第3話「隠せない変化」
【前回のあらすじ】
バスケの試合で異常なジャンプ力と底なしの体力を発揮した桐人。その超人的な活躍に、さくらとユリは疑念を抱き始める。
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翌日の放課後、教室で帰り支度をしていると、さくらが振り返って俺に話しかけてきた。
「桐人、昨日のバスケの件ですが……」
その表情は普段の穏やかさとは違い、何かを見通すような鋭さを帯びていた。
「ああ、あれか。まあまあだったろ?」
「まあまあどころではありません」
さくらの声が静かに響く。
「あのジャンプ力は尋常ではありません。身長190センチのセンターを軽々と上回るなど……」
(やばい、さくらの洞察力は侮れない)
「剣道パワーってやつだな。爺さんの特訓の成果が出てきたんだろ」
「桐人」
さくらの瞳が俺を射抜くように見据えた。
「私はお爺様の指導方法を熟知しています。あれほど短期間で身体能力が向上するような秘伝など存在しません」
(この子の眼力は本当に鋭い……)
「それに」
さくらは続けた。
「あの滞空時間、体力の持続力……まるで別人のようでした」
「別人は言い過ぎだろ。成長期だし、最近よく食べてるからな」
「桐人」
さくらの声が一段と低くなった。
俺の額に汗が滲む。
(このままじゃ、修学旅行のこと全部話さなきゃならなくなる。話題を変えるしかない)
「そ、そういえば今日は爺さんの予定はどうなんだ? 昨日行けなかった報告もあるしさ」
「……あからさまに話題を逸らしましたね」
(バレてる)
さくらは小さくため息をついた。
「でも確かに、お爺様なら今日は時間があるはずです。報告というのは、修学旅行での件ですか?」
「ああ、色々とな」
そこにユリが割り込んできた。
「あー、昨日のバスケの話? 桐人、確かにすごかったけどさ」
「ユリ」
さくらが振り返る。
「桐人の身体能力向上について、何か気づきませんでしたか?」
「そりゃあね」
ユリは肩をすくめた。
「でも最後のフリースローを、女子達の胸を見て外すとはね」
呆れたような表情で俺を見た。
「あれは不可抗力だ! 視野が広すぎるのも考えものなんだよ」
「言い訳にもなってないわよ」
ユリが苦笑する。
「まあ、桐人がちょっと運動できるようになったのは良いことじゃない」
「ちょっとどころではありません。あれは……」
「さくら」
ユリが遮った。
「桐人の秘密を探るのは、それくらいにしといたら?」
そう言いながら、カバンを肩にかける。
「あたしは今日は予定があるから、水前寺館には行けないけど、二人でゆっくり話してきなよ」
「え? ユリは来ないのか?」
「今日は用事があるのよ」
ユリは俺たちを交互に見た。
「さくら、あとは任せた」
そう言ってユリは教室を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、俺は一瞬、ユリの表情に浮かんだ何かを見逃さなかった。
(なんだろう、ユリの奴、何か隠してる?)
いつもなら、こういう時は絶対についてくるはずなのに。
「では、桐人」
さくらの声で我に返った。
「水前寺館へ参りましょうか」
「ああ……」
俺は内心でため息をついた。
さくらと二人きりでは、また追及されそうだ。
(でも、爺さんなら何か知ってるかもしれない)
* * *
水前寺館への道を歩きながら、俺は自分の手のひらを見つめた。
昨日のバスケでの異常なジャンプ力。
疲れ知らずの体力。
そして、相手の動きがスローモーションに見えた瞬間。
確実に何かが変わっている。
(でも、これが一体何なんだ?)
修学旅行での出来事———吸血鬼との戦い、青い光の剣、胸から湧き上がった熱い力。
あれから俺の身体は明らかに変化している。
「桐人」
さくらの声で我に返った。
「何だよ」
「修学旅行で、本当に何もなかったのですか?」
さくらの瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
嘘は通じない、そんな気がした。
「……爺さんのところで話すよ」
俺は観念したように言った。
「それに、爺さんが何か知ってるかもしれないしな」
さくらは小さく頷いた。
「分かりました。お爺様なら、きっと何か教えてくださるでしょう」
歩きながら、俺はもう一度自分の手を見た。
この手で青い光の剣を握り、吸血鬼を倒した。
その時から、俺の中で何かが目覚めた。
(この力は、俺を一体どこへ連れて行くんだ?)
夕方の風が吹き抜ける中、水前寺館の大きな門が見えてきた。
もうすぐ、何かが分かるかもしれない。
そんな予感がした。
【次回予告】
水前寺館で爺さんとの稽古を始めた桐人は、自身の異常な成長を実感する。以前はなす術もなかった相手と互角に渡り合えるようになっていた。そして明かされる大宮家の真実——剣術指南役の裏に隠された、血染めの爪牙と戦う緋滅組の存在。重要な話の最中、突如として響く来訪者の音が緊張を走らせる。
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