第21話:鋼鉄の胎動(2)
メリッサは、変わらずミレイスの裏社会にその身を沈めていた。
盗賊ギルドの支部が、いつの間にかメリッサの居場所になっていた。
盗賊ギルドの情報網を駆使し、故郷を滅ぼした黒狼と闇の宝玉の調査を続ける。
「よう、お嬢ちゃん。また来たのかい」
カウンターに座る、抜け目のない顔つきのギルドマスターが、メリッサの姿を認めて目を細める。
「災厄の石について、なにか面白い話は入ったかい?」
「……あんたも懲りないねぇ……」
ギルドマスターは、探るような目でメリッサを見つめる。
メリッサはその視線を真っ直ぐに受け止め、静かに、しかし燃えるような憎しみを込めて言った。
「私の命は故郷の仲間と一緒に置いてきた。だから、今さら失うものなんてなにもないんだよ」
その翠の瞳に宿る覚悟を見て、ギルドマスターはふっと息を吐いた。
「……あんたのその目を見てると、昔の自分を思い出すよ。まあいい、少しだけサービスしてやる。前に話した黒いローブの男。どうやら、最西にあるブレマダの息がかかってるらしいぜ。そいつが、古代遺物……特に、古代文字で書かれた石板や書物を集めてるって噂だ」
「ブレマダ……だって……?」
メリッサの顔色が変わる。
それも無理はない。
ブレマダには魔獣や悪人が集まる暗黒都市として有名だからだ。
そんなブレマダに闇の宝玉の本体があるかもしれない。
「だからあれほど言っただろ、首を突っ込むなと……。その様子じゃブレマダがどんな場所か知ってるんだろう?」
「あぁ……噂程度でならな……」
点と点だった情報が、メリッサの頭の中で不気味な線として繋がり始めていた。
メリッサはギルドマスターに礼を言うと、ギルドの奥にある訓練場へと向かった。
情報を得ただけでは意味がない。
それを活かすだけの力がなければ、復讐など夢のまた夢だ。
ブレマダの名前が出た以上、短剣だけではなく、小剣の使い方も徹底して磨いていく。
金で雇った盗賊を相手に、ダミーナイフや小棒を用いて、日が暮れるまで戦闘を繰り返していた。
(使える物はなんでも使う。目の前の敵さえ倒せればそれでいい……)
メリッサは技術だけではなく、盗賊らしい残忍さも磨いていた。
ミレイスの丘の上に立つ壮麗な魔術学院。
その一室で、カイはエルネスト学長の治療を受けていた。
カイの左腕にまとわりついていた禍々しい瘴気は、エルネストの生命魔術によって、確実に浄化されつつあった。
「カイ君。魔力とは、ただ呪文を唱え、現象を起こすための道具ではない」
エルネストは、カイの腕に手をかざしながら、静かに語りかけた。
「魔力とは、この世界に満ちる生命そのものの流れじゃ。風の流れを読み、水の流れを感じるように、世界の魔力の流れを、その身で感じ取ることが大切なのじゃ」
カイは、エルネストの言葉に導かれるように、目を閉じて意識を集中させる。
すると、これまで感じたことのない、暖かく、そして巨大な力の奔流が、自分の体の中を巡っていくのがわかった。
と同時に、目の前にいるエルネストの底なしの魔力も感じるようになった。
自分の魔力とエルネストの魔力とが共鳴し、溶け合っていく感覚。
「そうだ……その感覚を忘れるでない。それが、君の師であるトーマスが、そしてワシが若い頃に徹底していた、魔術の基本なのじゃよ」
治療の傍ら、エルネストはカイに世界の成り立ちに関わる古い伝承も語り聞かせた。
「傷が癒えたら、いくつか覚えておくと役に立つ呪文を教えよう。これからの旅できっと使うときが来る」
「はい、ありがとうございます!!」
カイは、エルネストの魔力をきっかけに、自分の周囲に漂う魔力の流れを視覚化し、そこから情報を読み取る「魔力感知」の能力にも目覚め始めていた。
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