第4話 あの美人

  雲妙紫(うん・みょうし)は、その容貌が絶世の麗しさで、気質は冷たく清らか、月宮の仙女のようだった。二人は宗門共同任務で知り合った。


当時、徐令(じょ・れい)は絶頂期にあり、雲妙紫も彼に好意を抱いていた。両宗門の上層部の意図的な取り持ちもあり、加えて雲妙紫が修行していた『清心玉女経(せいしんぎょくじょきょう)』は結丹(けったん)前に処女の体を保つ必要があったため、二人は名目上の「双修道侶(そうしゅうどうりょ)」の契りを結んだ。


いわゆる双修とは、真の陰陽和合ではなく、むしろ互いの功法の特性を借り、霊力を交融させ、相乗効果を図り、結丹時にさらなる助力を得ることを目指すものだった。


  当初、二人は互いを敬い礼を尽くしていた。徐令は雲妙紫の功法が自身の瓶頸突破に潜在的な助けとなることを重視し、雲妙紫は徐令の天賦の才と将来性に傾倒していた。しかし、運命の転機は突然訪れた。


ある秘境探索で、雲妙紫が珍しい「星魄草(せいはくそう)」を奪い合う際、禁制(きんせい)を誤って触れ、反噬(はんせい)を受け、走火入魔(そうかじゅうま)に陥ったのである。


命は救われたものの、根基(こんき)は深刻な損傷を受け、経脈(けいみゃく)は鬱結(うっけつ)し、それ以来、彼女の修為はほとんど停滞し、生涯結丹の望みは絶たれた。築基期(ちくきき)の修為を維持できるだけでも奇跡だった。


  凶報が届くと、月影門門主・雲霆(うん・てい)は怒りと心痛に震えた。根基を損なった雲妙紫が、修行の道ではもはや廃人同然であることを彼は深く理解していた。


そして徐令、この前途洋洋たる天霊根(てんれいこん)の男――将来は元婴(げんえい)も期待され、どうして修行の助けにもならず、むしろ足手まといになる可能性のある道侶に縛られていられようか?


  巨大な危機感と娘の未来への憂いから、雲霆は極めて利己的かつ横暴な要求を突きつけた:当時すでに築基後期の頂点に達し、いつでも結丹に挑めそうだった徐令に、突破を一時停止させるよう、風霊宗の上層部に要求したのだ!


徐令に心魔の誓い(しんまのちかい)を立てさせ、雲妙紫を二十年待たせるよう求めたのである!もし二十年内に雲妙紫が逆天の機縁を得て根基を修復し、築基を突破できれば、二人の道侶の契約は継続する。もし二十年后にも雲妙紫が突破できなければ、その時初めて徐令は自身の修行の道を再開してよいというのだ!


  この要求が明らかになると、徐令本人が雷に打たれたように震撼したのは言うまでもなく、月影門と関係が良好だった風霊宗の上層部でさえ騒然となった。


二十年!築基後期の修行者にとって、これは結丹に挑み、大道の基礎を固める黄金期だ!天霊根に二十年も待たせる?これはまさに人の道を断つ行為に等しい!風霊宗が、自宗の前途洋洋たる中核弟子を犠牲にして、月影門の私情を成就させるわけがなかった。


  しかし雲霆の態度は強硬で、暗に脅しを含んでさえいた。風霊宗上層部は、情面と潜在的な衝突を考慮し、最終的に「事態を曖昧にする」態度を取り、問題を徐令本人に押し付けた:


「これは門内弟子の私事であり、道侶の契約に関わること。宗門の長老が強制介入するのは不便である。徐令自身に判断させるがよい」。


  プレッシャーが山のように前世の徐令の肩にのしかかった。


  一方には、拒否を期待しながらもはっきり言えない宗門の思惑。もう一方には、雲霆の冷ややかな脅しと雲妙紫の無念の眼差し、そして二十年という貴重な歳月の代償…その期間、彼は心が引き裂かれる思いで苦しんだ。


  そして最終的に、前世の徐令は選択を下した。執事堂の大殿に立ち、顔を蒼白にして怒る雲霆と沈黙する雲妙紫を前に、彼の声は明確で、冷たく雲霆の要求を拒絶した。


  「大道は無情(むじょう)、仙路(せんろ)は争いの道。弟子・徐令(じょ・れい)、私情をもって公義(こうぎ)を廃し、ましてや己が道程(みちのり)を賭け、二十年の歳月を空しく費やすことを敢えて致しません。


妙紫師妹(みょうし・してい)の件、弟子は深く心痛しております。然(しか)れどもこれは弟子の過ちではなく、弟子の責任でもありません。道侶の契りは名ばかりのもの、本日…ここに終わりに致します。」


  その瞬間、雲妙紫の瞳にあった最後の一筋の光さえ完全に消え、灰燼(かいじん)のような冷たさだけが残った。


雲霆は怒りのあまり笑い出し、徐令を指さして言った。


「良かろう!『大道は無情』とはよく言った!徐令、今日の辱(はずかしめ)、我ら月影門は忘れぬ!いつの日かお前が絶頂に登っても、今日の『道義』を忘れるな!行くぞ!」


  彼は袖を翻し、魂が抜けたような娘を連れて去っていった。後に残されたのは、広間いっぱいに広がる静寂と、徐令(じょ・れい)の胸中に生まれた複雑な虚無感だった。


  気がつくと、徐令はすでに自身の精舎の入口まで歩いていた。空気のひんやりとした感触が、彼をぼんやりした状態から現実へと引き戻した。


  この生涯、絶対に女と関わりを持たぬぞ!彼は固く誓った。扉を押し開け、外界の喧騒を完全に遮断した。


  しかし、束の間の静けさの下で、差し迫った現実の問題が徐令の前に立ちはだかっていた。


  築基(ちっき)である!


  修仙界(しゅうせんかい)の境界レベルは、上・中・下の三つの大境界に分けられる。そのうち下位の境界はさらに:煉気(れんき)、築基(ちっき)、結丹(けったん)、元婴(えんえい)、化神(かしん)に区分される。人界の修士が到達しうる最高レベルは化神であり、中位の境界の修行を続けるためには、必ず霊界(れいかい)へと飛昇しなければならない。


  徐令の当面のところ、築基より先のことを考える必要はまったくなかった。

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