第5話「認められた実力」

第三章 桐人、剣に目覚める?(第5回)「認められた実力」


【前回までのあらすじ】

筋肉痛に苦しみながらも再び道場を訪れた桐人。そこには県警の剣道家たちが稽古をしていた。県警三位の強面おじさんに挑発的な態度を取った桐人は、さくらから学んだ足捌きで圧倒。果たして調子に乗った桐人の運命は?

———————————————————


『師範、お疲れ様です』


道場にいた全員が一斉に声を上げて礼をした。



入口の方を見ると、道着に着替えたさくらが歩いて道場に入ってきた。道着だというのに相変わらず揺れている。



(師範!?)



「さくら、お前、師範なのか」


道場にいた多くの者が俺に敵意のこもった視線を向けてくる。



(さくらの揺れている方に視線を送る者がいねえとはすげえな)



「桐人、何かやらかしたのですか」


さくらが困惑したような表情で聞いてきた。



「いや、そこの雑魚いおじさんに指導を受けただけだぜ」



「お爺様」


さくらが小声で呟き、咎めるような視線を向ける。



爺さんはわざとらしく咳払いをした。


「まあ、坊主の自己紹介を兼ねてだな」



(爺さん、急に威厳ゼロだな)



(さくら師範、そんな風に振り向くだけで揺れすぎです)



「桐人は昨日私から一本を取った腕前ですよ」


さくらが道場の皆に説明した。



「相手をさせては気の毒です」



(雑魚いおじさん、可哀想だな)



(さくらの一言は死体蹴りになってるんじゃ……)



     *  *  *


「皆の者、この坊主は、もし拙の弟子ならば師範代を名乗らせるほどの腕なんじゃ」


爺さんが大きな声で言った。



「さくらのクラスメイトなので、さくらに対する言葉遣いも多めにみてやってくれ」


爺さんはそう言ったものの……皆は納得していない顔をしていた。



「先輩は、少し油断しただけです」


若い警官が前に出た。20代半ばくらいか、引き締まった体つきをしている。



「私とやらせてください」


「いえ、館長、私に」


別の警官も名乗り出る。次々と挑戦者が現れる。



「さくら、俺はどうやらおじさんにはモテるらしい」



俺が冗談を言うと、さくらは苦笑いをしながら…………


「一人、一試合、三本勝負までなら許しましょう」



(マジか)



結局、俺は全員と勝負をすることになった。



一人目…………若い警官。スピードはあるが、動きが直線的だ。俺は横へステップして胴を取った。


「一本!」


爺さんの声が響く。


二人目…………中年の警官。パワーはあるが、大振りすぎる。カウンターで面を決めた。



三人目、四人目……次々と相手を倒していく。



(昨日の爺さんとの稽古が効いてるな)



体力配分も考えながら、無駄な動きを省く。



七人目あたりで…………


「はあ……はあ……」


さすがに息が上がってきた。



(くそ、やっぱり体力がもたねえ)



「桐人、無理しないで」


さくらが心配そうに声をかける。



「大丈夫だ、まだいける」



残りの相手も何とか倒し…………


最後の一人を倒したところで、俺は膝に手をついた。



「桐人、たった一日でこれほどとは」


さくらが感心したように言った。


「見込みがあるとは思っていましたが、想定の上をいきます」



「まあ、昨日ボコボコにされた甲斐があったってことだな」


俺は汗を拭いながら答えた。全身から汗が噴き出している。



「しかし、これで道場の皆も桐人の実力を認めたでしょう」


さくらが道場の面々を見渡す。



確かに、さっきまでの敵意に満ちた視線は—————


尊敬と驚きの混じったものに変わっていた。



「坊主、なかなかやるじゃないか」


最初に俺と戦った強面のおじさんが声をかけてきた。



「さっきは失礼した」


「いえいえ、こちらこそ」



(意外と素直な人だな)



「坊主、よくやったのう」


爺さんが満足そうに頷いた。



「皆も認めたようじゃな」


「さて、桐人」


さくらが声をかける。



「お爺様が何か話があるそうですよ」


「ああ、それなんじゃが……」


爺さんが竹刀を手に取った。



「その前に、坊主」


「昨日のことが悔しくて来たんじゃろう?」



(見透かされてるな)



俺は苦笑いを浮かべた。


「バレバレか」



「ふふ、顔に書いてあるわい」


爺さんが豪快に笑う。



全員を相手にした後で疲れているが……このチャンスを逃したくない。



「じゃあ爺さん」


俺も竹刀を構えた。



「お言葉に甘えて、もう一度お願いするぜ」


「では、昨日見せなかった技を一つ」



爺さんの構えが、今までとは明らかに違っていた。



道場の空気が張り詰めた。



【次回予告】

県警の剣道家全員を倒し、実力を認められた桐人。爺さんとのリベンジマッチで、ついに秘技が繰り出される。新撰組の天才剣士・沖田総司が得意とした必殺技。神速の技の前に、桐人はどう立ち向かうのか?

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