第9話 Evidence
ニューオーダー決勝戦の興奮は、学園全体、そして世間をも巻き込む熱狂となって続いていた。メディアは連日、激闘を繰り広げたアストラルとエクリプスを報じ、特に勝利を飾ったリリア・ドレイクは、その愛らしい容姿と圧倒的な実力から「蒼穹竜姫セレスティアル」として一躍時の人となっていた。エクリプスのメンバーもまた、世間から注目を浴びる存在となっていた。
その中では、エリの失態を指摘する否定的な意見もわずかながら存在した。だが、エリは自身を変えていくために、そんな声には決して惑わされないと固く決心していた。この悔しさを、成長への糧とするために。
エクリプスのミーティングにて、ナツメとシェリーは次の目標を個人戦である「シューティングスター」に定めたことを告げた。個人戦は、チームとしての連携よりも、純粋なアクトレス個人の実力とドレスの特性が問われる。
「私は、今回の出場は見合わせます。ミラージュとレギュレーションもかみ合っていませんし、いまは自身の腕を磨く必要があると思っています。あ、お二人のサポートはさせていただきますので頼りにしてください」
エリは決意をこめて宣言した。ナツメは今までのエリは言わなかったであろう、「頼りにしてください」という言葉を耳にして柔らかく笑った。
クルセイダーの調整補助をしている際、エリは意図せずナツメのコア共振率が63%であることを知ってしまう。エリ自身の共振率は86%あり、ナツメの数値はパシフィック校入学者の平均と比較しても目に見えて低い。コア共振率は、ドレスの出力に直結する重要なパラメータだ。自分よりも遥かに低い出力であれだけの戦闘を行い、リリアと互角に渡り合ったナツメに、エリは驚愕を禁じ得なかった。
数値がばれてしまったナツメは、苦笑いを浮かべた。
「チームで活動していれば、いずれ露見するとは割り切っていたが、まさかこんなに早くとはね」
ナツメはそう言うと、茶目っ気たっぷりに人差し指を唇にあて、「他の人にはナイショな?」とエリにウィンクした。その仕草に、エリは不覚にも胸がドクンと跳ねるのを感じた。
日が変わって、今度はシェリーのサポートをするエリ。トレーニングを終え、帰り支度をするシェリーは、不意にぼやいた。
「次のトーナメントでは、なるべく早くナツメと対戦できないものか」
エリは怪訝に問いかけた。
「なぜですか?チームに加入した時に戦ったきり、それほど月日は経っていないでしょう?」
シェリーは、その質問に不敵な笑みを浮かべた。
「あの時のナツメは、本気じゃなかった。少なくとも、ニューオーダーの決勝でアストラルと戦った時とはまるで違う」
一緒に戦い、その活躍を目の当たりにしたエリは、にわかには信じられない思いだった。あの激戦が、ナツメの全力ではないというのか?
シェリーはエリの戸惑いを感じ取ったように、尋ねた。
「エリ、あの戦いで、ナツメが一度でも我に直接攻撃をしたか?」
エリはハッとした。確かに、ナツメはアサルトライフルを構えていたが、有効打にならないから発砲しなかったのだとばかり思っていた。
改めてエリが記憶を辿って振り返ると、シェリーがいかに近接戦に秀でていると言っても、ナツメの技量であれば、ドレッドノートへ単独で有効打を繰り出すことは不可能ではないはずだ。それでもナツメは、エリの成長を促し、そして自分たちの真の力をエリに示すために、あの戦いでは援護に徹していたことを、今更ながら認識した。
「……そんな」
俯くエリに、シェリーは優しく笑いかけた。
「ほら、今だって一歩前に進めたじゃないか」
シェリーの言葉に、エリの心に温かい光が灯った。
いよいよ「シューティングスター」が開幕した。個人戦ならではの、一対一の真剣勝負が続く。シェリーのブロックはナツメとは別であり、二回戦で早々にリリアと当たることが決まっていた。個人戦であるこの大会に向けて、シェリーはドレッドノートの武装を、これまでの滑空砲から対空ミサイルへと換装させていた。しかし、空戦のトップエースであるリリア相手では、搭載したミサイルもわずかに決め手に欠ける。とはいえ、シェリーもリリアのハイドラの武装の中で、唯一ドレッドノートに致命打を与えるレールガンだけは、巧みに回避し続けていた。
5分という制限時間が迫る中、リリアは勝負に出た。地表すれすれまで高度を落とし、ドレッドノートに対して射線を合わせる。あえて相手の攻撃圏内に入ることで回避に専念させず、読み合いを仕掛けた形だ。
シェリーは、リリアが放つミサイルを迎え撃たれる中、レールガンの的を絞らせぬようにジグザグに走る。そして、騎馬突撃を思わせるような、ランスチャージをリリアのハイドラに放った。リリアは上空に宙返りするように躱すが、シェリーは鮮やかな手さばきで槍を翻し、回避したリリアを追う。紙一重で躱したかに思われたが、ランスにはアンカーが接続されており、ドレッドノートの手からすっぽ抜けたランスは、思わぬ射程と挙動でハイドラの左翼を捉えた。致命打にはならないが、片翼を損傷させるには十分だった。ハイドラはバランスを崩し、一時的に地に引きずり落とされた。
至近距離で手傷を負わされ、絶体絶命のリリア。猛然と迫るドレッドノート。勝負が決したかに思われた刹那、リリアは片方の翼のブースターのみを使って弧を描くように地面をスライディングする。ギリギリのところでドレッドノートの突進を躱し、その背後を取った。スライディングの際も、ハイドラの銃口をドレッドノートから外すことはなく、すれ違った瞬間、対応不可能なタイミングを狙いすましてレールガンを放つ。
このカウンターには、流石のシェリーも回避や反撃をすることはかなわなかった。
ドレッドノートに撃墜判定が下され、リリアが勝利を収めた。
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