれのお世話になるのかとおもうと感慨深い。

 理央はきりっとした美人だから初めての相手としては充分過ぎる。

 考えたら今から心臓がドキドキしてきた。

 アニメを見たり、イラストを描いたり昼寝をしていたらあっと言う間に夕方になる。

 しゅぽっとラインの着信音がする。

 それは理央からのメッセージだ。

 今、南海難波駅を出たという。

 時刻は午後六時を半分まわったぐらいだ。予定よりやや早い。まあその分二人で過ごす時間が増えるからいいか。

 僕は駅まで迎えに行くとメッセージを送る。

 理央からはヨロシクとメタルギアード・レクイエムのイオが会釈しているスタンプが送られてきた。

 僕は着替えて住之江公園駅に向かう。

 六時五十分に理央は改札口をでてきた。

 この日の理央はオーバーサイズの白Тシャツにデニムのひざ上スカートという姿だ。

 スーツ姿の凛とした理央もいいが、こういうラフなスタイルもまたいいものだ。

 生活感がうかがえるのが妙に色っぽい。理央は肩からボストンバッグをぶら下げていた。

 理央のやつ泊まる気満々のようだ。

 これはいよいよもって夜が楽しみだ。


「お疲れ様」

 僕が労うと理央は満面の笑みを向ける。

 近畿で一番可愛らしい笑顔だ。

「お疲れ様悠真君」

 理央はボストンバッグを持っていない腕を絡めてくる。七月で夕方とはいえまだまだ熱いのにくっつかれてもまったく苦ではない。

 むにっとした理央の胸があたり思わず鼻の下が伸びる。

 理央は彼女だから胸の感触を楽しんでも罪には問われないのだ。これがつきあうということか。

 腕を組みながら僕たちは帰宅する。

 

「へえ、綺麗だね」

 部屋を見渡して理央は感想を述べる。

 まあね。半日がかりで掃除したかいがあるというものだ。

 お邪魔しますと言い、理央はスニーカーを脱いで廊下に入る。

 僕の部屋は玄関を開けたら廊下とキッチンが一つになっているスペースがある。その奥が僕の部屋だ。

 部屋の広さは十二畳でワンルームにしてはまあまあの広さがある。

 廊下に上がると突然理央はТシャツを脱ぎ出した。

 えっまさかここで始めるのか。

 まだ心の準備ができていないのですが。

 僕がどきまぎしているのを他所に理央はТシャツを脱ぎ捨て、デニムのスカートも脱ぐ。

 まさか下着姿になるのか。

 心臓の鼓動を早くさせていたら、予想外のものを見てしまった。

 

 理央は緑色のバニーガールのスーツを着ていたのだ。ハイレグ気味のデザインで理央の白い太ももが眩しい。

 驚いている僕をちらりと見ると理央は微笑む。

 理央はボストンバッグから何かを取り出した。

 兎耳のカチューシャだ。

 そのままの笑顔で理央は兎の耳のカチューシャを頭につける。カフスボタンのついたリストバンドを両腕につける。

 理央の浅いながらも存在感のある胸の谷間に視線が釘付けになる。

 それにしてもバニーガールの胸元はどうしてずれないのだろうか。

「これね胸にワイヤーが入ってるの」

 まるで僕の心を読んだかのような理央の言葉だ。こいつはエスパーか。

 理央はわずかにずれる胸元をもとに戻す。

 お尻の水着をなおすようなエロさがある。


「理央それを着て来たのか」

 僕が尋ねるとそうよと彼女は答える。

「だって一秒でも早くバニーガール姿を見せたかったのよ」

 腰に両手をあて、えへんと理央は美乳をはる。

 ぷるんと揺れるのを見逃さない。

「今日、私って誕生日じゃない。だから着てみたかったバニーガールにしたのよ。バースデープレゼントみたいな感じ」

 理央は黒髪ロングをかきあげる。

 ふんわりとフルーツの香りがする。理央のシャンプーの香りだ。

 バースデープレゼントなら僕がロメアで買ってきたネックレスがあるんだけど。

「ねえ、私可愛い?」

 小首をかしげて理央は僕に訊く。

 ああっそれはもうくやしいかな可愛い。

「か、可愛い……」

 僕は絞り出すように声にだす。

 バニーガールって豊満な人が着るイメージだったけど理央のようなモデル体型の人が着ても似合うんだ。

「うふふっありがとう。じゃあ部屋に入れてくださるかしら」

 すっと上から理央は僕に手を差し出す。

 僕はその手を握り、部屋にいれる。

 このままバニーガールの理央をベッドに押し倒したい衝動にかられる。いや、まだ早い。

 理央はベッドに腰掛ける。長い足をこれ見よがしに組む。もう誘っているとしか思えない。

 組んだ足の膝に肘を置き手のひらに顎を乗せる。

「ねえ画像撮ってくれる」

 理央がリクエストするのでスマートフォンで写真を撮る。二十枚ほど撮って理央に見せる。

「悠真君、写真上手いね。可愛く撮れてる」

 理央に褒められると素直に嬉しい。

「一人で宅コスしても上手く撮れないんだよね。だから悠真君にとって欲しかったの。この画像が私へのバースデープレゼントみたいなことかな」

 理央の理屈は分かったような分からないものだった。それでは理央の画像を保存できる僕も得しているではないか。

 

 そうだ。バースデープレゼントを渡さないと。

 タイミングなんて良く分からないから思いたったら吉日だ。 

 僕はクローゼットからロメアの紙袋を取り出す。

「理央、誕生日おめでとう」

 よし、噛まずに言えたぞ。

 僕は両手で理央に紙袋を差し出す。

 理央は大事そうにそれを受け取る。

「開けていい?」

 理央に訊かれたのでもちろんと答える。

「うわっこれ可愛い。私ロメアのアクセサリー好きなの。ありがとう悠真君」

 紙袋から箱を取り出し、その中のネックレスを理央は手に取る。

 細くて長い首にネックレスをかける。三日月のネックレスが胸の谷間に沈む。

 僕はそのネックレスになりたいと思った。

「どう似合うかしら?」

 理央はロングヘアーをかき上げる。

「むちゃくちゃ可愛い」

 語彙力の乏しい感想を漏らす。そうとしか表現出来ない。

 理央は組んだ足をほどき、前かがみになる。

 胸の谷間の奥がちらりと見える。

 僕は夢中になり理央の写真をとる。

「悩殺バニーガールよ」

 理央は投げキッスをしてウインクをする。

 僕は悩殺という単語に頭を焼かれた。

 その言葉からインスピレーションを得る。

 それは僕の初めての代表作となるアサシンバニーガールのインスピレーションを得た瞬間であった。

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