第16話 新時代の足音
グランドマスターズ決勝戦から数日後。
アマネ・コウサカは、自室のディスプレイに映し出された先日の敗戦データと睨めっこしていた。何度も再生し、何度も停止させる。その目は赤く腫れ上がり、悔しさに視界がにじむ。
『あの女』――
いくつかの気づきは、アマネの敗北感を増大させるには十分だった。
そのうちの一つが、あの戦いにおいて奇襲や伏兵などの数々の策を成功させたのが、リーダーであるナツメ・コードウェルではなく、エリ・ホシノであるという点だ。最初はナツメの策かと思っていたが、考えれば考えるほど、従来のエクリプスの指し回しとは異なることに気がついた。
ナツメの作戦は巧妙だが、詰将棋のように無駄と飾り気がなく、最短手で必勝を狙うものだ。それに、ナツメ自身が作戦の主軸になり、圧倒的な戦闘能力を前面に押し出す傾向もある。だが、今回の策は、ミラージュがどこにいるかを疾風迅雷に誤認させ続けたのが肝であり、そのためにクルセイダーとドレッドノートを中央拠点で贅沢に使うことで見事に視線の誘導を成功させていた。それは、ナツメの持つシンプルな強さとは異なり、読みと仕掛けによる「策」そのものだった。
違和感を徹底的に洗い直した際に浮かび上がったのが、学園の座学で常にトップクラスの成績を収める秀才、エリ・ホシノの顔だった。そもそも、自分が読み合っていた相手を誤認していたのだから、策に嵌るのは必定と言ってもいい。アマネは、自嘲するように息を漏らした。
あの戦いでの一番の失策は、アマネがクルセイダーとドレッドノートが陽動であることを看破できなかったことにある。捨て身で足止めをしたのは、アマネ自身の策だった。しかし、うまくいきすぎていたことに気がつくべきだったのだ。
そもそも、ナツメとシェリーは新入生とはいえど、その近接戦闘技術はトップクラスであり、パシフィック指折りの実力者である自分といえど、二対一で持ちこたえられるはずがなかった。エクリプスは策を通すために、アマネの作戦が思い通りに進んでいるように見せかけたのだ。まんまと相手の掌の上で転がされたことに、情けなくて涙が出た。策士として、これほどの屈辱はない。
個人戦での勝利が絶望的な中で、団体戦にまで、自分たちを打ち破る強力なライバルが現れたことに、アマネの目の前は一瞬、真っ暗になった。
それでも。
ずっと絶望に立ち向かってきたアマネは、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
彼女はこれまでずっとそうしてきたのだから。
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