3.お兄さまの心臓……わたくしにくださいませんか?

あらお兄さま、まだ起きてらしたんですの?

 こんな夜更けにひとりで書斎にこもって……もしかして、あの方とお話ししてましたの?


 返事ができないところを見ると、あら図星……ふふ、やっぱり。

 でもいいのです……真姫はお兄さまがどんな嘘をついたってわかりますし、それを許して差し上げますから。


 その代わりに……ん、お兄さまのお耳、あたたかい……脈が速くなってきた。かわいい。こうやって、そっと吐息をかけて……うふふ、ゾクッとしました?

 お兄さまって、ほんとうに正直。


 あのね、真姫……今日はちょっとだけ、夢を見てしまいましたの。

 お兄さまと手をつないで、並んで歩いて、誰からも『兄妹』だなんて言われない世界。ただの男と女。それだけで許される関係……でも、それって、お兄さまにとっては、悪夢なのかしら?


 ねぇ、遠慮せずに仰ってください。

 でもこうやって、耳元で囁かれるの、好きなくせに。


 ……ねえ、触れてもよろしいですか?

 お兄さまの胸の上に、そっと置いて……うん。すごく、しっかり脈を打ってる。


 これを真姫に、くれませんか?

 お兄さまの心臓。鼓動も、熱も、想いも、全部。真姫だけのものにしてほしいの。


 あの方には似合いませんもの。

 綺麗で、隙のない、完璧な器に……この、柔らかくて生々しい鼓動は、似合わない。


 それに、あの方は知らないでしょう?

 お兄さまが眠るとき、子供みたいにまつげが震えること。

 目が覚めた直後、指先で探るように布団の端を握るくせがあること。


 ……真姫だけが知ってるの。


 そういうのって『妹だから』知ってることではありませんのよ。

『愛してるから』気付けることなのです。


 真姫……ずっと、奪う覚悟でいますのよ。

 何を、って……うふふ、お兄さまの全て、ですわ。


 そのぬくもりも、吐息も、心の中の迷いも、あの方への罪悪感も。全部、真姫が引き受けますわ。だから……わたくしに、堕ちてくださいな。


 好き。

 大好き。

 ねえ、お兄さま。

 真姫では、だめですか?

 あの方じゃなくて……わたくしでは、いけませんの?


 ……そう。答えられないのですね。

 でもそれでいいのです。お兄さまが困って黙るときは……心が揺れてる証拠ですもの。


 では、今日はこのまま黙っていてください。真姫の声だけ、耳に残して。

 鼓膜に、吐息のしるしをつけて……お兄さまの眠りの中にも、わたくし、忍び込みますわ。


 今夜の夢は、真姫だけですよ……それで、いいでしょう?


 おやすみなさいませ、お兄さま。

 愛してます……心臓の音よりも深く、熱く。

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