第28話 広い、部屋
食事を終えて部屋に帰ると、俺はとりあえずソファに座った。
「ふぅ、ダイエットしないとと思いながら、ついつい食べすぎちゃったな」
一息吐いた後、お腹をさすりながら部屋をぐるっと見回す。
高そうな調度品もさることながら、この広い部屋に1人というのはなんとなく落ち着かない。
「どうしよう……」
ポツリと呟いた時、部屋のチャイムが鳴った。
「はい!」
俺は反射的に返事をして、ドアを開けに向かう。
ドアを開けると、来栖さんが困ったように笑いながら立っていた。
「なんか、部屋が広すぎて落ち着かなくて、山田さんがまだ寝ないならそっちに行ってもいいですか?」
「俺もどうしようか迷ってたところ。入って」
俺は苦笑しながら頷くと、来栖さんを部屋に招き入れる。
一般的な庶民としては考えることは同じのようだ。
部屋のソファに来栖さんと並んで座る。たったそれだけのことで、さっきまでの落ち着かない居心地の悪さを感じていないのが分かる。
『——もうちょっと近い方が良いかも』
ふと、いつだったか来栖さんが言ったことを思い出した。家はデカくて広い方のが良いのかと思っていたが、そうでもないらしい。
「山田さん、一つ提案なんですけど……」
来栖さんの言葉で、考え事をしていた頭が現実に引き戻される。
「どうしたの?」
「お家の部屋あんまり大きすぎない方が良いと思うんです」
「うん。俺もそう思ってた」
来栖さんの提案に即答した。
結局、俺は急にお金を持っただけの庶民で、金持ちの暮らしは性に合わないのだろう。
「でも、たまの贅沢が嫌なわけじゃないんですよ? 今日のご飯は美味しかったし!」
「うん、目の前で作ってもらうの凄かったね」
「はい! とっても楽しくて、いつもより沢山食べちゃいました!」
思い出しているのか、来栖さんは幸せそうに微笑んだ。
「食べすぎちゃって、お腹ぽっこりになっちゃいましたよ」
来栖さんがそう言ってお腹をさするのを見て、ついそっちに視線がいってしまう。どう見てもぽっこりしているようには見えない。
(俺に比べたら……)
「あ、どこ見てるんですか? ……えっち!」
俺が自分の腹に視線を移動させようとした時、俺の視線に気付いたのか来栖さんが腕を使って体を隠すようにしてそう言った。
「ちっ違うんだ。今のはですね——」
慌てて手を振る俺を見て、来栖さんはクスクスと笑う。その様子に揶揄われているのだと気づいて俺は苦笑する。
「お嬢様、ここにルームサービスのメニューがあるのですがアイスなどいかがですか?」
とはいえ、あの話題は危険なので、話題を変えるために俺はテーブルの上のメニューを手に取った。
「もう、お腹いっぱいって話をしてるのに……」
「だよね……」
「でも、いらないとは言ってませんよ? どんなのがあるんですか?」
どうやら、甘いものは別腹というやつだ。さっきもケーキ食べてたなんて言って、新しい地雷を踏まないようにしよう。
「うーん、季節のジェラート、ピスタチオもいいなあ。山田さんはなに頼みますか? 美味しそうなのたくさんあるから分け分けしませんか?」
どうやら俺が頼むのも決定らしい。
「俺はサッパリしたやつのが良いかな」
「ふふ、いつもですよね。それじゃレモンソルベ?」
「でも他のやつも気になるなあ」
来栖さんが提案してくれるが、どんなのがあるのか気になって来栖さんが持ったメニューを覗き込む。
その後、ルームサービスが運ばれてくる時だけ緊張して借りてきた猫のようになりつつも、俺と来栖さんは眠くなるまでいつもと違う豪華な部屋で楽しく過ごしたのであった。
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