第26話 悪役(勘違い)は女たらしである

 外の景色が見える窓からは遠く離れた、店の奥の目立たない席。

 そこに、俺たち4人は腰を下ろしていた。


 席順は自然と決まった。

 俺の隣にはシェフィ。

 向かい側にはクロラとティアナ。

 

 これからも一緒に食事をするなら、この配置が定番になるだろうな。

  

 料理はというと、クロラが頼んだものと同じものを皆で注文してみた。

 だって、絶対美味しいだろうし。

 

 料理が届くのも楽しみだが……。


「それにしても、いい雰囲気のお店だな。ゆったり、落ち着けるな」

  

 店内は広めだけど、席数は少なめ。

 派手さはなく、落ち着いた雰囲気のいいお店だった。


 クロラの移動魔法で飛んできたから、ここがどこかは正確には分からないけど……。

 街外れにひっそりと佇むお店ということは見て分かる。


「は、はい……。ここは街外れでお客さんもまばらで静かですし……。ご夫婦で営業されていて、接客も明るく優しくて……それに料理もすごく美味しいんです」


 クロラは少し緊張したように、それでも明るいトーンで語る。

 

 その様子から、この店が本当にお気に入りなのだと伝わってきた。


「そんなお店に俺たちも招待してくれてありがとうな」

「い、いえ……っ」


 柔らかく笑いかけたつもりが……クロラは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。

 

 ふむ……ちょっとぐいぐい話しかけすぎたか?


「ん。アーク、さっきからクロラに優しい。……まるで口説いてるみたいに」

「アーク様……何をお考えか分かりませんが、わたしは隣をそう簡単に譲るつもりはありませんよ?」


 ふと、ティアナとシェフィが険しい顔をしているのに気づく。

 2人とも、どうしたんだろ?


「お待たせしました〜。日替わり定食です!」


 そんな中で店員さんもとい、奥さんが料理を持ってきてくれた。

 

 大きな平皿にはポークステーキがドンと乗せられていて、良い香りを漂わせている。

 木の器には、具材ごろごろのクラムチャウダー。

 彩り豊かなサラダも並び、テーブルが一気に華やかになる。


「おお、美味そう……」


 お腹も一気に空く。

 食堂のご飯も美味しかったけど……ここも絶対美味いだろっ。


「ふふ、君、可愛い反応をするのね」


 顔を上げれば、奥さんが俺を見てくすりと笑っていた。


「それに、いつも1人で来るクロラちゃんが男の子とその付き添いの女の子たちを連れてくるなんて……もしかして、彼氏かしら?」


 お? どうやら俺のことをクロラの彼氏と勘違いしているみたいだ。


 でも、2人で来ているならまだしも、他にも女の子が2人もいて彼氏って間違えることもあるんだなー。


「ん、アーク。早く否定して」

「アーク様、間違いは早めに訂正なさってください」


 ティアナとシェフィが眉間にシワを寄せ、妙なプレッシャーをかけてくる。


「あ、ああ……。俺とクロラは恋人関係じゃないですよ。ただ……俺はクロラと友達から始めたいと思っていますから」

「っ……!」

 

 クロラの肩がびくりと震えた。長い前髪から見える肌は少し赤く染まっている。


 クロラとは友達になりたいというのは本当だからな。

 悪役だけど、友達として彼女が闇落ちしないようにサポートしたい!


「そういえば、クロラ。俺のこと、まだ名前で呼んだことなかったよな? 俺のことは、ティアナみたいに様なんて付けずに気軽に呼んでほしいな」

「え、あっ……その……」

「ゆっくりでいいよ」

「え、ええっと……アーク、くん?」

「お、いいな! くん付けな。じゃあ俺はクロラって呼び捨てのままにしようと思うけどいい?」

「は、はいっ」

「ありがとう、クロラ」


 よし、本人の許可も取れたことだし、今後もクロラ呼びでいこう。


「あらあらあらあらあら〜〜っ」

 

 奥さんが口元を押さえ……それでもニヤニヤしていることが分かる。

 楽しげな様子でこちらを眺めていた。


「雰囲気はお熱いけれど、お料理が冷めちゃうわね。ごめんなさいね、邪魔しちゃって。ごゆっくり〜」


 そうして、奥さんは去っていった。

 

 常連のクロラが他の人と話していることがそんなに珍しかったのかな?


「アーク、それ否定になってないから」

「アーク様は女たらしですね……」


 ティアナとシェフィには何やら険しい顔を向けられたのだった。

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