4.夢の中で、誰のことを考えていましたの?

 ……お兄さま、起きてくださいまし。朝ですよ?

 日差しがカーテンのすき間から差し込んで……お兄さまの睫毛に、キラキラ乗ってる。綺麗。


 もう少し寝たいですって?

 今日が休日だからってダメですよ。

 お兄さまの一日、最初から最後まで全部、真姫のために使っていただきますから。


 お兄さま、寝汗……かいてらっしゃいますわね。夢を、見てらしたのかしら?

 ……どのような夢でしょう?


 もしかして……あの方と、デートしていたとか?

 あら、冗談でしたのに……図星でした?

 顔に出てますのよ、本当に。


 わたくしは夢の中にいなかったのですね……残念。

 昨晩、お兄さまの夢の中に入っていくつもりで囁いたのに。


 お兄さまの心の鍵……どこかに隠していらっしゃるのかしら。

 ねえ、見せてください。真姫の手をこうして、胸にあてて。


 ん……やっぱり、鼓動が早い。真姫のこと、ちゃんと意識してくださってますのね?

 お兄さま、真姫……もっと欲張りになってしまいます。

 こうして、頬に指を滑らせて……耳たぶをそっとなぞって……うふふ。お兄さま、反応が可愛いらしいです。


 わたくし、今朝はとても機嫌がいいんですよ。なぜだか分かります?

 それは……お兄さまと一緒にいて、あの方の香水の匂いが全くしないから。


 真姫、ずっと我慢してるのですよ?

 お兄さまのスーツに、あの方の香りがうっすら残ってるたび、心の奥がチリッと焼けるように痛んで……でも、お兄さまに嫌われたくなくて、何も言えなかった。ほんとうは叫びたかったのです。どうして真姫じゃ、ダメなんですかって。


 でも今朝だけは、こうして静かに……うふふ、わたくしだけのお兄さまを味わえる。

 それが嬉しくて、苦しくて、悲しくて……でもやっぱり、幸せなのです。


 ねぇ、お兄さま。

 このまま二人きりで……時が止まってくれたら、どれだけ楽なのでしょう。


 あの方も、結婚も、社会も、立場も、全て消えてしまって……真姫の囁きと、お兄さまのぬくもりだけ。わたくしは、それだけで構いませんのに。


 ねぇ、お兄さま……それでもやっぱり『妹』として接しますの?

 こうして耳に、唇が触れる距離まで近づいても?

 真姫の声に、喉が揺れてるの、感じてます?


 ふふ……可愛いらしいこと。


 お兄さま……お願いです。今日の一日は、誰にも渡さないで。

 スマホも、御用事も、外の誰かも、全部置いて……真姫だけを見てくださいまし。


 真姫のために笑って、真姫のために怒って、真姫のために息をして……そしたら、きっと夢の中でも……真姫だけを呼んでくださるから。


 お兄さま、真姫の髪を撫でるのが上手ですから。撫でられるたびに、心が蕩けて……ふふ、困りましたわ。だんだん、ただの『妹』に戻れなくなりそうです。


 でも、もうそれでいいんです、わたくしは。

 お兄さまが少しでも真姫に近づいてくださるなら……わたくしは全て、どこまでも、受け入れますから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る