第27話 悪役(勘違い)の将来は心配いらない

「ご馳走様でしたー!」


 ぱん、と両手を合わせて食事を終える。

 

「満足満足っ。お腹いっぱいになったな〜」

「ん、アークの食べっぷりは今日も良かった」

「アーク様は美味しそうに、たくさん召し上がりますからね」


 ティアナとシェフィが微笑みを浮かべながらそう言う。


 クラムチャウダーとサラダはおかわり自由。それに追加で、パンやパスタも食べた。

 全部美味くて、最高だった!

 

 家では食事制限をしているが、外に出た時くらいは好きなものを好きなだけ食べると決めているからな。


「あ、アークくんって……すごい食べるんですね……っ。珍しい……」


 クロラがそんな声を漏らした。


「まあ、食べ盛りだからな! 男なら普通のことで……」

「い、いえ……普通の男の人は、そんなに食べないかと……」

「へっ?」


 思わず、間抜けな声が出た。

 

 この世界の男たちのことだろう? 

 男女比1:9とはいえ、別にそれ以外は何も変わっていないはずだ。

 男……しかも男子高校生となれば、食べ盛りなもんだろ?


「ん、ある意味アークは食べ盛りの男で間違いない」

「アーク様を分からせるとなると……15歳の成人を迎えた今がちょうど良い頃合いですからね」

「ん、しっかり分からせた後は、責任を持って幸せにしてもらう」

「アーク様は子どもは何人ぐらい欲しいのでしょうか?」

「ん?」

 

 ティアナとシェフィが、さっきから何かをこそこそと呟いている。

 しかも、やけに真剣な顔で俺の方をじっと見つめているじゃないか。


 なんだろう、そんなに俺を凝視して……?

 まさか、さっき食べたパスタのソースでも口元に残ってるとか?


 俺は紙ナプキンを取り、口をゴシゴシと拭った。


 全員が食事を終えたものの、クロラの空間魔法があるため、ギリギリまでこの店でゆっくりしていくことになった。


 やっぱり、空間魔法って強いよな。


 話題は自然とペア試験のことへ。


「しかし、来週終わったらもうペアでの試験かぁー」


 俺は椅子に背を預けて、腕を組んで言う。


 しかも、課題がまだ発表されていないし、発表される素振りもない。

 ここまで隠されているあたり、きっと当日になって初めて明かされるパターンだろうな。


「ん、ペアでの試験は余裕。ペアもクロラだから心配はない」

「て、ティアナちゃん……。で、でも、私は空間魔法しか使えなくて……。試験の内容によっては全く役に立たないと思うし……。試験じゃなくても、普段から私はあまり役に立ったことがないし……」


 クロラが身体を縮こませる。


 そんなクロラに俺は思わず声をかけたくなったが……。


 ティアナがすぐに首を横に振り、口を開いた。


「ん、それは私にも言えること。お互いに補ってこそのペア試験だと思う。だからよろしくね、クロラ」

「ティアナちゃん……。う、うんっ。ありがとう」


 励ますように真っ直ぐ言い切るティアナの姿に、クロラは感極まったようにこくこく、と何度も頷いた。


 ティアナは普段、無表情気味で感情を表に出すことは少ない。

 けれど、こうして誰よりも強い言葉で人を支える。

 その真っ直ぐな態度こそが、ティアナの強さなんだろうなと、俺は改めて思う。


 ……そういや、クロラって小さい頃のティアナにちょっと似ている気もするんだよなぁ。


 俺が出会った頃のティアナは、おどおどしていて、お母さんとか背に隠れていることが多かった。 

 今の堂々とした姿からは想像もできないだろう。

 ティアナは成長したんだよな〜。


「アーク様、わたしも足手纏いにならないよう頑張りますから」


 シェフィも感化されてか、そう言ってくれた。


「おう、俺も頑張るからな! それに、そんな気負わずに落ち着いていこうぜ。俺はシェフィが隣にいてくれるだけで安心しているからさ」

「アーク様……わたしも同じ気持ちです」

「なら良かった」


 ニカッと笑って見せると、シェフィも頬を綻ばせた。


「試験は多分、1年生全員が同じ場でやるんじゃなくて、クラスごとに同時開催されると思う」

「共通課題ってことか……」


 ティアナの言葉を聞いて俺は呟く。


 ペアがクラスメイト同士で組まれていることを考えれば、その可能性は高いよな。

 全員まとめて大規模にやるより、クラスごとに区切った方が先生たちもやりやすいっていうのもあるだろうし。


「だから、私たちは敵同士じゃない」


 ティアナが真っ直ぐに俺を見つめた。

 

「……そうだな。なら、安心だ。でも仮に敵になったとしても……俺は容赦しないからな」


 やるからには本気で挑む。 

 

 ティアナもまた、薄く笑みを浮かべながら頷いた。


「ん、それでいい。本気でなければ意味がない」


 お互いの視線がぶつかり合い、ほんの一瞬だけ、火花が散ったような気がした。


「ん、もしアークが退学になっても私が一生養ってあげるか心配しないで」

「いや、それはなぁ……」

  

 俺、どっちかと養いたいしなぁ。


 女遊びするとしても、ヒモになるつもりはない。

 俺が稼いだお金で女の子たちに楽しんでもらいたいし、それが男のロマンってやつだろう。


「アーク様。わたしも養う準備はできております」

「準備ってなに!?」

 

 シェフィまで当然のようにそんなことを言う。

  

 いやいや、俺、そんなに退学しそうな雰囲気ある?

 それなりに強いと思うんだけどなぁ……。


 悪役転生したから破滅フラグを折まくるとはいえ、将来のことも考えないといけないよなぁ。


 俺は将来安泰がいいなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る